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2014-06-14

[]若田部昌澄「経済学史の窓から」in『書斎の窓』2013年7.8月号から現在まで連載中 若田部昌澄「経済学史の窓から」in『書斎の窓』2013年7.8月号から現在まで連載中を含むブックマーク

 『書斎の窓』は毎号頂戴するのだが、実はまったく読んでなかったw。ところがこの前、若田部さんにお会いしたときに連載が始まって一年近く経つということをお聞きし、あわてて読みだした。経済学史の主要な話題をほぼ時系列に即して毎回ワンテーマで展開。時事的な話題と関連させたり、また最新の経済学史の研究成果を精力的に取り組んでいて、経済学史の入門として最適の連載でしょう。かっての名著『経済学者たちの闘い』を思い出しますが、現在のそれは10数年前と違って落ち着いた重厚な語り口になっていて、時の流れも個人的には感じましたw。

 個人的に特に面白い回は、第一回の「アダムスミスの夢:経済学者は公平な観察者たりうるか?」。簡単にいうと経済学者は「公平な観察者」ではなく私的利害で発言しているのでは(少なくともそれと矛盾しない客観的発言しかしない)?という問題が、スミスの観点なども交えて提起されています。これはやはり若田部さんが政策論争や実際の政策をみて感じた問題意識でもあるのでしょう。この視点はこの連載の中で一貫して流れているもので、まさに「政治経済学」的視点からの経済学史になっていると思います。

 第二回「サラマンカ学派は最初の経済学者たりえたか?」には少々驚きました。まさかスペインサラマンカ学派の話題を最新の研究成果とともに読むことができるとは。僕も10数年前に飯塚一郎『貨幣学説前史の研究』を購入し、そのサラマンカ学派と江戸時代の三浦梅園の貨幣論と比較したこともありました。第四回と第五回の重農主義と重商主義を扱ったところは、現代的な話題ーTPPなどーにもつながる点でも興味深いですし、また勉強になる点が多々あるこの連載のいまのところの白眉となるところだと思います。あくまでも個人的趣味ですがw。

 第四回「重農学派が発見した秩序とは何か?」。重農学派は農業を重視していたが、他方でその農業促進のために自由貿易の利益も唱えていた(それがフランスでは「自然」だと信じていた)。ケネーの認識論の指摘ー人間は「自然の法則」に従うー、それは人間経済には自然の秩序があるという認識のありようだった。これはケネーの経済論を規定する。ケネーのモデルはいろいろな限界があるが、モデルをつくる効用のひとつはモデルがあればどこが間違っているのかわかりやすいことにあるとケネーは指摘してもいた。

 第五回「なぜ重商主義はいまだに生き残っているのか?」はさらに面白い。これはTPP賛成派やTPP反対派についてのそれぞれが自説を支持する「動機」の一部を解明することにもつながるかもしれない。重商主義の魅力は、近代国家という前提にある。「その政策が正しいか正しくないかはともかく、近代国家を枠組みとして考えるときに、一国が豊かになるには他国との取引で貿易差額を増やすことであるという主張は「わかりやすい」」。さらに若田部さんはさらに重商主義が魅力的でなかなか死滅しない理由に、トレード(貿易、交易)をめぐる複数の理想と現実をみます。

 トレードの現実は血塗られている(=グローバル化は多くの戦争、侵略、抑圧、虐殺をともなった)⇒重商主義はこの血の闘争への防御術として考案されたかもしれない。しかしスミスも同じトレード感をもっていたが、その原因は重商主義であったことで決定的に異なる。

 他方でトレードのもつ互恵性、トレードがむしろ平和で豊かな洗練された社会をもたらすというビジョン(「温和な商業」)にたつのがヒューム

 トレードのふたつの道に明快な回答は難しい、と若田部さんは指摘し、その上で「国益なり、国家理性とはいったいいかなるものか」という問いを提起します。そのときに重商主義の代表者トマス・マンを例示します。マンはイングランド王国は国の富みをもたらす貿易商人を保護するのが国益だと主張。しかしこのマン自身がその貿易商人だった。そのときこの連載第一回で話題になった問題ー経済学者の主張と私利との関係ーが論点になる。そしてこの問題はまたスミスの重商主義批判の基礎でもあった。

 「TPPをめぐる議論においても、その背後では様々な利益団体の利害が渦巻いていることはいうまでもない。それゆえ自由貿易には原則として賛成しながらも、特定集団への利益誘導を警戒する観点からTPPを批判することは可能である…………しかし、同じことは反対論にもいえる。TPPに反対する側が国益を持ち出してくる場合も。それは何らかの個別利害を求めているのかもしれない」

 重商主義の問題は現代の経済政策を考えるときに何度も考察に値する論点でしょうね。若田部さんの連載は2014年からの分は以下のサイトで読むことができます。最近でもリカードの機械論の現代的意義を解説し刺激的です。

http://www.yuhikaku.co.jp/shosai/backnumber

以下では連載で僕個人が気になった文献を紹介。若田部さんが言及してないものも含む(自分の備忘録かねてなので)。

The Physiocrats and the World of the Enlightenment

The Physiocrats and the World of the Enlightenment

[]金子洋一参議院議員による黒田日銀総裁への質疑in財政金融委員会(5月15日)のまとめと感想 金子洋一参議院議員による黒田日銀総裁への質疑in財政金融委員会(5月15日)のまとめと感想を含むブックマーク

 遅れて申し訳なかったですが、金子洋一議員の財政金融委員会での黒田日銀総裁への質疑応答ですが、動画を拝見したり、ネットの評判などを見ました。現段階でこれほど深くポイントをついた質問ができる国会議員は、金子さん含めてほんの数名だと思います。そういう議員の方々は、日本の本当の財産だと思うので、党派や政治的信条に関係なく僕は応援したい。また今回は、黒田総裁とのやりとりは非常に興味深く、ぜひ動画で該当する部分を見ていただきたい。

 以下のサイトで委員会名、日付を選び、発言者で「金子洋一」を選ぶと動画がみれます。

http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php

金子議員の質問の要旨

1)日銀は金融政策の現状維持を継続しているが、その判断の基礎は何か。特に日銀は現在の日本経済需給ギャップゼロに近づいていること、つまり潜在GDPの水準に近いという判断に立っている。しかし他方で実質経済成長率をみると直近で0.8%も縮小し、他方でコアコアCPIをみれば0.7%。潜在GDPの水準に近いとはいえないのではないか。規模が4兆円ほど縮小し、他方で物価の急速な上昇は観測されず歩みが遅い。また潜在成長率の推計は多々あるが、日銀は内閣府とは異なる。特に日銀の推計の仕方だと景気がよくなると一気に潜在成長率が低下し、他方で悪化すると一緒に上昇する。

⇒黒田総裁の答弁は、日銀の潜在成長率の推計は労働や稼働率などをみて推計している。また黒田総裁はここでフィリプス曲線を持ち出し、その曲線からいうと現在の物価の上昇率と失業率の変化とはそれほどおかしいものではない、と指摘している。ここはなかなか、日銀の伝統にはない答弁。

2)日銀は追加緩和についてもっと強い姿勢を打ち出すことがいいのではないか? 日銀の姿勢が株式市場などに好感をもって迎えられるのではないか?

⇒黒田総裁の答弁:追加緩和は躊躇しない。株式市場については言明さけるが、ただ中長期的には将来の企業収益の見通しで動くのでその点は日銀は注視している。

3)POSデータを集計をする東京大学消費者物価指数をどう思うか? 内閣府と日銀双方への質問。

内閣府:同指数の特性。カバレッジの狭さ、下方バイアス、速報性

⇒日銀:同上

4)東大指数は低位安定している中での消費税増税。景気への懸念あり。特に政府増税対策で予算の前倒し消化をしている。そのため今年の前半は景気が保てても、予算が切れる今年終盤には景気悪化するのではないか? その悪化を見ずに、今年の秋ごろに10%の消費増税の判断をすると、ちょうど景気が悪い時期に増税が重なるのではないか?

麻生財務大臣財務大臣の答弁、いったい何いってんだかよくわかんね(笑)。たぶん様子見。

全体の感想:金子議員のポイントをついた質問に、黒田総裁がフィリプス曲線を持ち出すなど面白い切りかえしがあった。また日銀の現状の判断基礎がこの点からも少しわかってきている。問題は政府の態度がよくわからないことだ。様子見していることはわかったが、他方で予算消化のスピードが速いことを認めつつ、その効果も限定的に理解している? よくわからない。金子さんにはぜひこれからも機会を見つけて日銀・政府経済政策の基礎を追求していっていただきたい。少なくとも黒田総裁は打ち返すつもりではいるようだ(好意的すぎる?)。