コラム:世界に新たな対立軸、中国とブラジルが水面下で激突
しかし、こうした両国の「シナジー効果」に騙されてはいけない。両国とも表立っては認めないが、水面下では緊張が高まりつつある。ブラジルは中国を名指しで批判することは避けているが、それは必ずしも両国が良好な関係にあることを示すものではない。むしろブラジルが中国批判を避けていることこそ、両国関係が複雑になりつつある実態を現している。
では、経済的「シナジー効果」を見せる両国にどんな問題があるというのか。ブラジルの航空機大手、エンブラエル(EMBR3.SA: 株価, 企業情報, レポート)の例を見てみよう。10年ほど前、中国は自国への投資を増やせば、同社の生産は拡大し、売り上げも伸びると約束した。エンブラエルは中国でビジネスは続けてはいるが、事業拡大計画は依然として「離陸」していない。中国政府は当初、エンブラエル製の航空機を導入する国内の航空会社にインセンティブを支払うとしていたが、そうした約束も遅々として進んでいない。
さらに中国国営企業とエンブラエルの合弁事業が手掛けた短距離輸送機は、エンブラエルの機体に驚くほどそっくりなのだ。エンブラエルは、中国ではいとも簡単に知的財産が吸い上げられ、投資上の協定は破られるということを目の当たりにすることとなった。
両国間の対立で最も根深い問題は、ブラジルの製造業が中国の安価な輸入品に押されていることだ。その結果、ブラジルの製造業は国内のみならず国際市場でも競争力がそがれている。ブラジルのルセフ大統領は、特定の工業製品に関税をかけることで対応した。中国を名指しこそしなかったが、中国を念頭に置いた措置であることは明らかだ。ルセフ政権はさらに自動車工場など中国に打撃が最も大きい分野を保護する法律を施行した。中国の成長が続くにつれ、両国の製造業がスキルを持った労働力を呼び込もうと競り合う可能性が高まっている。
こうした両国のせめぎあいは、アフリカ大陸でも見受けられる。このところメディアは、中国がアフリカで投資を拡大していることに注目しがちだ。一方で、ブラジルがアンゴラやギニアビサウなど、ルゾフォニアと呼ばれるポルトガル語を話す国々との関係を強化していることは、あまり伝えられていない。
ブラジルの急速な経済成長と、国有企業の積極的な進出により、これらの国々との関係は一段と深まっている。石油大手ペトロブラス(PETR4.SA: 株価, 企業情報, レポート)はアンゴラの石油市場で主要な位置を占め、資源開発大手のヴァーレ(VALE5.SA: 株価, 企業情報, レポート)はモザンビークで世界有数の炭鉱開発に携わっている。アフリカの主要な投資家という中国の立場をブラジルが脅かしつつあることも、両国の競争に拍車をかけている。中国が資金力で勝ることから、ブラジルの企業や政府関係者は中国の「小切手外交」を、同国の権益に対する潜在的脅威とみなしている。
ルセフ大統領は経済問題に焦点をあてるように、外交政策のスタンスをわずかながら変更した。こうした政策変更は、すでに述べた問題で両国の対立を激しくすることは必至だ。ルラ前大統領は「南々協力」を推進したが、現大統領はむしろ中国からの輸入品にあえぐ国内産業の救済に力を入れており、結果として中国に対する姿勢は冷ややかだ。
BRICSは自前の開発銀行を設立するなど協力関係を見せているが、実際はそれほど仲のいい家族というわけではない。国際社会でリーダーのいない「Gゼロ」の世界では、各国間の競争は激しく、利益や優先順位は大きく異なる。共有するイデオロギーもなければ、政策もゴールもバラバラだ。 続く...
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