南三陸の記憶に触れて 鈴木さん、民宿跡地に私設資料館
宮城県南三陸町戸倉に私設の「波伝谷(はでんや)高屋敷ふるさと資料館」が開館した。東日本大震災まで同地区で農漁家民宿「かくれ里」を営んでいた鈴木卓也さん(42)が、被災前の懐かしい古里の風景や津波の惨状を記憶にとどめてもらおうと整備した。
津波で流失した民宿の跡地に約50平方メートルの小屋を設置した。鈴木さんが撮影した写真約150点を中心に、がれきの中から見つかった民宿の看板や棟札などを展示する。
震災前の写真には落ち着いた漁村集落だった波伝谷地区の街並みや暮らしぶり、行事の様子が住民の視点から優しく写し出されている。一方、被災直後の写真からは、更地が広がる現状では想像しにくい破壊のすさまじさ、津波の恐怖が伝わってくる。
環境調査の仕事に就く鈴木さんは震災後の生態の移り変わりなど地域の自然に関する展示にも力を入れる。資料館の隣にはビオトープを造り、津波による環境の変化で復活した希少な湿性植物を観察できるようにした。
民宿に使っていた建物は、地区で高屋敷と呼ばれた1910年建築の養蚕農家で、往時の母屋養蚕の歴史をしのぶ貴重な構造を持っていた。付属の蚕舎では波伝谷高屋敷民俗資料館の名称で養蚕や漁業の道具など約500点を展示していた。東北歴史博物館や東北学院大の民俗調査の拠点としても使われた。
津波で流出した資料は約50点を回収した。東北歴史博物館が保存処理を進めており、完了後は資料館で展示する予定。鈴木さんは「津波が来る前、波伝谷にあった日常の風景を思い出すよすがになればと思う。展示の充実にも取り組む」と話した。
開館は不定期。入場無料。連絡先は鈴木さん090(7323)4633。
2014年06月15日日曜日