(英エコノミスト誌 2014年6月14日号)
イラク第2の都市が武装組織の手に落ちた。この組織は、世界中でジハードを遂行する拠点となる国家の樹立を目指している。
イラク軍はモスルで完敗を喫した。兵士たちが街中で制服を脱ぎ捨て、逃げ出したほどだ。あとには、燃え尽きた装甲車の間に遺体が散らばっていた。手足を失った遺体もあった。
ジハード(聖戦)主義組織「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」の約1500人の武装集団が、イラク軍の15分の1以下の兵力であるにもかかわらず、軍用ヘリコプター「ブラックホーク」6機を奪ったほか、モスルにある銀行の金庫から莫大な金額を略奪したと報じられている。
彼らはモスルの刑務所にいた数千人の受刑者も解放した。ジハードの黒い旗が行政機関の建物の上に掲げられるなか、50万人に上る住民が安全な場所を求めて街から逃げ出した。
米軍の最後の部隊がイラクから撤退した2年半前、米国のバラク・オバマ大統領はこの国を「安定して自立した主権国家」と表現した。しかし今、ジハード主義者たちがイラクを引き裂きつつある。モスルはイラク第2の都市だ。6月10日、イラクのヌリ・アル・マリキ首相は非常事態宣言の発令を国民議会に要請し、国外からの支援を求めた。
その翌日、イラク・スンニ派の過激派と結束したISISは、サダム・フセインの故郷であるティクリートを掌握した。ティクリートは首都バグダッドから車で北へわずか2時間半の距離にある都市だ。
今後数週間で、ジハード主義者の集団は、勢力圏を広げすぎて倒れるかもしれない。屈辱を受けたイラク軍も、決意を新たに対抗することだろう。場合によってはモスルを奪還するかもしれない。だが、ISISの象徴的な勝利と果てしなく供給される若者を前にして、それはほとんど慰めにならない。
アルカイダにとっても危険すぎる集団
ISISの狙いは、スンニ派国家を打ち立て、中東の地図を描き直すことにある。その手はじめが、シリア東部とイラクの中心部だ。ISIS特有の好戦性は、アラブ世界全体に毒とテロの恐怖を広めている。このままISISが思い通りにことを進めていくと、いずれ欧州や米国も自爆テロの標的となるだろう。
イラク、米国の両国政府が考えを変えなければ、ISISや同様の集団が混乱を生み続ける。新たなアプローチを取ったとしても、ジハードを止めるのは難しい。
ISISは、地域紛争とイスラム原理主義から生まれた。シリアのバシャル・アル・アサド大統領を相手に戦いながら、国外から戦士を集めた。その一部は退役軍人だ。シリアとイラクの無政府状態の混乱のなかで、誘拐と強奪で資金をかき集め、イラクの兵士たちを上回る戦闘経験を積んだ。