「クドア食中毒」をご存じだろうか。ヒラメなどの魚の筋肉に寄生する粘液胞子虫クドアによるもので、一過性の下痢・嘔吐を来す。2000年頃から報告されるようになった新しい食中毒だ。養殖場などでは徹底的な対策が実施され報告件数は減少しているが、いまだ患者の報告は続いている。
「これまで、クドアはヒトには無害な魚の寄生虫と考えられていた。それが、2000年以降に西日本を中心に生じるようになった“謎の食中毒”の原因として、2010年に同定された時は、正直驚いた」と、国立感染症研究所寄生動物部部長の野崎智義氏は話す。
“謎の食中毒”とされたのは、ヒラメやマグロなどを生食した数時間後に発症する激しい下痢・嘔吐だ。症状は一過性で、数時間程度で改善する。死亡例の報告はなく、予後が良好なのも特徴だった。食中毒の原因として一般的なノロウイルスや細菌などの既知の病原物質が同定できなかったため、そう呼ばれていた。
この謎の食中毒の原因物質を探索するために実施された全国調査の結果、同定されたのが、クドアの一種(Kudoa septempunctata、写真1)だった。ヒト腸管細胞培養系を用いたクドア胞子の腸管毒性評価では、腸管細胞層の物質透過性が亢進(こうしん)することが確認された。症状が一過性であることから、クドア胞子が長期間人体にとどまる可能性は低いとも考えられている。
以前からクドアは魚の寄生虫として知られていたが、人体に害を生じることはなかった。そのため、「毒性のある新種が、ヒラメの養殖場を中心に広まり、食中毒の原因となったと考えられている」と、国立感染症研究所寄生動物部主任研究官の八木田健司氏は説明する。
■冷凍または加熱で死滅するが…
クドアが食中毒の原因であることが明らかになったことを受け、政府は対策を実施した。まず、厚生労働省が2011年6月、クドアを原因とする嘔吐・下痢症を食中毒として取り上げるよう通知。同年10月には、輸入ヒラメの検疫を強化することも求めた。
水産庁も、国内のヒラメ養殖場・種苗生産施設に対して、クドア食中毒防止の対策を呼び掛けた。2013年からは、食品衛生法による食中毒原因物質として、「寄生虫-クドア」として報告されることになり、実数の把握が容易になっている。
クドア、食中毒、刺し身、下痢、嘔吐
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