修正が遅れるだけでやられたコートジボワール戦【#坪井戦術】

小澤 一郎 | サッカージャーナリスト

日本代表フォーメーション

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6月14日(現地時間)に行われたFIFA ワールドカップ(W杯)ブラジル大会のコートジボワール対日本の試合は、日本が本田圭佑のゴールで先制するも、後半コートジボワールが立て続けに2点を奪い2-1で勝利した。

大事な初戦を落とす形となってしまった日本代表だが、このコートジボワール戦において『サッカーの新しい教科書』(カンゼン)の著書である坪井健太郎氏(スペイン在住のサッカー監督)はリアルタイムにどのような戦術分析を行なったのか。Twitter上での実況ツイート【#坪井戦術】をまとめる形で解説する。(※ツイートの補足修正あり)

【試合前】

――日本の先発を見た上でのこの試合の戦略、戦術予想は?

CBは森重、ボランチは長谷部が選出ですね。おそらく、コートジボワールのフィジカルに対応しての選択かもしれません。特にボランチのところで長谷部に運動量を求めた形でしょう。

【前半開始】

――コートジボワールの試合の入り方を見て、彼らの戦略、戦術の特徴を推測下さい。

守備は1-4-2-3-1で中盤にブロックで待つ形です。攻撃はパスで攻撃を構築してきています。右のSB(オリエ)は攻撃的ですね。右のサイドのMF(カルー)は中に入ってきて、そのためのスペースを創る傾向があります。

――開始3分でキーマンのヤヤ・トゥレがエントレ・リネアス(ライン間のスペースの利用)でボールを受けて展開してきました。彼を抑えるために日本がすべきことは?

日本は本田と大迫が中へのパスコースを切りスライドしながらプレッシングに出ていっていますが、(2013年11月)オランダ戦のデ・ヨングのようにライン間にうまく入られるかもしれません。そこはボランチが出て捕まえるか、本田が残るのかを選択することとなります。

前半3分 ヤヤ・トゥレのエントレ・リネアス
前半3分 ヤヤ・トゥレのエントレ・リネアス

――日本の入りをどう見ますか?

日本はDFラインから中盤へのパスの配球を「探して」いる状態です。こうなると、相手にも縦パスを狙われる可能性が高くなります。中盤とトップが動いてパスの選択肢を継続的に与えることが重要です。また、カウンターがこの時間帯に一番気を付けることです。日本もそのうち慣れてきますし、相手も疲れてきますのでそこまでは我慢です。

――W杯初戦の緊張感からしてこの入り、慎重さは想定内のことだと思いますが、日本がボールと同時に主導権を握るために必要なことは?

少しゲームが落ち着きました。お互いに似たような攻撃を展開しています。ショートパスを起点にゲームを作りながら、サイドバックの上がりを中心に前進を図っていますね。日本が楽な形でゲームを進めるためにはコートジボワールの選手たちをゴール前に張り付けるように押し込む形を作りたいですね。前進を図ることが大事です。真ん中はどうしてもスペースがなく難しいのでサイドからそれを狙うのが良いでしょう。

【前半16分、本田のゴール】

――見事な本田のゴールでした。シュートまでのコントロール面の良さをどう表現しますか?

やりましたね!1タッチでシュートに行けるところにコントロールしてからの思い切ったふり抜きでした。ナイスゴールです。

――コートジボワールのウィークポイント(日本が狙うべきところ)は見えましたか?

長谷部の起用はプレッシングを前からかけて行く時に、勇気を持って自分のゾーンから飛び出し、相手ボランチに行くことが狙いですね。相手ボランチのところに思い切って出ていけるのは機能しています。相手の守備を見てみると、ダブルボランチは自分のゾーンに残ったままの傾向があります。トップ下との距離が空くので、そのライン間のスペースで自由にボールを受けられる可能性は大きいです。本田がスッと降りてきた時にパスは通ります。また、SBとサイドハーフのマークの受け渡しも不安定で、日本のSBの上がりに対応できていません。内田と長友が攻撃参加した時にフリーになる傾向があります。そこはチャンスです。

――岡崎がジェルビーニョをファールで止めたシーンでも、攻撃時の日本のDFラインがやや低い(間延びして中盤にスペースがある)印象なのですがどう映っていますか?

はい。2度その形がありましたね。長谷部、山口のボランチが2枚共前に出ていく時にDFラインとの距離が開くとあのような局面を迎えることになります。日本のリスクはあそこです。

――30分頃からようやく香川の硬さがとれ、フエゴ・インテリオール(真ん中でのプレー)をかけれるようになってきましたが、この状況で香川に期待したいことは?

香川とマッチアップする右SB(オリエ)はかなり攻撃的で前に出てきます。その分スペースができますから香川が外で起点を作ったり、中に入って行ったりして混乱させることを期待しましょう。そうすれば長友も上がりやすくなるはずです。

――DFラインからの配給でまだ日本は「(パスコースを)探して」からパスを出すので読まれてパスカット、あるいは十分予測されたアプローチをかけられています。もう少しDFの選手の配給テンポを上げるべきだと思いますか?

そうですね。横のボールの動かしのテンポを速くすることは大事です。それから、パスを狙われている時には受け手が1タッチでプレーできるよう3人目の選手がサポートに入ることも効果的です。昨日のスペイン(対オランダ)のように、相手のプレスを壊すプレーも可能です。

【前半終了】

――前半終了です。総括をお願いします。加えて、後半に向けた日本の改善点と展開予想をお願いします。

日本は自分たちのリズムの時間に点を取り、最後の苦しい時間帯も忍耐をもって守備をすることでリードして後半に入ることができました。良い戦いだと思います。(6/6のテストマッチの)ザンビア戦での学びもしっかりと見られて集中して戦っていますね。後半はコートジボワールがSBの上がりを中心にサイドから攻めてくることが予想されます。特に、立ち上がりは激しいリズムになるかもしれませんので、その時間をしっかりと抑えたいですね。そして、相手のサイドの守備に不安定さが見えますので、そこを起点に攻めたいです。

日本が気を付けなければならないことは前半にも表れていましたが、長谷部・山口とCB間のスぺースを使われた時にはピンチになりやすいです。後半はそこに相手がファルソ・エストレーモ(偽ウイング)の形でサイドの選手が中に入ってくる可能性もあります。ボランチが前にプレッシングに出て行ってやられてしまうようなら、それをやめて本田と大迫が待つようなプレッシングに変更するのも一つの手ですが、これは始まってからの対応となります。縦のライン間の連携、マークの受け渡し、ライン間の距離をコンパクトにしスペースの縮小をすることが大事です。

リードしているこの状態ですから、日本はゾーン2(中盤)でプロックを創り、中へのパスコースを消して外へボールを奪い、相手のSBの背後を突く、これが初めの狙いでいいと思います。相手は焦って攻撃してくるでしょうから。

【後半開始】

――予想通り、相手両SBが前半よりも高い位置取りでカルー、ジェルビーニョのサイドハーフがフエゴ・インテリオール(真ん中でのプレー)を意識したポジショニングを取っています。どのような対応を心がけるべきですか?

サイドのMFに長友と内田がついて行き過ぎるとサイドのスペースを与えてしまいますので、ボランチかCBにマークを受け渡して(相手の動きによる)上がってくるSBを掴むというマークの変更が効果的です。

ファルソ・エストレーモ(偽ウイング)によるフエゴ・インテリオールの戦術コンセプト
ファルソ・エストレーモ(偽ウイング)によるフエゴ・インテリオールの戦術コンセプト

――今日は序盤から岡崎がかなりジェルビーニョとボカを意識したポジショニングを取っていますが、ここまでの岡崎のボールのないところでのプレー&ポジショニングをどう見ていますか?

今日の岡崎の仕事は「まずは守備」といった印象です。よく貢献していると思います。攻撃時にはあまり直接的にボールに関わる機会が少ないです。というもの、日本の攻撃もまだ縦方向になりがちで、斜めの攻めが発生していないからです。

【後半19分、21分、立て続けに失点】

――同じような右クロスからの形で逆転してしまいましたが、日本は奪ってからの前進の局面でのミスが目立っています。1-2となってもボールを持てないですが、日本が考えるべきことは?

疲労もあるもかもしれませんが、日本は運動量が減ってきました。パスを出した選手が空けたスペースに顔を出してパスコースを作らないとボールが循環しません。香川のところでボールが収まっていませんし、守備面での不安もありますから、代えるタイミングかもしれません。2点共にあそこ(右)からやられてしまっています。

【後半22分、大久保投入】

――香川以上に本田のところでのボールロストが目立ちますが、本田をトップに移行させた狙いはそのあたりも影響していそうですか?

大久保がどのような影響を与えるかに注目ですね。ボールの収まりどころとして期待しましょう。大久保投入の際に監督が考えることは誰を外すか?です。香川、本田は中心として外せない。となったところで、大迫が外れた形です。ザックは本田を選択したということです。

【試合終了】

――残念な結果となりました。コートジボワールはドログバ投入直後に2得点を奪いました。結果的に交代出場となりましたが、その狙いと彼のプレー・存在感の評価は?

残念な結果になってしまいました。ドログバは年齢(36歳)のことを考えると90分は戦ええる選手ではありません。それを考慮しての途中からの投入でしょう。疲れてきた時に、あのフィジカルとクオリティは相手にとっては嫌でしょうね。

――先制点までは良かったと思いますが、プレッシングのスタート位置を下げて相手にボールを持たせたことで前半から激しく消耗した試合でした。ザッケローニ監督の戦略についての評価は?

選手の特徴を比較した時にサイドの攻防が後半のポイントであったことは明白でした。そこで香川が機能しなくなった時に修正が遅れるだけでやられてしまいました。世界レベルとはそういうものです。少しの遅れは致命的になってしまいます。今日の戦いを見ると本田と香川に委ねた形になる反面、彼らのパフォーマンスはそこまでではありませんでした。スペイン同様、変化を入れていくのか?それともこのまま続けるのかはザックのマネージメントの見所の一つです。

――最後に次節以降に向けた日本の戦い方について言及下さい。

次はギリシャ戦ですがお互い負けたらアウトという状況です。またヨーロッパのチームということもあり、日本は戦いやすいのではないかと思います。日本らしさも出てくると思うのでそこに期待しましょう。まずしっかりとリフレッシュして次の戦いに準備してほしいと思います。

小澤 一郎

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。多数媒体に執筆する傍ら、サッカー関連のイベントやラジオ、テレビ番組への出演も。新刊に『サッカーの新しい教科書』(著|坪井健太郎/カンゼン)主な著書に『サッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『日本はバルサを超えられるか』(河出書房新社)、『サッカー選手の正しい売り方』(カンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若き英雄』(著|ルーカ・カイオーリ/実業之日本社)など。

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