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第一次世界大戦の「四つの神話」

今年の世界経済フォーラムダボス会議)で安倍総理大臣が日中関係第一次大戦直前の英独関係にたとえたことは、欧米に衝撃を与えました。

その 第一次世界大戦ですが、今年は開戦から百年目ということで、関連する検証や報道が目立ちます。その一つが経済史家Harrisonの「四つの神話」です。

下は要約版。

四つの神話とは、

  1. Sleepwalking into war
  2. Futile slaughter
  3. Germany was strangled by the Allied blockade
  4. The Treaty of Versailles caused World War II

です。

1.は安倍首相が言及した「偶発的な衝突」と関係するもので、「各国は望まない戦争に引きずり込まれた」という見方ですが、Harrisonはこれを退け、指導者層は冷静な計算の上で参戦を決断したとしています。相互の経済依存が参戦の妨げにならなかったことや、抑止力の弱体化が逆にリスクテイク(参戦)につながったことも指摘しています。

2.は、人口よりも経済力・生産力で優位に立っていた連合国にとっては、消耗戦に持ち込むことが合理的であったとの指摘です。やはり総力戦では生産力が物を言います。1990年代以降、円相場を過大評価を維持して製造業の空洞化(→国内生産力削減)を進めた日本にとっては困ったことです。*1

4.はヴェルサイユ条約でドイツに苛酷な賠償を負わせたことが、反動としてナチスを台頭させたというものですが、Harrisonはナチスの台頭は大恐慌によるものとしています。これが正しければ、大恐慌がなければ第二次大戦も起きなかったことになります。

現在の日中関係は日本―英国、中国―ドイツにたとえられているわけですが、日本も当時のドイツと似ているようにも見えます。

Voxでは、これから第一次大戦シリーズを掲載するということなので、関心がある人は時々チェックしてはいかがでしょうか。

 

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*1:1990年代後半からは「三つの過剰」と称して企業の負債・設備・雇用の削減が叫ばれましたが、これは日本経済全体ではマネーストック減少、生産力削減、失業増加につながります。マクロの視点を欠いた政策が推し進められたことが、日本経済を停滞させたわけです。