「HUNTER×HUNTER」のアフレコ現場です。神志那弘志監督と。
「HUNTER×HUNTER」のアフレコ現場です。神志那弘志監督と。

 「HUNTER×HUNTER」のゴン役などで人気上昇中の声優・潘めぐみさんと、「機動戦士ガンダム」のララァ役などで知られる母親の潘恵子さんが、さまざまな思いや出来事を交換日記形式でつづります。今回は、“潘ちゃん”ことめぐみさんが、恵子さんに続いて昨年6月に亡くなった声優の内海賢二さんとの思い出を振り返ります。

 みなさん、おはようございます! こんにちは、こんばんは、はじめまして! 潘めぐみです!

 6月に入って梅雨になると、自分の世界が大きく変わっていくようなそんな感覚があって。きっと常に変わりつつあるんだけど、6月は、私にとって特別な月の一つです。

 本格的に声の仕事のスタートを切ることができたのも、2年前の6月。それは「HUNTER×HUNTER」のオーディションを受けて、受かった月でした。そういえば、“潘さん”から「誕生日月になると、その星座にスポットが当たるのよ」と教えていただいたことがあるのですが、そういうことも関係しているのかな。

 あ、私事ではありますが、25回目の誕生日を迎えました。今年は、例年よりもたくさんの方々からお祝いのメッセージをいただいたのです。家族、友人、日ごろよりお世話になっている方々、支えてくださっているみなさん、本当にありがとうございます。何かを作るにも、伝えるにも、届けるにも、一人では成り立たなくて。だからこそ、今日こうして、みなさんにお会いできるのも、やはり日ごろから支えてくださっているみなさんのおかげなのです。

 そうして、たくさんの「おかげ」を改めてかみしめる今日このごろ。「おかげ」をたどっていくと、その最果ては、人類、生命、地球、宇宙の誕生。大げさかもしれないけれど、ふとそんなことに思いふけってしまう瞬間があって。それでもやっぱり日ごろから感じる「おかげ」の源は、母である“潘さん”なのです。

 私が生まれて育ってこられたのも、声の仕事に出会い携わらせていただけているのも、いつもは照れくさくて、意地張っちゃって、いまだに素直に言えないけれど、素直に思っているんです。そんな言い訳をしながら……。ありがとう、潘さん。ありがとう、お母さん。

 そんな潘さんにとっての「おかげ」をたどっていくと出会える人物。

 それは内海賢二さん。6月13日に一周忌を迎えました。潘さんは、前回のコラムで、内海賢二さんと出会え、導いていただいたおかげとおっしゃっていました。

 私にとって「おかげ」の存在である潘さん。そして、潘さんにとっての「おかげ」の存在である内海賢二さんは、私にとっても「おかげ」の存在なのです。

 内海賢二さんと、そして奥様である野村道子さんとは、私が小さいころから母を通じて、幾度となくお会いしていて。そのころから、印象的だった豪快なあの笑顔。だけど、内海さんご夫妻との出会いは、まだ私が生まれる前、母のおなかの中にいたときだったそうです。内海さんご本人からうかがいました。

 そのお話をうかがったのが、内海さんとご一緒させていただいた、最初で最後の現場。「HUNTER×HUNTER」の第1話と第2話。

 忘れもしない、今も鮮明に思い出されるアフレコ。私にとっては、初めての役付き、初めてのレギュラー、さらに第1話では、“潘さん”との初共演もあり……。とにもかくにも初めてのことだらけの現場。

 さらに、船長役の内海さん、おばあちゃん役の京田尚子さんという、母にとっても大先輩である方々ともご一緒の現場でした。

 アフレコスタジオに入るとスクリーンの前に立っている4本のマイク。この4本を出演者全員で共有し、収録中にはセリフ以外の一切の音を発してはならない。息をすることすらままならないような緊張感漂う、その空間、スタジオ。どのマイクに入ればいいのか、どうしたらスムーズに、迷惑にならずに、うまくいくのか……。

 「めぐは、そこに立ってどーんとしてりゃあいい。そこがお前の場所だ。自由にやってみろ!」。マイクワークもわからず、戸惑いを隠せなかった私に、内海さんがいつもの豪快な笑顔を浮かべておっしゃってくださったこの一言で、心がすとんと楽になったのです。

 ゴンとしての定位置を築くことで、ひとまず気持ちを落ち着かせてから、次のステップ、臨機応変に別のマイクに入る。また、表現することも、まずは自分の思うがままに感じたままに自由にやってみる。そうして現場でどうすべきか、どうあるべきかを教えていただきました。

 そして、「オレ、ゴン!」と船長に自己紹介をするシーン。実は、この場面はゴンのオーディション原稿にあったところなのです。オーディションを受ける前、“潘さん”に「ちゃんと相手を想像して話しかけてごらん」とけいこをつけていただきました。

 相手は誰なのか、それが船長なら、どんな場所で、どんな距離で、どんな雰囲気で、どんな間柄で、表情で、心情で……。

 潘さん「その船長さんってどんな人? どなたが演じられるのか、想像してみよう、メグさん」。

 私「うーんと……」。

 2人「内海さん!」。

 それが現実のものとなったときには驚きながらも、うれしさが隠せず、スタジオでお会いした内海さんに思わず抱きついてしまいました。

 無事に初回のアフレコを終え、そのまま現場のみなさんとお食事会へ。その席で、内海さんとお話しさせていただいたときのこと。これまた驚きの事実が発覚したのです。

 「10年以上前に、俺は『HUNTER×HUNTER』に携わってたんだよ、船長として」。

 調べてみると、1998年のジャンプフェスタで上映された「HUNTER×HUNTER」のパイロット版の中でも、内海さんは船長役を演じられていたのです。

 さらに驚きなのが、私自身も、その年のジャンプフェスタに、その「HUNTER×HUNTER」を見に行っていたということ。当時9歳だった私は、友人とジャンプフェスタに行きたいと母にワガママを言って、連れていってもらったのです。

 不思議なご縁が折り重なって、こうして10年以上の時を経て、「HUNTER×HUNTER」という大好きな作品で、それも親子二代でご一緒させていただけるなんて、本当に幸せなことだと、改めて感謝の気持ちでいっぱいになりました。生まれるよりも先に、まだ形もなかったころに、紡がれてきた「おかげ」のおかげです。ありがとうございます、内海さん。

 ねえ、潘さん。あのとき、このことお話ししたかな。

 第2話のアフレコで内海さんが「安心しな、ジン。お前の息子は、いい子に育ってる」というセリフを、「安心しな、恵子。お前の娘は、いい子に育ってる」と、テストのときにアドリブをしてくださったこと。どこか不敵な、そしてやっぱり豪快ないつもの笑顔を浮かべて……。

 「HUNTER×HUNTER」では、第1話から船長役の内海さんにはじまり、試験会場へ向かうときのドキドキ二択クイズのおばあちゃん役の来宮良子さん、そしてネテロ会長役の永井一郎さんと、去年から今年にかけてお亡くなりになられた名だたる先輩方とご一緒させていただき、ゴンたちを見守り、時として試しては導き、送り出してくださいました。

 船長に見送ってもらったあの港で、おばあちゃんの難問に悩まされたあの大きな杉の木に続く道で、会長と出会ったあの飛行船で……。また会えますように……。「ありがとう」に「またね」を込めて。

 ◇プロフィル

 潘めぐみ(はん・めぐみ)=1989年、東京都生まれ。2008年に映画「櫻の園」の一般公募オーディションに合格し女優デビュー。ドラマ「オトメン-乙男-」のほか舞台などにも出演。11年に、100人を超えるオーディションをへて、アニメ「HUNTER×HUNTER」の主人公・ゴン役に抜てきされた。アニメ「ハピネスチャージプリキュア!」の白雪ひめ役、ゲーム「The Last of Us」のエリー役などを好演し注目を集めている。