安倍政権が法人税の実効税率引き下げを決めた。現在の約35%から、数年かけて30%を切る水準にする。

 投資を促し、日本経済の底上げをはかるためだという。

 法人減税を急ぐ国が少なくないなか、日本も無縁ではいられないのは確かだ。ただ、税率を1%下げると税収が5千億円近く減るだけに、深刻な財政難に拍車をかけかねない。

 法人課税を巡っては、わざと利益を出さない例を含めて赤字で納めていない企業が多いことや、税負担を軽くする租税特別措置が時代遅れになっている事例など、課題が山積みだ。

 それらを見直し、企業の公正な競争を促して税収も増やす。それを財源に税率を引き下げていく――という姿勢が大切なのに、改革の具体案や財政への配慮を置き去りに減税幅だけ決めた。無責任だ。

 成長戦略として、株式市場にインパクトを与える目玉が欲しいとの思惑が透けて見える。

 「税率を下げないと国際競争で負ける」「税率が高いと海外の企業が日本に投資しない」

 経済界や経済産業省は声高に訴えるが、必ずしも具体的に検証されているわけではない。

 例えば、社会保険料を加えた企業の総負担は一部の欧州主要国の方が日本より重い、というデータがある。

 日本に進出した外資系企業に問題点を尋ねると、法人税率の高さより、市場の特殊性や「英語人材」の乏しさの方が上位に来るという調査結果もある。

 経済界には「法人減税で日本経済が復活すれば、かえって税収は増える」との声がある。そうした例は海外にあるが、景気が好転していた影響などを無視するのは乱暴だろう。

 そもそも、日本企業全体ではすでに多額の利益をため込んでおり、「企業の負担減が経済を活性化させる」との主張は説得力に欠ける。

 政府は「20年度に基礎的財政収支を黒字化する」との目標を堅持するという。15年度に消費税率を10%に上げても達成は難しく、大変高いハードルだ。

 東日本大震災からの復興を支えるための特別増税は、個人への所得税では25年も続くのに、法人税では3年の予定が1年前倒しで打ち切られた。

 政府税制調査会は、租税特別措置など現行制度の見直し論議を始めたが、早くも利害が交錯し、難航は必至だ。

 まさか、見切り発車の法人税率引き下げの穴埋めを、個人へのつけ回しで取り繕うのではあるまい。