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【コラム】

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 古代ギリシャの哲人アリストテレスは、「ウナギは大地のはらわたから生まれる」と考えたという。日本では、山芋がウナギになるという言い伝えがあった。なるほど、どちらもぬるぬるとつかみがたく、食べれば精がつく▼美濃出身の僧で落語の祖とされる安楽庵策伝は『醒睡笑』にこんな話を書いた。肉食を禁じられた僧がウナギを割いて食べようとしているところを人に見られてしまった。僧の言い訳は「山の芋を汁にして食べようと取り寄せたら、見る見るうちに、ウナギになってしまって…」▼国際自然保護連合が、ニホンウナギを絶滅危惧種に登録した。それこそウナギのぼりに値が上がってから、すっかり縁遠くなってしまったウナギではあるが、「近い将来、絶滅の危険性がある」と聞けば、何とも心苦しくなる▼古来解けぬ謎だったニホンウナギの産卵現場を突き止めた生物学者の塚本勝巳さんは、今の大量消費ぶりは「シーラカンスの回転ずしや、トキの焼き鳥」みたいなものだと言い、「十年ぐらい成魚も稚魚も捕るのを我慢しないと本当に危ない」と、警告する▼絶滅危惧種に登録されても、それだけで売買が禁止されるわけではないが、このまま減り続ければ、それこそ禁制品になってしまうかもしれぬ▼禁じられたウナギに手を出して、「いや山の芋を…」と言い募る羽目になっては笑い事ではない。

 

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