政治・行政

【社説】拉致再調査 目指すゴール見失うな

 北朝鮮が拉致被害者の再調査へ動きだす。日朝両政府の合意に基づき特別委員会を近く立ち上げる。調査開始を受け、日本側も制裁を一部解除する。

 再調査の行方に目が向きがちだが、忘れてはならないことがある。今回の合意が目指すゴールはどこか、ということだ。

 合意文書は冒頭でこう記す。

 「双方は日朝平壌宣言にのっとって不幸な過去を清算し、懸案問題を解決し、国交正常化を実現するために、真摯(しんし)に協議を行った」

 前提となっているのが2002年9月17日、当時の小泉純一郎首相と故金正日(キムジョンイル)総書記の間で交わされた平壌宣言である。その中で日本は植民地支配の誤りを認めるとともに、国交正常化交渉の再開と過去の清算がうたわれた。その意思を再確認したこのたびの合意は、両国が関係改善に向けたスタート地点に立ち返ったことを意味する。

 つまり、ボールは日本側にも投げられている。拉致は許されざる蛮行であり、日本には真相を知り、謝罪を要求する権利がある。北朝鮮に真摯な再調査が求められているのはもちろんだが、一方で求められている植民地支配の補償と国交正常化という問題に向き合う姿勢が日本にも欠かせない。

 合意では、在日朝鮮人の地位問題についても誠実な協議を行うとされている。民族教育を受ける権利は政治問題抜きに保障されるべきものだが、例えば、拉致問題に絡めて無償化の対象から除外された朝鮮学校の処遇是正を図る。そうした具体的な行動こそが相手側に合意内容の確実な履行を促すことにつながる。

 苦い記憶がある。02年の首脳会談で拉致が明らかになると、日本国内の世論に北朝鮮への悪感情が噴出し、国交正常化への歩みは止まった。ではいま、北朝鮮からもたらされるであろうなにがしかの結果を虚心に受け止める覚悟は、われわれにあるだろうか。

 拉致被害者の一人、横田めぐみさんの母早紀江さんも「めぐみたちが早く日本に帰ってこられるようになれば、両国の平和にもつながるはず」と語っている。植民地支配と拉致という国家犯罪に手を染めた両国が、この言葉の重みをかみしめずして真の和解にはたどり着けない。

 それでもなお、和解など必要ないというのだろうか。

【神奈川新聞】