父は旧帝大の博士を単位取得退学、大きな大学にしかポストがないマイナーな学問を研究していた。
父の部屋は分厚い本が天井までうず高く積もっていて、いつも部屋に籠って休みの日も夜遅くまで研究していた。そんな父は非常勤のまま人生を終えそうだ。
兄は小さい頃から父に勉強を教えられ、本人も真面目で勉強が好きだったからか、成績はぐんぐん伸び全国でもトップクラスの中高一貫校に入った。家計的には相当厳しかっただろうが、兄を思って無理していたのだろう。
そんな兄は中学でいじめられ、家でも次第に荒れるようになり不登校になった。それでも中学は事なかれ主義で卒業させてもらい、高校は通信制に行った。まだ良い大学に入るという希望はあった。しかし、精神的な不安定だった兄はいつからか幻聴が聞こえるようになり通っていた精神科で統合失調症と診断された。そのまま治ることなく今に至る。まだ一人で外に出ることすらできない。
自分は兄が荒れていた頃に小学校高学年。一応受験勉強はしていたが、次第にやらなくなっていった。
親は兄のことで手一杯だし、家計的にも無理だったと思う。そして母親は「偏差値の高い学校は性格の悪い子しかいない」と何度も何度も呪文のように言っていた。
自分は地元の公立中学校に行った。勉強はしなかった。しても辛い目に合うだけだと思いこんでいた。実際地元の中学校は友達ばかりで居心地がよかった。そのまま地元の高校へ進み、勉強はほとんどしなかったが、なぜか都立大学に行けた。
今はアパレルメーカーにいる。