国会の機能(2)
別所直哉 | ヤフー株式会社執行役員社長室長
前回述べた課題の解決のためには、立法事実の把握や分析のために必要なリソースを国会議員がどのようにして確保できるかということを考える必要がある。
一つの考え方としては、霞ヶ関にある行政庁の能力・リソースを各国会議員が使っていくということが挙げられる。実際、提出される閣法について担当省庁は議員会館などを回って委員会(厚生労働省所管の法律は厚生労働委員会、経済産業省所管の法律は経済産業委員会、警察庁所管の法律は内閣委員会でというように、それぞれ所管する行政庁にほぼ対応する形で委員会が衆参両議院内に存在している)に所属する国会議員に対してレクチャーを行い、理解を得ていくということを行っている。法案は、衆参それぞれの本会議で可決する前に各委員会で諮られて委員会決議を経て本会議に提出されるというプロセスをとっており、議案に対する実質的審議は委員会で行われるため、委員会は法案審議にとって重要な位置付けを担っている。さらに、閣法については与党内の手続として、党内の部会などでも検討がなされており、そこにも担当省庁が呼ばれて説明をしている。その中で国会議員が気付いた課題を指摘したり、質問をしたり、意見を伝えることはできる。また、このような委員会や部会に関わらず、国会議員の方から行政庁に対して積極的に質問をすることも可能である。その意味では、現状において行政庁の能力を各国会議員が使っている状態であるとも言えなくはない。
ここでの問題の所在の一つは、担当行政庁が考えて準備したものを与件として説明を受けることに頼らざるをえない現状で、どの程度掘り下げて立法事実について検討されたのか、法案の構成が果たして適正なのかなどを、国会議員が十分に検討できるだけの情報が揃うのであろうかということである。与党内の手続や委員会提出前の手続でどのような説明を行政庁が行っているのかということは一般的には外から見ることができない。唯一、法案に関心を持っている人間で、審議プロセスがわかっていて、かつ与党や国会議員にアプローチする方法を知っている者のみでなければ、このプロセスに関与することができないという点である。
立法事実を把握するための手段として、行政庁は審議会や行政庁内の委員会など(以下、審議会など)を設け、そこで有識者や関係者を集めて議論を行っている。そしてその結論を受けて立法化を図るという手順を守っている。また、審議会などで集約される意見に偏りがあるかどうかなどを確認するために審議会などで取りまとめた報告書をパブリックコメントに付したりもしている。しかしながら行政庁も万能ではない。審議会などに参加している有識者の数は限られており、同じ人が様々な審議会などに名前を連ねていることも多く、有識者の負担も少なくなく、審議会などで報告されたり提出されたりした資料を読み込んだり分析するためのスタッフを各有識者が抱えていることは殆どない。
また、審議会などの多くは限られた時間の中で開催されており、議案や報告書案の作成は行政庁が中心となって行わざるを得ず、事実上は審議会の事務局を務める行政庁の頑張りに依存してしまっている。つまり、審議会などが民主的に運営され多くの声を反映することができるかどうかは行政庁に委ねられてしまっていると穿った見方をすることもできる。もちろん、民主的に運営して多くの声を反映させつつ開催されているものも多い。しかし、一部には、果たして適切にいろいろな意見を聞くべく見解の異なる構成員が選ばれて開催されていたのか疑わしいものもあるように見受けられる。
一方、審議会など開催情報がホームページなどで公開されているとは言え、積極的に情報を収集していかないと国民にとっては、どのような議論がどこの審議会などで話されているのかということを把握することが難しいのが実態である。審議プロセスがわかっていないと、そこに関与することが難しいというのは、このような意味である。
なお、実態面での補足をしておくと、与党に限らず各政党での審議プロセスである部門会議において、業界などのヒアリングが行われていることもある。そこでは、審議会などには招かれなかった業界団体や関係者の意見聴取がされることがある。自民党の党税制調査会の租税特別措置の業界減税など利害関係が強く絡むものは採り上げられやすいし、野党に対する陳情により採り上げてもらうことができるものもある。また、業界ごとに、政治連盟や議員連盟と言われるものを作って国会議員に意見を届けるというチャンネルもある。「政治連盟」とは業界団体が会員となり国会議員が顧問などを勤めるもので、不動産政治連盟、行政書士政治連盟、クリーニング政治連盟、土地改良政治連盟など多数存在している。「議員連盟」は国会議員が構成する会で、業界団体は直接前面には立たずに一緒に協力する関係にたっている。バレエ文化振興推進議員連盟、中古自動車議員連盟など、これも多数存在している。また、行政庁などとは別に独立して情報収集や調査をする能力をもっている組織内議員と呼ばれる人たちもいる。業界などが法律や予算に自分たちの意見を反映させるために、その組織内から候補者を擁立して当選させているものである。
これら様々な意見を反映させていくための補完的な仕組みはあるものの、果たしてそれで十分であろうか。限られた人の意見ではなく、広く実態を反映し、多くの人の意見を取り入れて行くためには、行政庁の能力・リソースだけに頼らずに、もっと国会議員が独立して情報を収集したり、調査を行うことができるようにしていくことが重要ではないかと思う。
次回につづく。