ガス灯4万本:鴎外「舞姫」にも登場 ベルリンで風前の灯

毎日新聞 2014年06月14日 09時40分(最終更新 06月14日 15時26分)

ベルリンの地下鉄ダーレム・ドルフ駅前に残るガス灯=篠田航一撮影
ベルリンの地下鉄ダーレム・ドルフ駅前に残るガス灯=篠田航一撮影
ベルリンのガス灯保存運動に取り組むベルトルト・クヤートさん=篠田航一撮影
ベルリンのガス灯保存運動に取り組むベルトルト・クヤートさん=篠田航一撮影

 【ベルリン篠田航一】ドイツの首都ベルリンで、19世紀から街角を照らしてきたガス灯が消滅の危機にひんしている。ベルリンには世界のガス灯の半数に近い約4万3500本が残るが、市当局はコスト高などを理由に2012年から電灯に交換し始め、16年までにほぼ移行を終える予定だ。だが華やかな電飾と違い、夕闇にほのかに映るガス灯の趣を愛する市民も多く、保存を求める声も根強い。

 ベルリンにガス灯が導入されたのは1826年と古く、19世紀にベルリンに留学した森鴎外の小説「舞姫」にもガス灯が登場する。東西冷戦期には、周囲を「壁」で囲まれた西ベルリンが、東側からの電力供給を止められる事態を想定し、ガスの原料の石炭を貯蔵できる利点を重視してガス灯を使い続けた。このため、今もガス灯の大半はベルリン西部に集中している。歴史的なベルリンのガス灯は、冷戦を生き抜いた「エネルギー戦略」の名残でもある。

 市の試算では、全てのガス灯を電灯に交換する作業には約3000万ユーロ(約42億円)かかるが、電灯になれば年間300万ユーロを節約できるため、ほぼ10年で元を取れる見通しだ。さらに二酸化炭素(CO2)排出量も年間9200トンを削減でき、環境面のメリットも大きいという。

 市側は「最新のLED(発光ダイオード)電灯に付け替えても、ガス灯と見た目はそれほど変わらない」(ゲーブラー市交通環境省次官)と市民に理解を求めている。ガス灯も全部は撤去せず、約3000本は残す方針という。ベルリンには現在、ガス灯のほか約18万本の電灯がある。

 ◇歴史的遺産「保存を」

 だが保存運動を展開する民間団体「ガス灯文化協会」代表の技師ベルトルト・クヤートさん(54)は「市側の論拠には発電時に生じるCO2が考慮されておらず、数字には疑問が残る。そもそもベルリンが年間に排出するCO2の量は莫大(ばくだい)で、ガス灯の撤去くらいでは解決できない。ガス灯は貴重な歴史的遺産で、守り抜く価値がある」と話す。

 ガス灯の存続を求める市民の署名はこれまでに2万人を超えた。歴史的建造物の保存運動に取り組む「ワールド・モニュメント財団」(本部・米ニューヨーク)も昨年10月、ベルリンのガス灯を「危機にひんする文化遺産」リストに加え、ボニー・バーナム理事長は「文化遺産の価値を考えず、コスト面だけで決められた典型例」とベルリン市当局の方針を批判した。

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