残業代ゼロで労働者の年収166万円減、過労死ライン2倍可の榊原経団連会長の東レは最高648万円年収減
井上伸 | 国家公務員一般労働組合執行委員、国公労連書記、雑誌編集者
残代ゼロで失われる労働者の残業代
私は、労働運動総合研究所(略称=労働総研)の労働者状態分析部会に所属していて、毎年、『国民春闘白書・データブック』を企画編集するとともに、ときどきの労働者に関わる様々なデータ分析を行っています。そこで、安倍政権が狙う「残業代ゼロ」等の導入でどのくらい残業代が減少するかをシュミレーションしました。その結果が下の表です。
現在の正社員の1人当たりの平均残業代は、上の表にあるように、年収275万円で残業代26.7万円、年収350万円で残業代34万円、年収450万円で残業代43.7万円、年収550万円で残業代53.4万円、年収650万円で残業代63.1万円、年収750万円で残業代72.8万円、年収850万円で残業代82.5万円、年収950万円で残業代92.2万円になり、全体の1人当たり平均残業代は37.1万円です。
ここからが試算ですが、政府の規制改革会議「雇用ワーキンググループ報告書」にもとづいて、上の表の注1~注4を設定。そして、週労働時間を55時間と控えめに設定し(※「控えめ」の理由は下記注意書き参照)、所定内労働時間は週40時間、週残業時間は15時間(=55時間-40時間)として、月を4週間とし、月間60時間、年720時間でシュミレーションしました。(※週労働時間を55時間とするのがなぜ「控えめ」なのかと言うと、総務省の「就業構造基本調査」では、年250日以上、1日35時間以上働く正規労働者の中で、「週労働時間60時間以上」は19%なのです。現在でも2割近く占める正規労働者の労働時間は今回の安倍「雇用改革」の中でさらに長時間労働になると想定されているのですが、今回の試算では週労働時間を55時間と低く「控えめ」な数字にしています)
以上でシュミレーションすると、上の表の「みなし労働8時間の裁量労働制の場合の残業代減収額」のところの「一人当たり残業代減収額」の欄にあるように、年収275万円で残業代減収額119.5万円、年収350万円で残業代減収額152.1万円、年収450万円で残業代減収額195.6万円、年収550万円で残業代減収額239.1万円、年収650万円で残業代減収額282.5万円、年収750万円で残業代減収額326万円、年収850万円で残業代減収額369.5万円、年収950万円で残業代減収額412.9万円となり、1人当たりの残業代減収額は労働者全体の平均で166.1万円になります。「残業代ゼロ」で総額10.5兆円も労働者は減収となるのです。
それから、上の表は、年収別に残業代ゼロ法案で失われる残業代を試算したものです。(※表は私が作成しました)また、残業代ゼロ法案を「対象限定せず制度化を」と言っている榊原定征経団連会長は、東レの会長ですが、下の表(株主オンブズマン代表・森岡孝二関西大学名誉教授作成)にあるように、経団連の会長・副会長出身企業は、軒並み過労死ラインの月80時間をオーバーし、なかでも、東レは月160時間と突出した長時間労働で、なんと過労死ラインの2倍もの長時間労働を強いることが可能になっています。なので、残業代ゼロ法案で最も儲けることが可能になるのが東レです。上の表の残業代ゼロ法案で失われる残業代試算の中で、年収650万円のケースで見ると、月80時間残業だと27万円ですから、東レで可能な月160時間だと54万円、年収にして648万円もの労働者の残業代が失われることになるのです。そう考えると、東レ会長でもある榊原定征経団連会長が「熾烈な国際競争の中で、日本企業の競争力を確保・向上させるためには、労働時間規制の適用除外は必要不可欠である」と熱心になるのもよく分かりますね。
上のグラフ(※私が作成しました)にあるように、日本の大企業(資本金10億円以上の企業)は、「売り上げがのびなくても大儲けできる経営」をめざし、財務省の「法人企業統計」によると、労働者の賃金を1998年度から2012年度まで毎年平均9.4兆円も減らし続け、累計で131兆円も減少させています。一方、大企業は内部留保を同期間に129兆円も積み増ししています。労働者の賃下げ分だけ大企業の内部留保が増えているのです。「残業代ゼロ」などによって、これ以上、労働者の賃下げと大企業の内部留保積み増しという悪魔のサイクルを許してはいけません。