2011年に亡くなったSF作家の小松左京さんが、旧制三高時代に本名の小松実の名前で描き、1948年に出版された漫画本が米メリーランド大・プランゲ文庫で所蔵されていることが14日までに分かった。小松さんは京都大在学中に複数の漫画本を出版しているが、それ以前の作品の存在は知られておらず“幻のデビュー作”とみられる。地震や科学を題材にしており、代表作の小説「日本沈没」に通じる創作の原点を示す貴重な資料だ。
プランゲ文庫は、占領下の日本で連合国軍総司令部(GHQ)が検閲した出版物を多数所蔵。小松さんのファンが今春、同文庫の所蔵資料をデジタル化し館内で公開している国立国会図書館(東京)のデータベースから見つけた。著作権管理を行う「小松左京ライブラリ」が複数の専門家の意見も参考にし、本人の作品と確認した。
漫画の題名は「怪人スケレトン博士」。B6サイズ、64ページの2色刷りで、奥付などによると48年9月に大阪の出版社から刊行された。人工地震を起こす装置で日本を海に沈めようとするスケレトン博士の陰謀を探偵スピイドが阻止する物語で、スピイドが「やはり科学は悪用するものぢゃありませんね」と話す場面で終わる。
人工地震装置は京大時代に「モリ・ミノル」の筆名で描いた漫画「大地底海」にも登場。小松さんの漫画全集の刊行に尽力し、長年親交があった漫画家の松本零士さんは「テーマや物語、場面など、小松さんでなければ描けない漫画。後にSF作家となる最初の一歩がここにある」と話す。
自伝などによると、小松さんは故手塚治虫さんの「新宝島」(47年)に感動し、漫画を描き始めた。当時、大阪では「赤本」と呼ばれる安価で紙質も悪い漫画本を多くの零細出版社が刊行しており、小松さんも自作漫画の持ち込みをしていた。〔共同〕
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