鋭い歯のキツネ絶滅種、チベットで発見
2014年06月11日
PHOTOGRAPH BY PAUL NICKLEN / NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE
鋭い歯を持つ古代の肉食動物が発見された。これは、多くの北極圏の肉食動物の起源がチベットにあるという仮説を支持するものかもしれない。
鋭い歯を持つ「非常に肉食性の強い」キツネ絶滅種が、かつて極寒のチベット高原を歩き回っていたことが、最新の研究で明らかになった。
新たに確認された化石は、鮮新世の時代にあたる530万~260万年前に生息していたブルペス・チュジュディンギ(Vulpes qiuzhudingi)という学名のキツネで、これまでに発見されたホッキョクギツネ類の化石で最も古い年代のものだ。つまり、知られているうちで最古の、北極圏全域に分布する現代のホッキョクギツネ(学名:Alopex lagopus)の祖先ということになる。
この発見は、寒冷地に適応した肉食動物が氷河期の初めに新たな土地へ移住するまでの間、チベット高原が「第三の極地」としての役割を果たしたという“出チベット(チベット起源)”説を支持するものでもある。
2010年、チベットの札達(チャーター)盆地と崑崙(クンルン)山脈で実施された発掘作業の中で、この古代の肉食動物の顎化石が3点見つかった。うち1点は、まだ歯が抜け落ちていない状態だった。
「まず下顎臼歯の一部を露出し、すぐにイヌ科の一種だと分かった」と話すのは、研究の共著者でニューヨーク市内のアメリカ自然史博物館に所属する古生物学者、曾志傑(Zhijie Jack Tseng)氏だ。
◆肉食に特化した歯
発掘された化石はそのまま保存されていたが、数年後に曾氏らが調査し、その歯がホッキョクギツネと“驚くほど似ている”ことを明らかにした。
一例として、化石の下顎臼歯には咬頭がなく、他種のキツネに比べて鋭いという特徴があった。この先史時代のキツネが獲物をスライスすることができたことを表すものであり、このような適応は“超肉食動物(hypercarnivore)”と呼ばれる肉のみを食べる肉食動物であったことを明確に示す兆候だ。雑食性のキツネの場合は、もっと凹凸が多くて鈍い、植物を噛むのに適した臼歯を持つと曾氏は述べている。
この絶滅種のキツネは、たくさんの肉を選べる状況にあったようだ。チベットのこのキツネが発掘された周辺では、餌となる可能性のある動物の化石も見つかっている。トガリネズミ、ナキウサギ、ハタネズミ、リスなどで、全て現代のホッキョクギツネが食べる小型哺乳類だ。
ほとんど肉しか食べないという食性は、極地の動物にとっては理にかなっている。理由の一つには、凍るほどの極寒環境では他の食料資源が乏しく、その中で生きていくためには肉食しかないことがあると曾氏は語る。ホッキョクギツネだけではなく、ホッキョクグマやハイイロオオカミなど他の北方の肉食動物でも肉食性が高いのも、同じ理由によるものと考えられる。
◆出チベット?
曾氏は、この古代のキツネの発見が出チベット仮説をより裏付けるものだと考えている。次のようなシナリオだ。鮮新世末期にあたる今から約260万年前、北極はかなり温暖になっていて、多くの動物たちはその状況を切り抜けるため、より寒冷なチベットで進化した。
氷河期の初めに地球の気温が低下すると、寒冷環境を好むチベットの動物たちは「高原を下りて、広大なロシア、シベリア、カナダ北部へと北へ分布を広げる」道を選んだのかもしれないと曾氏は語る。
今回の研究結果は6月10日、「Proceedings of the Royal Society B」誌で公開された。
Christine Dell'Amore, National Geographic News
「鋭い歯のキツネ絶滅種、チベットで発見」(拡大写真付きの記事)
2014年06月11日
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