oops

左投げの捕手がいなくなった理由

2014/06/13 20:05

 強肩捕手のヤディエル・モリーナ(セントルイス・カージナルス)が、青木宣親(カンザスシティ・ロイヤルズ)をKOした。盗塁を試みた青木をモリーナが刺したわけではない。6月5日の1回裏、モリーナが投手へ返そうとしたボールが、打席にいた青木の左側頭部を直撃。青木はその場に倒れ込んだ。

 現在は青木とチームメイトのブレット・ヘイズも、フロリダ・マーリンズにいた2011年に、フィラデルフィア・フィリーズ戦でシェーン・ビクトリノ(現ボストン・レッドソックス)の頭にボールをぶつけた。また、2013年には、ウィルソン・ラモス(ワシントン・ナショナルズ)が一塁へ投げようとした牽制球をチェース・アットリー(フィリーズ)のバットに当ててしまい、走者に進塁を許した。

 これらの3例は、左打者という点が共通している。現在は右打ちに専念しているビクトリノも、2013年の途中まではスイッチヒッターで、このアクシデントが起きた時には左打席に立っていた。ちなみに、ビクトリーノはKOされておらず、左打ちをやめたのもこれが理由ではない。

 捕手が左投げであれば、左打者にぶつけることはないだろう。19世紀から20世紀初頭にかけては、少数ながら左投げの捕手も存在した。なかでも、ジャック・クレメンツは1000試合以上で捕手を務めた。

 だが、1902年にセントルイス・ブラウンズ(現ボルティモア・オリオールズ)のジグス・ドナヒューが23試合でマスクをかぶった後、シーズン2ケタ出場を記録した左投げの捕手はいない。捕手を本職としない左投げの選手がマスクをかぶった試合も、1989年が最後だ。ピッツバーグ・パイレーツにいた一塁手&外野手のベニー・ディステファーノが3試合で捕手を務め、計6.0イニングを守った。余談ながら、ディステファーノはこの翌年に中日ドラゴンズでプレーした。

 左投げの捕手がいなくなったことについては、いくつかの理由が言われている。まず、二塁への送球時には、右打者が邪魔になる場合がある。打者は左打席よりも右打席に立つ方が多く、2013年は全選手の18万4873打席中、55.8%に当たる10万3094打席が右で、左は44.2%の81万779打席だった。また、右手にミットをはめている(左投げ)よりも、左手にミットがある(右投げ)の方が、三塁から向かってくる走者にタッチしやすい。

 他にも、考えられる理由はある。「セイバーメトリクスの父」と呼ばれるビル・ジェームズは、著書のなかで「捕手は肩の良さが必要とされる。もし、左投げで肩の良い子がチームにいたら、どこを守らせる?」と述べ、その子が投手になると示唆している。加えて、こちらは左投げの捕手の不在とは「鶏が先か卵が先か」のような関係だが、左利き用である捕手のミットはほとんど売っていない。

 ナックルボーラーが絶滅危惧種であるなら、左投げの捕手は絶滅種だろう。ただ、ほんのわずかではあるが、メジャーリーグで左投げの選手がマスクをかぶる可能性は、今も残っている。

 2014年6月10日の時点で機会は訪れていないものの、ミルウォーキー・ブルワーズのロン・レネキー監督は2013年の開幕前に、エマージェンシー・キャッチャー(緊急時の捕手)として、左投げの外野手であるローガン・シェーファーを指名している。シェーファーはリトルリーグ時代に捕手の経験があるという。

(Text by Natsuki Une)

PR

アイコンについて

プレイリストに登録アイコン
「プレイリストに登録」アイコン:MyGyaOのプレイリストに登録することができます。プレイリストとは
見たいものリストに追加アイコン
「見たいものリストに追加」アイコン:MyGyaOの見たいものリストに登録することができます。見たいものリストとは
映像を視聴できる機器を表すアイコンです。左から、パソコン、スマートフォン、インターネット対応TVとなります。