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【ロバート ホワイティング】

東京五輪2020の虚偽広告「穏やかな晴天が続く東京の夏」

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 私はつい先日、東京都知事本部が昨秋提出した「2020年オリンピック招致申請書類」を読んだ。そして、もしも虚偽広告に対する罰があるとするならば、それはどんな罰になるだろうか……と考えた。
 
 猪瀬直樹前知事のもとで出された申請書類には、開会式を行う7月24日から閉会式を行う8月9日までの期間の16日間を、競技を行う「理想の日程」と明記されていたのだ。さらに、その期間の東京の夏の天候について、開いた口がふさがらないような驚くべき説明が付記されていた。「穏やかな晴天が続くこの時期は、選手が最高のパフォーマンスを発揮できる絶好の天候である」
 
 もしも、この記述が東京の2020年開催権獲得に貢献したとしたら、IOCはその決定を考え直すべきだ。
 
 私は東京に1962年から住んでいるが、「穏やかな晴天が続く日々」という説明は、7月下旬から8月にかけての東京の天候の描写としてはふさわしくない。
 
 気温33度から40度にもわたる熱さは窒息しそうなほどだし、ほぼ1日中80%を超えるような湿度は、我慢の限度を超えている。梅雨明け以降の2カ月間は、まるで大きなサウナの中に座り続けているようなものだ。私は真夏にマニラやバンコク、ジャカルタやプノンペン、 シンガポールにも出かけたことがあるが、最悪なのは東京だと断言したい。
 
 東京よりひどい地域として思い当るのは、せいぜい米国カリフォルニア州のデスバレーか、アフリカの角(アフリカ最東北の突端で、ソマリアやエチオピア付近)くらいだ。
 
 たとえば、サッカーや自転車競技、50㎞競歩やマラソンといった屋外競技を、真夏の東京の日中の熱さの中で行うなんて私には想像できない。そんなことをすれば、トラブルを招くだけだ。
 
 運動すれば、人間の深部体温は自然に37度ほどまで上昇する。運動しはじめは、こうした体温の上昇は筋肉を動かすための血流を促し、パフォーマンスを助ける。しかし、深部体温が39度を超えると、アスリートのパフォーマンスは大幅に低下しはじめる。体温39度で、体はもはや自力では体温を下げられなくなるため、体温を低くしようと血液を皮膚表面にまで流そうとしはじめる。そのため、筋肉への酸素供給量が減り、パフォーマンスを低下させるのだ。
 
 高温下での運動は、深刻な脱水症状を引き起こし、熱疲労や痙攣、熱射病や昏睡状態を誘発し、ひいては死に至ることもある。
 
 昨年、テルアビブでのハーフマラソン大会が、気温が35度近くまで達する高温の中で開催され、参加者の1割が倒れた。ある29歳の男性は父親になったばかりだったが、レース中に倒れて病院に搬送され、その後死亡したと発表された。報道によれば、イスラエル軍の将校だった彼は、マラソン愛好家で、1日約20㎞のランニングを日課にしていたという。
 
 ロンドンマラソンは1982年の初開催以来、これまでに11名の選手が死亡している。アメリカでは21世紀の最初の10年で、42人のランナーが心臓麻痺で死亡している。死亡事故のほとんどは、気温30度以上という高温下でのレースで発生している。
 

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