安倍首相は、公的保険が適用される診療と適用されない診療を併用する「混合診療」を拡大させるための法案を、来年の通常国会に提出する考えを明らかにした。患者の選択肢が広がる一方、国民皆保険制度が実質的に形骸化してくる可能性もあり、一部からは懸念の声も上がっている。
現在、医療機関で診療を受ける場合には、二つの方法がある。ひとつは公的保険を活用し、治療費の大半を保険でカバーする「保険診療」。もうひとつは全額を自費で負担する「自由診療」である。
自由診療を行っている医療機関は少なく、大半が富裕層向けの完全予約制クリニックとなっている。ただ、歯科だけは例外で、インプラントに代表されるような自由診療は比較的ポピュラーな存在となっている。
公的保険制度は国民の健康にとって非常に重要な制度だが、国民は3割の自己負担で済むことから、ちょっとした病気でもすぐに病院に行ってしまい、結果として医療費の増大を招いている。また公的保険で利用できる治療法や薬は限られているため、最新の薬が使えないなど、患者のニーズに100%応えられないという問題もある。
こうした問題を解決するために議論されているのが、基本的な治療は公的保険で行い、必要に応じて、自費の治療を組み合わせるという混合診療である。
混合診療が認められれば、患者の選択肢は増えるので、患者は自分に合った治療法を選択できる。しかし、混合診療が認められてしまうと、最先端の治療法や薬は高額な自由診療でしか使われず、保険診療では古い治療法や薬ばかりという状況になってしまう可能性が指摘されている。厚労省は、混合診療の実施そのものには反対していないが、基本的に慎重なスタンスを崩していない。
厚労省が慎重なスタンスながらも混合診療に反対していないのは、日本の公的保険の財政状況が極めて深刻だからである。2011年の国民医療費の総額は38兆6000億円に達しており、5年後には現在より30%近く支出が増加する見込みとなっている。年金が約9%の伸びに収まっていることを考えると、医療費が財政に与える影響は極めて大きい。実は年金よりも状況が切実なのである。
結局のところ、混合診療の問題は財政問題ということになる。お金のある人はできるだけ混合診療へという流れである。確かにこのまま国民皆保険制度を続けていくと、日本の医療は厳しい状況になってくる可能性が高い。公的保険が完備している北欧や英国などでは医療費が無料というところもあるが、人命に関わる手術でも半年待ちなどはザラである。
たとえ医療の水準が下がっても全員が病院にかかれる制度を維持すべきなのか、医療水準を維持するためには、高い負担もやむを得ないのか、日本人はかなり厳しい選択を迫られているといえそうだ。
FOLLOW US