【資料/画像提供】国土交通省 関東地方整備局 江戸川河川事務所
ここは、“地下神殿” として知られる埼玉県春日部市の「首都圏外郭放水路」(国土交通省関東地方整備局による直轄事業)。神々を奉る場所ではなく、中川・綾瀬川流域の水害から人命や財産を守るという、神にも迫る役割を担う。
先ずは龍Q館を訪問し、予備知識を詰め込めることから始めた。そして、案内されるがまま、隣接する地上入口から階段を下りると、突然、巨大な「調圧水槽」が眼前に迫る。湿ったにおいが漂う静謐(せいひつ)な地下空間に、高さ18メートル、1本500トンもあるコンクリート製の柱が無数に立ち並ぶ(後から聞けば、59本とのこと)。この様子が、ギリシャ神殿のエンタシスを想起させ、思わず頭を垂れる。
洪水時の荒れ狂う河川の水は、5つの立坑から地下河川(全長6.3キロメートル)に流れ込む。そして、この調圧水槽を通じて隣接する江戸川に排出する。しかと受け止める水の量は、放水路全体で東京・池袋の超高層ビル「サンシャイン60」一棟分に相当。航空機用のガスタービンを改造した巨大ポンプが4基並立し、1秒間に25メートルプール1杯分の水を排出するとのこと(毎分ではありません!)。
この周辺地域には、中川、綾瀬川など多くの河川があり、低地のため昔から洪水被害に悩まされてきた。総工費2300億円を投じた巨大放水路により、水害が大幅に軽減されたと聞く。現代の地下神殿は、流域周辺の生活と産業を守り、それはそのまま首都圏機能維持を保証するものである。
調圧水槽に設置された世界最大級の巨大ポンプ設備は、1年に何回あるだろうか“その時”をじっと静かに待っている。
(執筆・監修:吉川弘道・東京都市大学教授)