MERS:ウイルス発見の医師「直後に解雇」 サウジ
毎日新聞 2014年06月14日 09時36分(最終更新 06月14日 12時51分)
◇「封じ込めには世界的な協力が必要だ」 保健省の圧力疑問視
【カイロ秋山信一】サウジアラビアを中心に世界各地への感染拡大が懸念されている中東呼吸器症候群(MERS)ウイルスを2012年に最初に確認したエジプト人ウイルス専門医、アリ・ムハンマド・ザキ医師(60)が毎日新聞のインタビューに応じた。ザキ医師は「封じ込めには世界的な協力が必要だ」と強調。MERS確認直後にサウジアラビア保健省の圧力で病院を解雇されたことを明らかにし、サウジ政府の感染症対策に関する姿勢に疑問を呈した。
ザキ医師はサウジ西部ジッダの私立病院で1994年からウイルス専門医として勤務していた。2012年6月に高熱や肺炎の症状があるサウジ人男性(当時60歳)を診察。男性は腎不全も併発し、入院から11日後に死亡した。ザキ医師は男性の痰(たん)から新種とみられるコロナウイルスを検出。確認のため、サウジ保健省とオランダの研究機関に検体を送った。
オランダの研究機関の検証で、新種だと確認されたため、ザキ医師は12年9月に世界共通の感染症情報ネットワーク「ProMED」を通じて報告した。同様の症状の患者を診察していた英国の病院から問い合わせがあり、MERS感染が確認されるなど、感染の実態調査にも寄与した。
だが報告から4日後、サウジ保健省は、ザキ医師が無許可で検体を海外に送ったことを問題視し、病院への監査を開始。ザキ医師は「検体を海外に送るのに保健省の許可は不要だ」と反論したが、数日後に病院から解雇を通告された。病院からは「保健省の意向に沿った判断」との趣旨の説明があったという。
ザキ医師は「不当な行為は何もしていない。保健省には問題を海外に広げたと捉えて、快く思わない人たちがいたようだ。サウジに残っていれば、感染源の確認などの研究を継続できたはずだ」と話した。
毎日新聞は5月下旬、ザキ医師の解雇の経緯やMERSへの対応についてサウジ保健省に文書で問い合わせたが、今月12日までに回答がなかった。元勤務先の病院も取材に応じなかった。
世界保健機関(WHO)は世界中からサウジを訪れるイスラム教徒の巡礼者らにも注意を呼びかけている。