鈴木敏夫×スパイク・ジョーンズ対談 文字起こし「21世紀は孤独の時代」

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先日行われた、鈴木敏夫プロデューサーとスパイク・ジョーンズ監督の対談を文字起こししました。
スパイク・ジョーンズ監督『her/世界でひとつの彼女』の公開を記念して行われたもので、内容は映画の話がほとんですが、「孤独」という現代性について『思い出のマーニー』と絡めて鈴木さんが話しています。




鈴木:
ぼくは、ほんとうはこんなとこに来てちゃいけないんですよ、失礼な言い方ですけれど。どうしてかって言うと、この夏に公開の『思い出のマーニー』っていう映画を作ってるんですよね。
だけど、なぜ今日来たかというと、ぼくはスパイクの大ファンなんです。もう『マルコビッチ』から、『アダプテーション』から、『かいじゅうたちのいるところ』から。それで、いろいろありまして、今日来ることになりました。

スパイク:
何日かまえに、ゲストは鈴木さんですと言われて、ぼくも大興奮だったんです。

鈴木:
ぼくね、実は、3月かな? アメリカのアカデミー賞に行ったわけですよ。『風立ちぬ』がノミネートされたんで。それで、ぼくは座席に座っててね、舞台を見ている立場だったんですけど。彼は舞台に上がって、いろいろスピーチされていました。で、羨ましいなと思ってました。

『her』は、素晴らしい映画ですよね。ぼくはね、普通の人間がね、そんなコンピュータに恋をすることができるのか、ってちょっと疑いながら観たんですけどね、観ているうちにちゃんと成立しているってことで、すごい感動したんですよ。
でも、彼の映画って、いつも主人公が……なんて言うんだろう、テーマもそうだけれど、一貫している?
常に、うだつの上がらない人を主人公にするでしょう? 決してヒーローじゃない。その人が、あるとき狂気が起きるっていうのかな。それで、それを観ててね、快感があるんですよ。
ロボットの短い作品(アイムヒア)もありましたよね。ちょっとタイトル忘れちゃったんだけれど。あれなんかもね、同じことやってるし、『かいじゅうたちのいるところ』も同じことをやってるしね。

さっき、ちょっとお目にかかったんだけれど、十何年で長編映画4本でしょう? 「もっと、いっぱい作ってください」って言ってたんですよ(笑)。

スパイク:
そうなんです。ちょっと、作業がゆっくりなので、4本しか撮れてないんです。
でも、映画に時間が掛かることは、鈴木さんはよくご存じでらっしゃるでしょう(笑)。

鈴木:
ぼくらも、『風立ちぬ』っていうのをやったときは、だいたい5年ぐらいかかったんで。
スタジオジブリっていうのはね、ぼくひとりしかプロデューサーがいなかったから、大変だったんですよ。
でも、そんなことは、今日はどうでも良いんで(笑)。

――監督はいかがですか、先ほどの鈴木さんの感想を聞かれて。

鈴木:
ぼく、共感するんですよ、あの主人公に。常に。

スパイク:
共感していただけるというのが、すごく嬉しいです。
ジブリ作品もそうですけれど、マジカルなことが起きるこういうストーリーでも、そのキャラクターにとって、起きていることがリアルでなければいけないと思うんですね。それが、やはり共感を呼ぶし。
そのためには、作り手である我々が、まず共感して、思いやりを持って、エンパシーを持って作らなければ、そうはならないと思うのです。
我々が夢想する夢を映像化しているわけですけど、それを如何に、観客にリアルに伝えられるか。それが、ひとつのチャレンジだし、楽しいところですよね。

鈴木:
ぼくね、どうしてああいう主人公を選んで映画をお作りになるのか、そこがいちばん質問してみたかったの。

スパイク:
もしかしたら、自分自身が、そういったタイプのキャラクターに共感するからかもしれません。
なにか、自分も世を模索しながら生きていますし、人生がどんどん変わっていくなかで、いろいろ悩んだりもするわけで。人生はミステリでもあるし。自分もそうだから、というところはあるかもしれません。

鈴木:
あの主人公たちを見てるとね、今回の『her』も同じことを感じるんだけど、この社会っていうものから、ちょっと置き去りにされてる? そんなポジションにいるような感じがして。
そういう人が、大きな出来事に出会って、世界が変わる? そこが、凄い好きなんですよね。

スパイク:
同感です。それ以上、もう言葉を足す必要がないように思うんですけど、ジブリ作品ともちょっと似ているかなと思うんですけど。例えば、『千と千尋』なんかも、普通の女の子が、全然違う世界に紛れこんで、いつもと違う力を発揮しなければいけなくなる。なにか、似ていると思うんですけど、如何でしょうか?

鈴木:
確かに、言われてみると、そうかなって(笑)。
でもね、その爆発のさせ方が、一種の狂気がある? あれも面白いんですよね。

スパイク:
どこまでやれるかっていうのは、面白いなっていつも思ってます。今回も、サマンサが、セオドアを離れていくんじゃないか不安になって、代理セックスを頼むところがあるんですけど、ちょうど脚本を書いていたときに、すごく興奮して書いていたのを覚えています。ちょっとやりすぎかもしれないぐらい、飛躍しているかもしれないけれど、キャラクターにとってはリアルであれば成立するわけで。撮影しているときも、みんなが居心地の悪い空気になってですね、すごく面白かったのを覚えています。
で、観客の方も、どうもあのシーンぐらいから、だんだん狂気というものが滲んでくるのか、爆発するのか、ちょっと居心地悪そうになさっているのを感じますね。

鈴木:
ぼくね、『her』を観て、実はすごい良かったのがスカーレット・ヨハンソン。声だけの出演。彼女の声が、ほんとうに良かったんですけど、キャスティングは自分でされたんですか?

スパイク:
そうなんです。キャスティングも
、おおよそ25人くらいオーディションさせていただいて。で、声だけで演技をしなければいけない。もちろん、その難しさっていうのは、よくご存じだと思いますが、今回は物理的な表現、視覚的な表現が一切ない中で、すべて声を通して演じなければいけないということが、大きなチャレンジでもあります。
そのなかで、自分が脚本を書いていたときに想像していた知性とか、非常に豊かな、深いエモーションというものを感じさせなければいけない。その声を持ったのが、彼女だったんですね。
で、共に作り上げていくなか、実は、4~5か月レコーディングを重ねました。その度に、より掘り下げて、ここにたどり着きたいといとこに、やっとたどり着くことができたんです。
自分にとっては、命を吹き込んでくれたのは、やっぱり彼女だったし、他の女優さんでは出来なかったのではないかと思います。

鈴木:
いやぁ、ぼく自身が、コンピュータに恋できるんだなっていうことを、ほんとうにこの映画で体験したから。
元々、スカーレット・ヨハンソンは好きだったんですけど、最初のうちは、なんで声だけなんだって思ってたんだけれど。しかも、顔見せてよって言いたくなったんですけどね。
声が、ちょっと鼻にかかってますよね? で、あの鼻にかかった声がね、最初ちょっと気になるんですよ。だけど、気が付いたら、その虜になっちゃうって言うのかな。
絶対、あれ主演女優賞ですよね。

スパイク:
もちろん素晴らしい女優であるのは、今回の彼女の声だけの演技で感じていただいたと思うのですが。そして、それに加えて、彼女の魅力の本質というのが、今回伝わったんじゃないかと思うんですね。
それは、やはり彼女の自信、そして自分をよく知っている、だから声だけでもセクシーなんですよね。

鈴木:
ほんとうにそう思いました。
全然話が変わるんですけど、やっぱり21世紀に映画を作るとき、やっぱり孤独っていうのは、大きなテーマなんですね?

スパイク:
面白い考察ですね。考えたこともなかったんですが。そうすると、40年前、50年前は、あまり映画製作で孤独というのは、テーマとしてなかったんですか?

鈴木:
「孤独」っていうのは、あまりなかった気がするんですよ。

――それは、鈴木さんのなかでもテーマになりつつある、ということですか?

鈴木:
今回、ぼくらが作っている映画も、それ(孤独)なんですよね。
いろいろやってるうちに、そうなっちゃったんですけどね。ただ、世の中がね、やっぱり変わってきたんだと思うんですよ。
ぼくなんか、長く生きてるから。何しろ、ぼくらが生まれ落ちたときは……例えば、「映画」ってあるでしょ? 映画っていうのは、公共の場で多くの人が見るもの。で、その「映画」の時代があってね、そのあと、「テレビ」っていうのが出るでしょ。テレビは、日本では家族で見るものだったんですよ。
ところが、このネットっていうのか、スマートフォンその他は、個人じゃないですか。そうすると、技術革新によってね、人々の暮らしも変わったし、内面も変わってきてる。そんな時代が来ているときにね、やっぱり彼の映画っていうのは、意味を持つと思ったんですよね。

スパイク:
そういう歴史的な文脈のなかで、「孤独」というテーマを考えたことはなかったので、非常に興味深いです。自分としては、自分が当時、考えていた感じていたものが反映されているわけで。でも、そういう孤独を抱える我々でも、こうやって分かち合うことで作品を通して、あるいは話すことによって、寂しさが少しでも安らぐのが希望でもあります。

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