【集団的自衛権行使容認】72年見解、都合よく利用 歯止めになるか疑問
自民党の高村正彦副総裁が集団的自衛権の行使容認に向けて示した自衛権発動の新たな3要件は、1972年に政府が国会提出した資料の文言を引き、過去の政府見解との整合性を重視する 公明党との合意へお膳立てを急ぐ思惑 が透ける。だが72年見解は結論として「集団的自衛権行使は憲法上許されない」と明記しており、一部を都合よく利用し解釈を変えようとする印象は否めない。有識者は政府、自民党が主張する限定行使の歯止めになり得ないと疑問を呈している。
現在の自衛権発動3要件は①わが国に対する急迫不正の侵害がある②この状況を排除するために他の適当な手段がない③必要最小限度の実力行使にとどまる―と規定。1954年の佐藤達夫内閣法制局長官(当時)答弁などで示され、歴代内閣はこの3条件を満たさない限り、憲法9条下では自衛権を行使できないとの立場を取ってきた。
高村氏のたたき台は最初の項目について、日本だけでなく他国への武力攻撃が起きた事態にも広げ、その結果「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される恐れがある」場合と表現を変更した。
72年見解で国民の幸福追求権などが「根底から覆される急迫、不正の事態」では自衛措置が許されるとした記述を借用。「恐れ」の文字を加えて想定される事態をあいまいにしている。
集団的自衛権行使に当たり、日本国民の権利が極めて大きく侵害される場合に限定すると強調したい意図があるのは明らかだ。公明党幹部の一人も新3要件は「論理、継続性の観点から筋は通っている」と理解を示す。
これに対し 阪田雅裕 元内閣法制局長官は「集団的自衛権を使うのは、日本が武力攻撃を受けていない状況が前提になる。日本に戦禍が及んでいないのに『国民の権利が根底から覆される』事態など想定できない」と指摘。「具体的な想定がなければ言葉遊びにすぎず、明確な歯止めにはならない」と批判している。
(共同通信)