長野県内外の自治体が政治的中立性を保つためとして、市民団体の集会などの後援要請を断る例が相次いでいる問題で、県教委と中野市、須坂市が同様の理由で後援要請を断っていたことが11日、信濃毎日新聞社の県と県教委、19市への取材で分かった。同じ催しで県教委と市の判断が分かれたケースもあり、後援を要請した側からは「必要以上の自主規制ではないか」といった声が出ている。
近年の後援要請にどう対応したか、担当課などに聞いた。
県教委は、教育子育て九条の会(東京)などが昨年12月に長野市で開いた全国交流集会の後援要請を断った。憲法の精神を教育、子育てにどう生かすかを議論する趣旨で、県内外の300人余りが参加。県内初の開催で、主催者側は昨年9月に文書で後援を要請した。
県教委に提出した集会の案内文書には、安倍政権に対し「改憲を許さない大きな世論づくりが急がれます」などとした部分があった。この点について、県教委文化財・生涯学習課は取材に「政治的課題について一方の意見を応援することになる」と判断し、後援要請を断ったと説明している。
一方、長野市と同市教委はこの交流集会を後援した。同市は、政治活動に当たるかどうかを後援の可否の判断基準として明文化しておらず、市庶務課は「交流集会は教育や子育てについて考える場と判断した」としている。
中野市は、新日本婦人の会中野支部や憲法9条を守る中野市民の会の有志らが、今年3月に同市で開いた映画上映会の後援を断った。映画は、原発建設計画を住民投票で撤回させた新潟県巻町(現新潟市)の人々を描いた「渡されたバトンさよなら原発」(監督・池田博穂さん、脚本・ジェームス三木さん)で、約370人が観賞した。
1月の後援依頼に、市は「国論を二分する問題で、市が片方だけ支持するわけにはいかない」とした。市庶務課は取材に「政治活動の一部と判断した」と説明している。
須坂市が後援要請を断ったのは、2012年9月に市民グループ「須坂市革新懇」などが開いた講演会。「中越沖地震・福島第1原発事故から学ぶ柏崎刈羽原発の危うさ」のテーマで大学教授らが原発事故の危険性を話し、約120人が参加した。
市政策推進課によると、市に後援の要領はなく、要請を断った講演会は「市が脱原発を推進していると思われる恐れがあった。中立性を保つ行政の立場から後援を断った」としている。
県内では千曲市九条の会などが今年3月、自民党改憲草案の問題点を聞く講演会を計画し、千曲市と同市教委が後援を断ったことが明らかになった。断る前に市の担当者が「市長と立場の違う講演内容」とならないよう文書で求めたことが判明し、市は5月に同会に謝罪し、文書を撤回した。