真相深層「移民」は介護から? 外国人労働者拡大、静かに模索 技能実習見直し焦点
2014.02.05
真相深層「移民」は介護から?
外国人労働者拡大、静かに模索 技能実習見直し焦点
日本経済新聞 2・5
安倍政権は1月にまとめた成長戦略の検討方針に「外国人受け入れ環境の整備」と明記した。
「移民」や「単純労働者」と言い出せば国論を二分しかねない問題。
そこで政府は、受け入れの対象を低・中レベルの技能労働者までじわりと広げるステルス(見えにくい)作戦を進めようとしている。
外国人労働者が6月にまとめる成長戦略の焦点に浮かんできた。
保守系の政治家には外国人嫌いもいるが、安倍晋三首相は違うようにみえる。
議事要旨からは削除されたものの、首相は最近の経済財政諮問会議で「移民というとたいへんな議論になってしまうが、外国人材は重要」という趣旨の発言をした、と関係者は明かす。
人口減対策に
政府はなぜ、いま外国人労働者の受け入れを拡大しようとしているのか。
首相官邸の政策会議に参加する民間議員はいう。
「日本が総人口減少にどんな手を打つかに、外国人投資家の関心が極めて高いからだ」
第1弾は建設労働者だ。型枠工、左官といった技能労働者は1997年の450万人から足元では約100万人減少。2020年の東京五輪や震災復興をにらみ、外国人に頼らざるを得ないと官邸は判断した。
1月24日の閣僚懇談会で菅義偉官房長官は「年度内をメドに時限的な緊急措置の決定を」と踏み込んだ。
「4万~5万人の外国人労働者は必要」と国土交通省幹部はそろばんをはじく。
技能実習制度で中国やベトナムなどからきた建設労働者は年1万5千人程度いるが、建設に絞った特例は難しい。そこでウルトラCとなるのが「特定活動」という在留資格を使う案だ。
法改正はいらず、法相告示だけで在留資格を与える外国人を加えられる。
次は介護だ。今は技能実習制度の対象外だが、昨年10~11月の産業競争力会議雇用・人材分科会で民間議員から「介護を加える必要がある」(武田薬品工業の長谷川閑史社長)といった声が続出した。6月をメドに政府が打ち出す技能実習制度見直しの焦点となる。
日本は経済連携協定(EPA)に基づきインドネシアとフィリピンの介護福祉士候補を累計で1000人以上受け入れている。
介護の実習生を認めれば、介護福祉士候補より技能の低い人材が大量に来る可能性がある。
しかも高齢化で日本の介護現場での人材不足はかなり先まで続く。
「事実上の移民が介護から始まる」といわれる理由だ。
規制緩和を唱える安念潤司中大教授でさえ「製造分野と違い、介護は対人サービス。
職場の広がりは大きく、制度の運用を監視するコストも莫大になる」と予想する。
新たな技能検定試験をつくる必要もあるだろう。
そもそも技能実習制度は「国際貢献の一環として途上国に日本の技術を移転する」(厚生労働省)のが本来の目的。人手不足対策を前面に出し過ぎれば「目的外利用」との批判を招く。
次期経団連会長の榊原定征東レ会長が求めているのは実習生の滞在期間を現行の3年から5年以上に延長する規制緩和。
単純に期間を延ばすと実習生が定住者に近づく。
日本では専門的、技術的分野の外国人は受け入れる一方、単純労働者の入国は認めないのが基本だ。
だから単純労働者を含む外国人で人手不足を解消するという“本音”を言えずにきた。
その結果、制度を小手先でいじろうとして、無理が生じているのが現状だ。
制度設計議論を
賃金や残業代の未払いや旅券とりあげ……。こうした実習生の人権侵害の多発を理由に制度廃止を求める指宿昭一弁護士は「代わりに外国人をしっかり受け入れる制度を議論すべきだ」と語る。
政府はこれまでも法の網をかいくぐって一歩ずつ外国人の受け入れを増やしてきた。その限界も見え隠れしている。
(経済部次長 瀬能繁)
▼技能実習制度 1993年に始まり、2012年末時点で実習生は15万人超で、出身国は中国が首位。
企業が単独で受け入れる方式と、商工会や協同組合など「監理団体」を窓口として実習先をあっせんする方式がある。
実習期間は3年でいまは帰国後に実習生として日本に再入国することは認めていない。
対象は農業、建設、食品製造、繊維・衣服、機械・金属など68職種がある。