公開前なので抑え気味のレビューにしたつもりだけど、原作未読の人にとっては危険な情報も多々あると思うので、ここから先、原作未読の人・少しのネタバレも許さない原作既読の人は読むの非推奨。原作既読だし覚悟あるよという人か、未読だけど別に映画観ないし構わないという人はこっから先スクロールして読んで下さいませ。
この先、一千里
はじまるよ
【レビュー】映画『All You Need Is Kill』
この映画を評価するのは、非常に悩ましいものがあります。結論から先に言ってしまうと、「この映画、邦題も『Edge Of Tomorrow』で良かったんじゃないか」に尽きます。これは皮肉や嫌味ではなく、真にそう思っています。映画の原題が発表された時、『Edge Of Tomorrow』たぁダサいタイトルだ、みたいな意見をたくさん見たし、私もそう思っていたけど、観終わった今となっては『Edge Of Tomorrow』で良かったんじゃ? と思うのです。
日本のライトノベル史上初となるハリウッド映画化。それも、記憶に新しい「ドラゴンボール EVOLUTION」や「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」みたいな日本製コンテンツの残念映画化じゃなくて、ちょっと低調気味とは言え第1級のハリウッドスター主演、先端の特撮技術、なにより制作費がジャボジャボかかった大作映画です。これ以上何を望むのか、というくらいの豪華な映像化です。日本出身クリエイターによる快挙と言って良い。
肝心の映画も、強化外骨格を着込んだ兵士はガニ股歩きだったりとか、4発ティルトローターの先行後にCH-47系がやってくるとか、前線基地と化したヒースロー空港とか、細かい所が中々良く出来ています。良い塩梅で未来と現在が混在するロンドンあるいは戦場の雰囲気も上出来で、CG・スタントマンてんこ盛りの迫力の戦闘シーン、そして本作のキモであるループ描写もアニメ版涼宮ハルヒの憂鬱における「エンドレスエイト」の悲劇のようなタルさはなく、適度なテンポで魅せてくれます。そして余韻を残すラスト。うん、面白かった。
そう、一本の映画として観れば、良いんです。良いんですけど、これは『All You Need Is Kill』という映画ではないんです。だって、殺す必要が無いんですから……。その意味で、アメリカでの上映タイトル『Edge Of Tomorrow』は、とても正しかったのかもしれないと本気で思います。
敵は劇中でも原作と同じ「ギタイ」あるいは敵と呼称されているけど、原作の棘皮動物のイメージよりも、マトリックスのセンチネルに近い。あの触手ウネウネした奴。原作とちょっと設定が異なり、ループ能力獲得とその仕組みも違います。この点が最後に響いてくる。ループの仕組みを説明している時点で気付くべきだったんや……。
また、下の予告冒頭でのコーヒーのシーンを見て、原作既読の人が評価する向きがありました。
だが、それは製作の罠だ。このコーヒーのシーン、ぶっちゃけ原作のコーヒー要素と全く関係無い。他にも、予告にもある火の手の上がるロンドンは、原作で脱走したケイジの先にギタイがやってくるのと同じように、トム・クルーズがロンドンに来たせいか? と一瞬思ったけど、それも違った。そんな風に原作既読派おじさんにとっての罠が所々に仕掛けられている。これを意図してやったなら、脚本家はドサドだ……。
何度も書くけど、映画は面白いんです。ループ設定を活かし、ケイジとリタで作戦を練っては失敗し練っては失敗を繰り返し、パターン破りまで行きつく過程とか、観ていて面白い。警備の目を縫って建物へ潜入するシーンも、実際にやるとこうなるのかー、と興味深いとこも多い。でも、タイトル、というか邦題……。これはちょっとマズったんじゃなかろうか。邦題に原作を明示させる以外の意味が備わってない。
この映画は「All You Need Is Kill」の映画版として捉えるより、ループによって最強戦士となっていくアイディアを、ハリウッドマネーで映像化したと考えた方が実態に近い。映画単体として観れば悪くないだけに、ハリウッドに設定だけ持って行かれたようで、非常に悔しい所です。正直、原作未読のほうが後腐れなく楽しめると思います。
あと、最後に。眼鏡っ子は出てきません。眼鏡っ子に相当する役っぽいのはおっさんです。ファックアメリカ。
おわり