営業をやっているとき、私より一つあたりの案件の売上平均が私の1.6倍くらい高い先輩がいた。
その人は、相手に対して「これだけやれば絶対成功する」と言い、
「あなた方なら絶対にできると思うからこれだけの提案をするのだ」が決め言葉だった。
結果として相手の想定している予算額よりもおそらく多くを引き出した。
しかし、その提案に明確な根拠があるわけではなく、
見積もりや準備も十分にはされていないことが多かった。
結果として、予算より多くの金額を出しているのに
プロジェクトはよく炎上し、多くの人に迷惑をかけたあげくに失敗することもあった。
まだ新入社員で意識が高かった私はこれを横目で見て誠実ではないと感じた。
だから見積もりに時間をかけ、自分なりには細かく計画も立てた。
言い方を変えた。
「最低限これだけやらないと成功することは難しい」
「ここまでやってようやく成功できるかどうかのギリギリライン」
というような表現をした。決め言葉として使ったことはないけれど
「自分が考える限りこうするのがベストだ」みたいな思い上がりがあったのだと思う。
自分の提案が、先輩よりお客様のためになっている、とか勘違いしてた。
それどころかよくお客様から「お前は客をなめているのか」と怒られた。
「確実に成功できる提案をもってこないなら営業なんていらん」と言われた。
絶対に成功する提案なんてない。
それはお客だってわかってる。
それでもお客さんはそういうものをもとめる。
失敗するか成功するかぎりぎりのものを持ってくるやつはただのバカだ。
心の底ではそう思っていたとしても、成功するといいきらないとだめなのだ。
そういう自信に満ちた提案をもってくることだ。
バカには見えない仕立服を作ってくることだ。
そして、いざ失敗したら、担当者の代わりに処刑される役目を引き受けるのだ。
そのプロジェクトにコミットしてくれるかどうかにかかっている。
「絶対大丈夫ですからやりましょう」と音頭をとるのが営業の役割なのだ。
士気を高めるというか、社長をやる気にさせる提案をできるかどうかがキモなのだ。
提案するものを信じること、信じさせることだったのだ。
だとすると、私のやっていたことは実に愚かな思い上がりであった。