政府は12日、原子力発電所事故の被災者への賠償ルールを定めた「原子力損害賠償法」を見直すための初会合を開いた。東京電力福島第1原発事故で「法の不備」が指摘された、電力会社の免責規定の明確化が焦点だ。電力各社が原発を再稼働する課題にもなっている。国の財政負担が膨らむ可能性があり、関係省庁間の攻防が激しくなりそうだ。
会議には原賠法を所管する文部科学省に加え、経済産業省などの副大臣クラスが出席。座長の世耕弘成官房副長官は「これから事故が発生した際の賠償のあり方を検討する。福島の賠償には影響ない」と述べた。
原賠法見直しのポイントは3つ。まず電力会社など原子力事業者の賠償責任が免除されるケースを明確にすることだ。同法は「異常に巨大な天変地異や社会的動乱」が起きたときの免責を定めているが、具体的にどのようなケースに適用されるのか、あいまいだ。
福島第1原発事故では東電への免責適用も一時議論された。原賠法が異常事態を定義していないことが、適用を見送る理由の一つになった。
2つ目は、賠償金支払いに備えた「原発保険」の支払上限額を引き上げることだ。原賠法は事故に備えて事業者に保険加入を義務づけているが、支払い上限は1200億円。東電の賠償金は足元で4兆円を超えている。
最後は、事業者が過失の有無にかかわらず無限責任を負う規定の見直しだ。米国は約1兆2800億円、ドイツは約3500億円と、海外では賠償額に上限がある。電力各社からは「賠償が青天井では原発を再稼働するリスクが大きすぎる」との声が上がっている。
原賠法が制定された1961年当時も無限責任には意見対立があった。法整備に向けた専門部会座長を務めた民法学者の我妻栄氏は「最終的な賠償責任は国が持つべきだ」と主張したが、旧大蔵省側は財政負担が膨らむ可能性を懸念して反対。その結果、事業者が全責任を負う規定となった。
今回も対立の兆しがある。経産省はエネルギー基本計画で原発活用を打ち出したことを受け、積極的な立場。文科省などは国の関与を強める議論には慎重だ。財務省は財政負担の膨張に警戒感を示している。
原賠法見直しのきっかけは、原発事故の国際的な賠償を定めた条約(CSC)だ。加盟すると、原発事故の被害者は事故が起きた国でしか提訴できなくなる。福島第1の廃炉に携わる米国企業にとっては本国で巨額の賠償請求を受けるリスクがなくなり、結果として米企業の廃炉作業への参加が増える可能性もある。
12日、日米両政府が開いた民生用原子力の安全に関する2国間委員会で、日本側はCSC加盟に向けて承認案を秋の臨時国会に提出する方針を表明した。原賠法見直しは、条約加盟に向けた法改正の議論と合わせて進んでいく。
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