(cache) 和食・特攻・慰安婦――無形文化遺産と世界の記憶をめぐる政治についてのメモ

2014-06-13 次の改二が川内・綾波と聞いて胸熱

■[世界遺産]和食・特攻・慰安婦――無形文化遺産と世界の記憶をめぐる政治についてのメモ

　ここ最近の無形文化遺産や世界の記憶をめぐるあれこれのニュースに対する雑多な感想などを。

「世界に認められた和食」？

　「世界が認めたアイヌ文化」と言ったことのある者だけが「世界が認めた和食」と言いなさい。アイヌ古式舞踊や組踊や結城紬や甑島のトシドンや秋保の田植踊に対して大々的に特集組んだことがあるんですかね。世界各地で伝承されている多様な文化，その保護を眼目においた制度だっつーのに「和食」が登録されてようやく大はしゃぎですか。無形遺産って単なるブランドとしてしか認識されてないのかね。やれフランス料理だやれキムチ文化だと日本以外でも騒々しいことこの上ないので，フランス料理・和食・キムチ文化辺りはまとめてリストから削除しよう（提案）。

「特攻」を世界の記憶に？

　「特攻」が世界記憶遺産に⁉安倍ご執心、担当は籾井令嬢：FACTA online

　まあ，いいんじゃないですか。兵士を自爆攻撃させる戦法を近代戦で採用した軍なんて日本軍と，あとは日本軍のカミカゼアタックに触発されたドイツ軍くらいなわけで，その「統率の外道」に巻き込まれた被害者たちの手記の稀有な記録というロジックを組み立てれば，唯一性の点ですぐれているわけで，十分登録に持っていけると思いますよ推薦者たちがそんなロジックを組み立てることは絶対にないだろうけれど。このカシオミニを賭けてもいい。水平社宣言の登録潰すためだけに特攻隊員の遺書持ち出すとか特攻隊員をどれだけ冒涜すれば気が済むんだ。恥を知ればいいのに。

　で，国内候補選抜に漏れたらしいんですが。

　特攻隊員遺書「日本の視点のみ」　記憶遺産候補ならず：朝日新聞デジタル

　実際にはわたしはUNESCO国内委員会の評価を見たわけではないので，報道からの憶測になってしまうけれど，「日本からの視点のみが説明されており，より多様な視点から世界的な重要性を説明することが望まれる」ってのが表題とかでも強調されてて，実際それも重要なのだろうけれど，「特攻は沖縄戦の時期だけでないことも踏まえ，『唯一性』『完全性』の説明を補強することが望まれる」という指摘も結構なネックになっていたんじゃないかなあとも思う。要するに今回の申請は「知覧からの手紙――知覧特攻遺書」というものだったわけだけど，「なんで知覧に所蔵されてる遺書だけなの？」という点をうまく説明できなかったのも大きいんじゃないかと。特攻隊は知覧からのみ飛び立ったわけではないわけで，そこで「知覧の遺書」のみを登録しようとするなら，たとえば特攻に関する史料をもっとも体系的かつ大々的に蒐集しているのが知覧だからだとか，そういうエクスキューズというか理由づけが必要なのに，それをしていなかった，という問題があるのではないかしら。だって物件名がそもそも「知覧」を焦点化していてしまっているわけで，特攻を普遍的な価値を持つ記憶にしようとするならばそれはそもそも登録案のコンセプトがおかしかったという話にならざるを得ないというか。まあ，申請書練り直して再チャレンジ頑張ってください（鼻ホジ）。

（ところで，FACTAの記事はブコメ欄での死体蹴りにも一見の価値があると思います）

評価の定まっていない物件を登録しようとするのはおかしい？

　【南京・慰安婦　記憶遺産申請】定まらない評価に際立つ異質さ　既存遺産と一線 - MSN産経ニュース

　慰安婦や南京の評価が定まってないとか言ってるのは歴史修正主義者だけで，典型的な足止め論法だろコレ，というのを抜かして考えたとしても無理のある記事というか。なんか，「世界遺産」みたいな名前がついちゃうと勘違いするひとが一定数いるようなんだけど，既に評価の定まったものを登録するという局面と同時に，制度が新しい評価を作り出していく局面もあるんだよ。

　わたしは「世界の記憶」や「無形文化遺産」にはあまり詳しくないのだけれど，世界遺産制度で言うと，たとえば「文化的景観」。これはもともと，自然遺産としてのみ評価されていたアオテアロアのトンガリロ国立公園に対して，先住民族のマオリから「われわれの聖地でもあるのに，自然遺産としてしか評価されないのはおかしい」という声が出たことがきっかけで導入されたもの。10の登録基準には明記されていないけれど，補助的な基準のようなものとして扱われていて，人工／自然の双方の要因で形成され，多くの人に宗教的・文化的な影響を与えてきた景観もまた，その地域の独自の文化遺産であるとしたもので，「富士山」が文化遺産として登録されているのもこの「文化的景観」が評価されたから（この基準がもっと早くに一般化していれば，二風谷がダムに沈むことを防げたかもしれない）。無形文化遺産だったら「文化的空間」っていう概念が導入されていて，たとえば自然の中の霊場とか，様々な文化的営為が行われる広場とか，そういった場所が「空間」としての価値を認められて登録されているわけで。こういう風に新しい評価軸を作り出していく，という営為がUNESCOの展開している制度にはあるので，評価の定まったものだけを登録すべきだ，という産経新聞の論調は端的に言って世界遺産周辺の事情をまったく理解していない素人考えですよね，としか。というかそもそも，日本初の世界の記憶である「山本作兵衛コレクション」だって，21世紀になってようやく光が当たった物件なのだけれど。

　ところでこのニュースを聞いたときに真っ先に思い出したのは，アメリカが原爆ドームの世界遺産登録に強硬に反対したという史実でありました。今から20年前の出来事だから，知らないひとも結構いるんだろうなあ。このアメリカの行動をみっともないと思うひとなら，産経新聞の主張のみっともなさはわかるはずだと思う。

Permalink | コメント(1) | トラックバック(0) | 20:02

コメントを書く

Cunliffe 2014/06/13 22:35 まず、和食の無形文化遺産登録に向けた動きはそれまでの方針、簡単に言うと無形文化財からある一定の規則に従って登録する、というのに真っ向から逆らっているところが重要かと。かなりごり押しがあったような痕跡が見受けられます。フランス料理が登録されたのは、それが登録された政府間委員会が相当滅茶苦茶にもめたという経緯もあり、（詳しくは検索してみてください）、やっちまった感が高いのです。

文化的景観と文化的空間については、有形と無形遺産の融合、というか連携というあたりで、ICOMOSあたりで活発な議論がなされています。その辺もぐぐるといろいろ出てきます。日本語ではあまりありませんが。世界遺産の方がそろそろ行き詰りつつある、という生臭い事情もあったるするのですが以下略。

ところで、日本から無形文化遺産に登録されたものを全部知ってる人って、文化庁あたりの関係者以外にはいないんじゃないでしょうかねえ。

取り留めもなく失礼しました。