★そもそもORとは――2つの定義
ORとはOperations Researchの略称です。
この手法を用いて、戦時中に米海軍の分析者たちは神風特攻機の回避戦略を生み出しました。
『情報化時代の戦闘の科学 改訂 軍事OR入門』からの孫引きですが、以下に定義を載せます
日本工業規格(JIS-Z-8121-2000)の定義
「科学的方法及び用具を体系の運営方策に関する問題に適用して、方策の決定者に問題の解を提供する技術である」
日本OR学会編、OR辞典2000の定義
「現象を抽象化した数理モデルを構築し、モデル分析に基づいて種々の問題、とりわけ意思決定問題の解決を支援する方法論や技術の総称、情報化社会の進展に伴って、線形計画法に代表される最適化モデルや待ち行列理論に代表される確率的なモデル等、多様なモデルに基づく分析が、経営計画や生産・販売・財務等の企業意思決定や都市・公共システム等、広く社会一般の問題解決に大きな役割を果たしている」
平たく言えば、「難しい数学を使って、もちうる資源を使って最適な解(最大の成果)を得るための方法論」ですかね。
★神風特攻隊機に対する艦艇の回避運動の分析
少し長くなるが前掲書のp75〜p77を以下に引用します(引用部分は「」内)。
▼検討すべき問題
「1944年10月以降、日本軍の特攻機の猛攻に曝されるようになった米海軍の艦艇は、火の玉となって突入してくる特攻機をかわすために艦艇長は如何に操艦すべきか」
▼集めたデータ
「米海軍のOR分析者達は特攻機に攻撃された艦のデータ:477件を集め(このうち艦艇の行動、特攻機の最終状況が明確な有効データは365件であった)、被攻撃時の艦艇の回避運動の状況や特攻機の攻撃法(急降下攻撃か、低空侵入ホップ・アップ攻撃か)、攻撃方位と突入成功率等を調べ、戦艦、空母、重巡の大型艦と、軽巡、駆逐艦、揚陸間、補助艦艇等の小型艦艇に層別して……データをまとめた」
▼データ分析結果(本書中では縦軸に回避運動あり・なし、横軸に艦艇が小型・大型の場合の”特攻機の突入成功率”をマトリックス図で表示されている)
「艦艇の回避運動の有無と特攻機の突入成功率の大小関係が大型艦と小型艦では逆の傾向を示している(※回避運動をしたほうが大型艦は沈みにくく、小型艦は回避運動をしないほうが沈みにくい)」
▼分析理由
分析者達はその理由として特攻機の突入成功率には「艦の回避運動」よりも「対空砲火の影響」の方が大きいと考え。以下のように解釈した。
大型艦:艦が急変針の回避運動を行っても慣性が大きいために艦の回頭は比較的ゆるやかであり、安定した対空射撃ができるので、回避運動は有効である
小型艦:高速・急転舵の回避運動を行った場合には、艦の傾斜・動揺が激しく射撃精度が大きく崩れるために有効な対空射撃が実施されず、回避運動は反って特攻機の突入を用意にしている。
▼分析理由に基づく情報の再収集と精査
分析者たちは、上記の”仮説”を検討するため、再び「対空射撃による特攻機の撃墜データ」を集め分析した。
この結果、
?大型艦
回避運動により対空砲火の撃墜率が向上する。
これは大型艦は慣性が大きいのでゆっくり回頭し、それに伴って対空火器の射界制限が移動して各銃砲の射撃が均等化されるために目標撃破率が向上するため。
?小型艦
回避運動により対空砲火の撃墜率がかなり低下する。
これは小型艦では急変針に伴う艦の傾斜・動揺・振動が激しく正確な対空射撃ができなくなるため。
?結論1
以上により、小艦艇の回避運動に伴う対空火網の崩れが特攻機の突入を許している原因であることがわかった。したがって小艦艇の回避運動は対空射撃を阻害しない程度で行うべきと結論された。
▼特攻機の攻撃方位と突入成功率の関係(結論2)
高空からの急降下突入機は艦首尾線方向(※たぶん、船の頭と尻の先っちょを結んだ直線のこと)で成功率が高く、海面を這ってくる低空突入機は艦艇の正横からの攻撃の成功率が高い。これは突入時の目標の大きさによる定性的な理解に一致する。
▼そして導き出された回避運動の原則とは……。
以上、結論1・2により、「OR分析者たちは神風特攻機の攻撃を受けた場合の艦艇の回避運動の原則として、次に述べる対抗戦術を勧告」した。
○回避運動の原則
「すべての艦艇は高空から急降下してくる特攻機には艦腹を向け、低空からの特攻機には艦首尾線を向けるように操艦して回避せよ」
○大型艦の回避
「対空射撃を実施しつつ、急速な大角度の転舵により回避運動を積極的に行え」
○小型艦の回避
「射ちまくれ。急激な大角度変針の回避運動を避け、正確な対空砲火網の維持を優先しつつ、適切な回避運動を行え」
▼追跡調査の結果:原則の適切性の調査
「ORワーカー達はその後上述の回避戦術の有効性について追跡調査を行い、上述の勧告に従った艦艇に対する特攻機の突入成功率はわずか29%に対して、勧告を無視した艦艇は47%にも上る被害を受けていることを確かめ、上述の勧告が妥当であったことを確認した」
以上の米海軍のORの軍事利用について、著者は注目するべき点として以下を挙げる。
有効データ365件に上るデータの収集
「生死転瞬の間の行動についてこのように大量の詳細なデータが、戦場において驚くほど短期間のうちに収集できる態勢にあったことは驚くべきことである」
(2)統計的な戦訓の分析
(3)追跡分析の実施
軍事へのORの応用は、自然科学としてのアプローチをあくまで貫いて行われた。
実は、「Methods of Operations Research」という本(http://www.amazon.co.jp/gp/product/0486432343/ref=ord_cart_shr?ie=UTF8&m=AN1VRQENFRJN5 )が戦後(1951年)に出版されていて、 実は上記の元ネタがこれ。ちゃんと参考文献に挙げられています。
アマゾンの感想にあるように、普通なら軍事機密なのにコトが終わったら、国民に研究を公開する姿勢だけは政府に学んで欲しいもんだと思った次第なのでした。
ORとはOperations Researchの略称です。
この手法を用いて、戦時中に米海軍の分析者たちは神風特攻機の回避戦略を生み出しました。
『情報化時代の戦闘の科学 改訂 軍事OR入門』からの孫引きですが、以下に定義を載せます
日本工業規格(JIS-Z-8121-2000)の定義
「科学的方法及び用具を体系の運営方策に関する問題に適用して、方策の決定者に問題の解を提供する技術である」
日本OR学会編、OR辞典2000の定義
「現象を抽象化した数理モデルを構築し、モデル分析に基づいて種々の問題、とりわけ意思決定問題の解決を支援する方法論や技術の総称、情報化社会の進展に伴って、線形計画法に代表される最適化モデルや待ち行列理論に代表される確率的なモデル等、多様なモデルに基づく分析が、経営計画や生産・販売・財務等の企業意思決定や都市・公共システム等、広く社会一般の問題解決に大きな役割を果たしている」
平たく言えば、「難しい数学を使って、もちうる資源を使って最適な解(最大の成果)を得るための方法論」ですかね。
★神風特攻隊機に対する艦艇の回避運動の分析
少し長くなるが前掲書のp75〜p77を以下に引用します(引用部分は「」内)。
▼検討すべき問題
「1944年10月以降、日本軍の特攻機の猛攻に曝されるようになった米海軍の艦艇は、火の玉となって突入してくる特攻機をかわすために艦艇長は如何に操艦すべきか」
▼集めたデータ
「米海軍のOR分析者達は特攻機に攻撃された艦のデータ:477件を集め(このうち艦艇の行動、特攻機の最終状況が明確な有効データは365件であった)、被攻撃時の艦艇の回避運動の状況や特攻機の攻撃法(急降下攻撃か、低空侵入ホップ・アップ攻撃か)、攻撃方位と突入成功率等を調べ、戦艦、空母、重巡の大型艦と、軽巡、駆逐艦、揚陸間、補助艦艇等の小型艦艇に層別して……データをまとめた」
▼データ分析結果(本書中では縦軸に回避運動あり・なし、横軸に艦艇が小型・大型の場合の”特攻機の突入成功率”をマトリックス図で表示されている)
「艦艇の回避運動の有無と特攻機の突入成功率の大小関係が大型艦と小型艦では逆の傾向を示している(※回避運動をしたほうが大型艦は沈みにくく、小型艦は回避運動をしないほうが沈みにくい)」
▼分析理由
分析者達はその理由として特攻機の突入成功率には「艦の回避運動」よりも「対空砲火の影響」の方が大きいと考え。以下のように解釈した。
大型艦:艦が急変針の回避運動を行っても慣性が大きいために艦の回頭は比較的ゆるやかであり、安定した対空射撃ができるので、回避運動は有効である
小型艦:高速・急転舵の回避運動を行った場合には、艦の傾斜・動揺が激しく射撃精度が大きく崩れるために有効な対空射撃が実施されず、回避運動は反って特攻機の突入を用意にしている。
▼分析理由に基づく情報の再収集と精査
分析者たちは、上記の”仮説”を検討するため、再び「対空射撃による特攻機の撃墜データ」を集め分析した。
この結果、
?大型艦
回避運動により対空砲火の撃墜率が向上する。
これは大型艦は慣性が大きいのでゆっくり回頭し、それに伴って対空火器の射界制限が移動して各銃砲の射撃が均等化されるために目標撃破率が向上するため。
?小型艦
回避運動により対空砲火の撃墜率がかなり低下する。
これは小型艦では急変針に伴う艦の傾斜・動揺・振動が激しく正確な対空射撃ができなくなるため。
?結論1
以上により、小艦艇の回避運動に伴う対空火網の崩れが特攻機の突入を許している原因であることがわかった。したがって小艦艇の回避運動は対空射撃を阻害しない程度で行うべきと結論された。
▼特攻機の攻撃方位と突入成功率の関係(結論2)
高空からの急降下突入機は艦首尾線方向(※たぶん、船の頭と尻の先っちょを結んだ直線のこと)で成功率が高く、海面を這ってくる低空突入機は艦艇の正横からの攻撃の成功率が高い。これは突入時の目標の大きさによる定性的な理解に一致する。
▼そして導き出された回避運動の原則とは……。
以上、結論1・2により、「OR分析者たちは神風特攻機の攻撃を受けた場合の艦艇の回避運動の原則として、次に述べる対抗戦術を勧告」した。
○回避運動の原則
「すべての艦艇は高空から急降下してくる特攻機には艦腹を向け、低空からの特攻機には艦首尾線を向けるように操艦して回避せよ」
○大型艦の回避
「対空射撃を実施しつつ、急速な大角度の転舵により回避運動を積極的に行え」
○小型艦の回避
「射ちまくれ。急激な大角度変針の回避運動を避け、正確な対空砲火網の維持を優先しつつ、適切な回避運動を行え」
▼追跡調査の結果:原則の適切性の調査
「ORワーカー達はその後上述の回避戦術の有効性について追跡調査を行い、上述の勧告に従った艦艇に対する特攻機の突入成功率はわずか29%に対して、勧告を無視した艦艇は47%にも上る被害を受けていることを確かめ、上述の勧告が妥当であったことを確認した」
以上の米海軍のORの軍事利用について、著者は注目するべき点として以下を挙げる。
有効データ365件に上るデータの収集
「生死転瞬の間の行動についてこのように大量の詳細なデータが、戦場において驚くほど短期間のうちに収集できる態勢にあったことは驚くべきことである」
(2)統計的な戦訓の分析
(3)追跡分析の実施
軍事へのORの応用は、自然科学としてのアプローチをあくまで貫いて行われた。
実は、「Methods of Operations Research」という本(http://www.amazon.co.jp/gp/product/0486432343/ref=ord_cart_shr?ie=UTF8&m=AN1VRQENFRJN5 )が戦後(1951年)に出版されていて、 実は上記の元ネタがこれ。ちゃんと参考文献に挙げられています。
アマゾンの感想にあるように、普通なら軍事機密なのにコトが終わったら、国民に研究を公開する姿勢だけは政府に学んで欲しいもんだと思った次第なのでした。