韓国の新首相候補に指名された中央日報元主筆の文昌克(ムン・チャングク)氏は、自身が教会の講演などで以前行った発言に関し、時間の経過とともに対応姿勢を変えている。
文氏は12日午前の出勤時、京畿道城南市内の自宅前で、記者団に「きのう(11日)報道された発言(日本による植民地支配と南北分断は神の意思だという趣旨の発言)について謝罪するつもりはないのか」と聞かれると「何を謝罪するのか」と問い返した。しかし、約4時間後の午前11時ごろ、プレスリリースを通じ「(問題になっている)講演は宗教を信じる者として教会内で行ったものなので、一般の人々の感じ方とは多少距離があるかもしれない。そのため誤解を招く原因が生じたのは遺憾だ」と述べた。だが、首相室は午後7時30分、あらためて「一部メディアが悪意をもって歪曲(わいきょく)した編集だ。当該メディアの報道責任者を相手取り、虚偽事実による名誉毀損(きそん)などで法的対応に出る」と明らかにした。遺憾を表明していた文氏が数時間後、法的対応という切り札を出したのは、首相候補の是非が取り沙汰されているのにもかかわらず、文氏を人事聴聞会に出そうという大統領府の意向が働いたものとみられる。
■「日本による植民地支配は神の意思」が波紋
首相室は「『わが民族は怠惰で自立心に欠けている』という部分は文氏自身が発言したものではなく、(愛国啓蒙〈けいもう〉運動を率いた)尹致昊(ユン・チホ)=1865-1945年=の発言の引用にすぎないが、一部メディアが歪曲したものだ」と主張した。
文氏が「怠惰で自立心に欠け、他人の世話になる。これがわが民族のDNAに残っていたのだ」と述べたのは、文脈上、尹致昊の発言を引用したものと見なす余地はある。
しかし、文氏はこの講演で、宣教師や尹致昊などの発言を単に引用しただけではなかった。同氏自身も「わが民族は怠惰だ」と何度も言っている。尹致昊の発言を引用する前、文氏は「その500年間にわたり引き継がれてきた朝鮮の悪習、怠惰、こうしたものは日本に支配されていた時代も同様に…」と述べた。その上で「とにかく、朝鮮民族の象徴は先ほど申し上げたが、怠け者であるということだ。キリスト教の精神を取り入れ、そうした怠け心を打ち破ろうとしたのが、私たちクリスチャンだ」と話している。
また、首相室は「『植民地支配は神の意思』という発言も歪曲されたものだ」としている。 「『韓国人たちは仕事を嫌い、無料の物が好きなので、共産主義者になるしかない』という尹致昊の発言をまず引用した上で、もし(南北が)分断されていなかったら、韓国は共産国になっていただろうが、神が分断と6・25(朝鮮戦争)という試練を与えられ、わが国民がこれを克服し、現在のような豊かで強い国にした、という趣旨で発言したもの」と説明した。
ところが、講演を収録した動画を見ると、「韓国人たちは仕事を嫌い、無料の物が好きなので、共産主義者になるしかない」という尹致昊の発言は先ではなかった。文氏はこの言葉の前に「(植民地支配は)神の意思があるのだ。われわれに『お前たちは李朝500年という歳月を無為に送った民族だ。お前たちには試練が必要だ。苦難が必要だ』ということで、神は私たちに苦難をお与えになったのだと思う」と話している。
■慰安婦発言も物議
一方、文氏はこの講演とは別に、今年4月ソウル大学の講義で、慰安婦問題について日本から謝罪を受ける必要はないという趣旨の発言をしていたことが伝えられ、物議を醸している。同氏は「韓国は昔とは違い、先進国の仲間入りを果たしたので、あえて日本の謝罪を受け入れるほど弱い国ではなくなった。韓国人は反日感情に過度にとらわれているため、客観的な視点で国際的なムードを把握できていないようだ」と話したとされている。