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  ■記憶遺産推薦 百合文書・引き揚げ記録■

 ユネスコ(国連教育科学文化機関)世界記憶遺産の登録に向けて国内候補2件を選考していたユネスコ国内委員会が12日、「東寺百合文書(とうじひゃくごうもんじょ)」と「舞鶴への生還―1945~1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録―」を選んだ。今後、ユネスコ記憶遺産国際諮問委員会の審議などを経て2015年に登録の可否が決定する。府内では「御堂関白記(みどうかんぱくき)」(13年登録)以来の申請で、関係者は喜びにわいた。

     ◇継承千年の重み 感じて◇

 府立総合資料館(左京区)所蔵の東寺百合文書が世界記憶遺産登録の国内候補に決まり、資料館が記者会見を開いた。文書のデジタル画像化に取り組んできた資料館は、インターネット上で約8万点の画像を公開している。高石佳文館長は「来年の登録に向け、職員一丸となって力を入れていく。国際的な活用ができるよう情報発信をさらに進める。研究者だけでなく、子供も含めた幅広い皆さんに貴重な歴史資料を還元できたらと思う」と話した。

 百合文書は現在、資料館の収蔵庫内で桐タンスに入れられ保管されている。その一部は京都文化博物館(中京区)の展示「東寺百合文書――地域の記憶とその継承」で目にすることが可能だ。展示を通じて、貴重な文書を千年にわたって守り伝えてきた先人たちの努力を知ることができる。

 奈良時代から江戸時代にかけて約2万5千通ある文書群では、後醍醐天皇や織田信長など歴史上の人物に関する資料が目をひく。一方で、膨大な文書をどのように管理して後世に伝えてきたのかを垣間見ることのできる資料が、文書自体にも数多く残されている。

 かつて東寺の各組織では「奉行」と呼ばれる幹事役の僧侶が1年交代で文書管理を行い、どのような文書をいつ、誰から誰に渡したかなどをまとめた記録も残っている。重要書類を出し入れした際の帳簿からは、持ち出しのある度に案件や日付、担当僧侶2人の名前を記入して厳格に管理していたことが分かる。

 こうした資料は、寺がどのように資料を保存したかを知る手がかりになるだけでなく、百合文書が中世から伝来していることを裏付ける意義も持つ。

 中世では武家や寺社が所領の支配を証明するのに古文書が重要な役割を果たしたが、豊臣秀吉や徳川家康の元で新たな土地所有の秩序が整うと効力を失った。この時期に古い文書を廃棄した寺社もあるなかで、東寺では大量に残された。その過程では、江戸前期の加賀藩5代藩主・前田綱紀(つなのり)が寄進した100個の桐箱も保存に大きく貢献した。

 1967年に東寺から文書を購入した府は、資料館で膨大な文書の整理・修復に注力。資料ごとに内容を手書きで記録して仮目録にまとめていった。こうした努力も実り、97年には桐箱も含めた資料全体の価値が認められ、国宝に指定された。

 京都文化博物館の長村祥知(よしとも)学芸員は「大切な文書が何世代にもわたって引き継がれてきた重みを感じていただきたいです」と語る。同館での展示は22日まで(16日休館)。一般500円など。問い合わせは博物館(075・222・0888)。

    「登録へスタート」 舞鶴市長

 引き揚げ関連資料の世界記憶遺産への登録を申請していた舞鶴市。多々見良三市長は午後8時過ぎから市役所近くの舞鶴赤れんがパークで記者会見した。

 「国内外各地からの応援署名、有識者会議の専門家による多大な尽力などに心から感謝申し上げたい。選定は多くの皆さんの支援のたまものであり、感無量の思いだ」と喜んだ。

 さらに、「今日は登録に向けたスタートライン。今後資料の整理や保存などを進め、引き揚げ70年の来年に登録できるよう、がんばっていきたい」と決意を述べた。

 登録を応援する会(33団体)が集めた応援署名は4万人を超え、文部科学省に提出されている。事務局の「舞鶴・引揚語りの会」の谷口栄一理事長(65)は「署名してくださった方々の平和へのメッセージが届いた」と喜ぶ。

   ◆たいへん名誉なこと◆

 東寺の森泰長執事長は「東寺1200年の長い歴史や信仰を物語る貴重なもので、日本に数ある古文書の中から記憶遺産推薦候補に選ばれたのはたいへん名誉なことで喜んでいる。これを機に世界中の人々に東寺にお参りいただき、東寺のことを知っていただければ」とコメントを寄せた。

   ◆国とも一層連携する◆

 山田啓二知事は「京都関連の2件が選定され、本当にうれしい。この2件が世界の資産となり世界共有の『記憶』として将来に引き継がれるよう、来年の登録決定に向け、国とも一層連携して取り組む」などとするコメントを出した。

   ◆文字文化広める機会◆

 京都市の門川大作市長は東寺百合文書が国内候補に選ばれたことに対し、「京都、そして日本の高い文字文化のレベルを世界に向けて広く知ってもらう良い機会になる。また、京都を代表する文化遺産が後世に向けて保護されることにつながるもので、喜ばしい限りだ」などとする談話を出した。