ニホンウナギはなぜ激減してしまったのか?
科学雑誌Newton 6月12日(木)15時52分配信
6月12日,国際自然保護連合(IUCN)によって,ニホンウナギが絶滅危惧種(絶滅危惧1B類)に指定された。絶滅の危険がある希少な生物の一覧である「レッドリスト」に記載されたのだ。
日本の環境省は,2013年2月にニホンウナギを絶滅危惧種に指定している。つまり日本版のレッドリストには,すでに記載されていた。今回,ついに全世界版のレッドリストにも,ニホンウナギが記載されたことになる。
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| イラストは,ニホンウナギの回遊行動を示したものだ。産卵場所であるグアム島沖から,海流に乗って日本沿岸へとやってくる。 |
ニホンウナギ(学名 Anguilla japonica)は,世界で19種が確認されているウナギ目ウナギ科ウナギ属の魚の1種であり,日本や中国,韓国,台湾などに生息している。ニホンウナギの生まれ故郷,つまり産卵場所は長年謎だったが,30年以上にわたる調査の結果,2009年にグアム島沖の海中であることが明らかになった。産卵から約半年後,体長6センチメートルほどの稚魚である「シラスウナギ」に成長した個体は,海流に乗って,日本や中国の河口にやってくる。養殖のために漁獲されるのは,この時期のシラスウナギだ。
透明だったシラスウナギの体は河口域で成長するとともに黒くなり,やがて「クロコ」とよばれる状態になる。クロコは川をのぼり,雄は数年,雌は10年程度,川や池,沼などの淡水の環境で成長する。成長し,性成熟したウナギは川を下り,産卵のためにふたたびグアム島沖へと帰ってゆく(イラスト参照)。
ウナギの生態や資源変動にくわしい東京大学の木村伸吾教授は,ニホンウナギの資源量が減少してしまった原因として,「乱獲」,「生息環境の悪化」,そして「エルニーニョ現象」の三つを挙げる。
1970年代から80年代にかけて,シラスウナギの漁獲量は急速に減少していった。これは1970年代の日本における「乱獲」が主な原因だと木村教授は指摘する。稚魚をとりすぎると,当然親になるウナギの数が減り,次世代の卵の数も減る。一定量を漁獲しても資源量は自然に回復できるが,その限界をこえてとりすぎたのだ。
「生息環境の悪化」とは,ウナギが成長する河川流域の環境悪化を指す。1960〜70年代の高度経済成長期には,工場や家庭からの排水などによって日本の河川の水質は悪化し,ウナギの生育にも悪影響をおよぼしたと考えられる。現在,一般的に水質は悪くないものの,別の問題が生息環境を悪化させているという。その一つが河川や湖沼の岸をコンクリートでおおう「護岸」だ。ウナギは川岸の土の中にもぐりこんで,ミミズなどを食べている。コンクリート護岸ではそれが不可能になるのだ。
三つ目の原因として挙げられた「エルニーニョ現象」とは,太平洋赤道域の日付変更線からペルーにかけての水域で,海水温が平年にくらべて異常に高くなる現象のことだ。海水温の異常は,海流の向きや強さを変化させる。ニホンウナギの幼生(レプトセファルス)は,フィリピン沖で北赤道海流から分かれた黒潮に乗って日本や中国の沿岸にやってくる。エルニーニョ現象がおきると,黒潮の分岐位置が通常時より北寄りになってしまう。するとレプトセファルスの多くが黒潮に乗れず,ミンダナオ海流に流されて南下してしまう(イラスト参照)。そこにはシラスウナギの生息に適した河川がないため,結局死滅してしまうのである。
最終更新:6月12日(木)15時52分
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