これはクレイジーです。

イラク正規軍が北部の都市モスールで「烏合の衆」であるISIL(Islamic State in Iraq and the Levant)に蹴散らされていることは既に書きました

ISILは言ってみればイラク北部の「攘夷派」的な存在です。

彼らはお隣のシリアが内戦化したときに義勇兵としてシリアに潜入し、戦ってきました。

その歴戦の志士たちが、イラク北部の故郷に帰ってきたわけです。

まあノリとしてはBoys are back in townという感じ……

もともとイラク北部はバクダッドや南部とはちょっと宗派やエスニシティが違う土地柄であり、それがバクダッドから派遣されたイラク正規軍に「護られている」というのは、この愚連隊のお兄ちゃん達にはクソ面白くない状況なのです。

それでイラクでの選挙を前に、自治を勝ち得たい北部地方は、中央政府に知らせず、こっそりとトルコと協約を結んで北部油田地帯から採れる原油をパイプラインでトルコに流し、そこからタンカーに積み込んで輸出を試みたり(そのタンカーはモロッコ沖合で差し止められています)、モスールなど北部各都市でイラク正規軍を「ごらぁ!」と恫喝して、実戦での経験、士気などの点で劣るイラク正規軍を総崩れにさせたりとか、兎に角、やりたい放題やっているわけです。

オバマ政権は放っておけば内側から瓦解しそうなイラク政府を支えるため、空爆などで支援するべきかどうか検討に入っています。

ところが事態を複雑にしているのはイラクの隣国のイランも「我々もイラク政府を支援したい」と申し出ている点です。イランはシーア派の国で、イラク国内に居るシーア派の人々を護るという大義名分があるわけです。

すでにイランのイスラム革命防衛隊の特殊部隊クッズフォース(Quds Force)の総司令官であり、トップ・スパイであるカシム・スレイマニ将軍がバクダッド入りしているそうです。

スレイマニ将軍はシリアのアサド大統領を兵糧攻めから救い出した人であり、イスラエルが最も恐れるスパイです。彼は中東、レバント全域にシーア派の影響圏を広げる事業に1980年代初頭からずっと取り組んできました。

スレイマニ司令官がアサド政権を支援したという理由で、米国財務省はスレイマニ司令官をテロリスト・リストに載せています。

ウォールストリート・ジャーナルのファーナズ・ファシヒ記者によると、既にイランはイスラム革命防衛隊の二個大隊をイラク国内に派遣したそうです。そしてISILに取られたティクリット(サダム・フセインの故郷)の85%の奪還に成功したそうです。

ISILとクッズフォースはいずれもシリアでバトルを繰り広げた屈強な連中であり、彼らが今度は舞台をイラクに移して激突しているわけです。これはイラクのシリア化に他なりません。

アメリカとしては、どう手を出して良いのか困惑する状況になってきました。