これまでの放送
見直し迫られる企業の戦略
長引く景気低迷から、抜け出しつつある日本。
ところが今、企業の間では人手不足の問題が急浮上しています。
自動車の部品メーカーでは、生産を支える派遣社員が相次いで退職。
郵便局でも、お中元シーズンを目前にパート従業員の確保が難しくなっています。
郵便局長
「かなり雇用確保が厳しくなりつつあると実感している。」
人手不足に企業側も対応を迫られています。
この会社は、従来の方針を転換。
パート従業員の正社員化に踏み切りました。
「すばらしいですね、細かいところまで。
いいじゃないですか。」
パート従業員にとって、よりよい職場を作ることで、人手不足を乗り切ろうとする居酒屋チェーンも出てきています。
居酒屋チェーン幹部
「今後は使い捨てという形での従業員雇用は、していけないし、していかない。」
シリーズ、人手不足ショック。
1回目の今日(11日)は、見直しを迫られる企業の戦略です。
千葉市の幕張地区です。
この1年の間に、大型商業施設の建設などが相次いでいます。
去年(2013年)、国内最大級のショッピングモールがオープン。
パートやアルバイトなど、新たに6,000人以上の働く場が生まれました。
ほかにも、商業施設の大規模な拡張や、大型の物流センターの建設で、求人が一気に増加。
この影響で、飲食店などでは人手の確保が難しくなっています。
ラーメン店
「(求職者が)簡単に来ることはなくなっている。」
ステーキ店
「奪い合いというか、そのような現状になっている。」
時給も急上昇。
幕張地区を含む、千葉市の時給の平均は1,021円。
この1年で80円上がりました。
幕張地区から、およそ10キロ離れた千葉中央郵便局。
影響は、ここにも及んでいます。
この郵便局では、お中元の配達がピークを迎える来月(7月)を前に、仕分けを担当するパート従業員を、新たに100人以上雇う計画です。
しかし今月(6月)に入っても、人手を確保できるめどが立っていません。
千葉中央郵便局 早瀬光夫総務部長
「40名不足しているけれども。
これ、何か対策は?」
職員
「考えているのは、経験者に案内状を送らせていただいている。」
千葉中央郵便局 早瀬光夫総務部長
「ちょっと焦りがいま、非常にある。」
募集しているパート従業員の時給は、800円。
周辺の相場を200円下回っています。
予算の制約が厳しいため、地域の事情に合わせて時給を引き上げることは難しいのです。
この日は隣の郵便局が管轄する地域でも、募集をかけました。
千葉中央郵便局 早瀬光夫総務部長
「あいさつをきちんとしてやりましょう。
よろしくお願いします。」
責任者の総務部長が陣頭に立って、求人募集のチラシを配りました。
千葉中央郵便局 早瀬光夫総務部長
「お願いします。」
千葉中央郵便局 早瀬光夫総務部長
「お願いします。」
「終わった後にいつも『お願いします』と言っていますが、どうしてですか?」
千葉中央郵便局 早瀬光夫総務部長
「やはりあの、一人でも応募して頂きたい。
自然に、ちょっと出てしまいました。」
チラシを配った4,000軒のうち、応募があったのは10人。
求人募集は、今も続いています。
人手不足は製造業の現場にも広がっています。
埼玉県入間市で、自動車のシートを製造している会社です。
ここでは、派遣社員が入ってすぐに辞めてしまうことに、頭を悩ませています。
この日も、働き始めて1週間の派遣社員が辞めるという連絡が入りました。
タチエス 島田浩行マネージャー
「そうですか、分かりました。」
タチエス 島田浩行マネージャー
「やっぱり本人から辞めたいと。
ちょっと自分には無理だという連絡だった。」
この工場の時給は1,200円以上。
周辺と比較しても、決して低くはありません。
しかし時給を引き上げる企業が増えたことで、人手の確保が難しくなっているのです。
タチエス 島田浩行マネージャー
「組み立てライン作業なので、ハードな所があるとは思うけれど。」
人手不足は、正社員の負担につながっています。
要員の不足を補うだけでなく、次々に入れ代わる派遣社員に、そのつど仕事を教えなければなりません。
会社では、正社員の負担をこれ以上増やさないためにも、人材確保の在り方を見直さなければならないと考えています。
タチエス 岩石徹常務
「今の状況が続けば、何らかのきちんとした手だてを打たなければいけないのが事実だと思う。」
人手不足は、企業の経営戦略にも影を落としています。
全国でリラクゼーションサロンを展開する会社です。
低価格を売りに、事業開始から5年で店舗数を300以上に増やしました。
しかし最近、サービスの担当者の数が不足。
客からの注文を受けきれないことが、大きな問題になっています。
スタッフ
「ちょっと今の時間帯、予約で埋まっていまして。
申し訳ございません、またお待ちしております。」
本社には人手不足を訴える声が殺到。
売り上げは、最大20%近くも失われていると見積もられています。
このままでは出店計画の見直しも検討せざるをえないと、危機感を強めています。
りらく 竹之内教博会長
「本当に人で動いている会社。
毎年のように100店舗ぐらい出店している。
その中で、セラピストがそれぐらいしか募集でかかってこないと、成長のスピードをかなり妨げることになる。
その辺では影響は大きい。」
●人手不足 どれぐらい深刻か?
日本銀行が短観ということで、3か月に1回ずつ、企業にいろいろ聞いている調査があるんですけど、その中で人手不足感が出ていますが、全体で見ると、やはりどんどん、不足感が強まっているということですね。
ただ部分的に見ると、例えば大企業の製造業のところは、実はまだ少し人が余っているということで、ばらつきがあるんですね。
ただ、例えば小売り業とか、特に建設業ですね、あるいはサービス、そういうようなところで、かなり人手不足感が強くなっているという、そういう状況ですね。
●非正規が多く働く現場 人が集まりにくいという特徴ある?
そうですね、まさにそういうことだと思いますね。
ですから、アルバイトの方の賃金が上がっているとかっていうのは、かなり出てますね。
これ実は、そういう場所、産業というのは、ローコストオペレーションといいまして、要は安い賃金を前提に、仕事のやり方を標準化していく、業務を標準化していって、ある意味、経験のない人でも仕事ができるようにして、そうやって安い賃金で非正規の方でも働けるようにしていった、そういうやり方をしてきたわけですね。
ただこれは、そういうやり方ができる前提があって、それは人が非常に余っているっていう状況ですね。
実際、ちょっと前までそうだったんですけれども、これ、景気が非常に悪かったってことが、やっぱりあると思いますね。
ところが実は、労働人口、生産年齢人口、先ほどにも出てましたけれども、90年代からずっと減り始めてまして、どんどんどんどん減っていっているんですね。
潜在的にはそういうことで、人手不足の問題はあったんですけれども、景気が悪かったので、それが見えてこなかった。
ところがここに来て、景気がよくなってきて、一気にこの問題が出てきている。
だからそういうローコストオペレーションというような、非正規の方をたくさん活用するようなものが限界に来ているっていうふうな、限界というか、いろいろやりづらくなってきている、そういう局面が今、訪れてきているということだと思います。
ファーストリテイリング 柳井正会長
「すべてを180度転換しようと思います。
最高の人材を採用し、育成し、長期間働ける環境を整える。」
大手衣料品チェーン、ユニクロ。
この春、従業員制度の改革を打ち出しました。
全従業員の90%を占める、パート従業員の大幅な正社員化です。
これまでは、各店舗で一握りの正社員が大きな責任を負ってきました。
この負担が一時、高い離職率の要因にもなっていました。
今回の方針転換で人手不足に対応し、正社員の負担軽減にもつなげたい考えです。
社員
「地域正社員のポスターと。」
新しく導入された地域正社員制度は、転勤はなく短時間勤務も可能です。
従来のように人材を円滑に確保することは難しくなったとして、優秀な人材を囲い込もうという戦略です。
仙台市内の店舗で働く、佐々木小百合さん。
この制度で正社員になる予定です。
佐々木小百合さん
「お客様、どうぞこちらご利用くださいませ。」
2年以上パート従業員として働き、仕事に対する前向きな姿勢が高く評価されました。
ユニクロ仙台泉店 村上和広店長
「(佐々木さんが辞めてしまうと)非常に大きな痛手。
絶対必要だと思う。」
佐々木小百合さん
「ただいま。」
子ども
「おかえり。」
2人の子どもを育てている佐々木さん。
現在のパートという立場に、不安を感じていました。
佐々木小百合さん
「ボーナスがなく、交通費も出なかったので、将来的にここでずっと働けるか不安もあった。
(地域正社員になれば)仕事でもやる気が出て、モチベーションが上がる。」
会社では、この制度でパート従業員から正社員になる人の人件費は、2割増えるとしています。
それでも優秀な人材に長く働いてもらうことで、新人の育成に必要な費用や時間も減らすことができると見込んでいます。
ユニクロ仙台泉店 村上和広店長
「(従業員が)入れ代わってしまうと、今まで投資した時間や労力が無駄になってしまう。
長期的に働いてくれる方は、非常に助かる。
コストはかかるかもしれないが、長期的にはバック(利益)があると思う。」
どうすれば、限られた人材に長く働いてもらえるのか。
企業の模索が始まっています。
パート従業員との接し方を学ぶセミナーです。
受講しているのは、人手不足に悩む飲食業や小売り業の店長などが中心です。
セミナー講師
「質問上手になって欲しい。
詰問にならないようにしてください。
“何でやらないの、やるんだよねこれ、やって!”という詰問ではなく、質問です。」
受講している企業は、この4月からだけで100社増え、現在450社に上っています。
グローイング・アカデミー 有本均学長
「合わない人は辞めさせていくマインドの企業は、これからかなり厳しいと思う。
ある程度ターゲットを広げて、どんな人でも育てていかないと、生き残るのは難しい。」
受講者の1人、岩田洋典さんです。
岩田さんも人手不足に悩まされてきました。
「いらっしゃいませ。」
岩田さんが店長を務める、居酒屋です。
かつては従業員が不足したことで、サービスが低下し、売り上げが伸び悩んでいました。
南蛮亭 新宿東口店 岩田洋典店長
「人を育成するという、そもそもの発想が、当時は希薄だった。
自分がやれば、自分がやればって、(従業員が)離れていくことを止められなかった。」
8か月にわたるセミナーで、岩田さんは、従業員の仕事への意欲を高めるコツを学んだといいます。
テキスト
“すかさず褒める。”
テキスト
“具体的に褒める。”
先輩に怒られながら仕事を覚えた岩田さんにとって、その指導法は驚きでした。
岩田さんは、褒める指導法を実践しています。
南蛮亭 新宿東口店 岩田洋典店長
「さすが!
言わなくてもやる子!」
店が混雑した週末の夜、岩田さんはあえて新人スタッフに接客を担当させました。
指導のしかたも工夫しています。
南蛮亭 新宿東口店 岩田洋典店長
「取れましたか?
ドリンク。」
新人スタッフ
「はい。」
南蛮亭 新宿東口店 岩田洋典店長
「YES!
いいですね、さすが!
すばらしい。」
指導のしかたも工夫しています。
南蛮亭 新宿東口店 岩田洋典店長
「ドリンク追加取れたのもいいんだけど、真ん中の灰皿をちょっとかえてあげたりとか、いろいろ気にしてあげるといいかも。」
新人スタッフ
「とても親切に、一から教えてくれる。
今のところ辞めようという気持ちは、まったくない。」
この1年で辞めたのは、卒業した学生2人だけ。
人材が定着したことで、サービスも向上し、売り上げは2年前と比べて2倍近くまで伸びたということです。
居酒屋の運営会社 三浦浩司統括マネージャー
「働いてくれる人材をいかに教育し、仕事の楽しさを教えてあげて、いかに長く働いてもらうか。
そこの意識が、かなり変わった。」
●定着重視 どういうマネージメント、人材の使い方すべき?
ある意味これまでは、コストが簡単に下げていけた、人件費を上げる必要もなかったわけですね。
ですから申し上げたように、ローコストオペレーションということで、やり方を標準化して、ある意味これ、モチベーションが上がらなくても、やり方は決まってますから、そのとおりやれば利益は勝手に出るという仕組み、ちょっと言い過ぎかもしれませんけど、そういう形だったんですね。
ところが、これはコストが下がるから、利益が上がったんですけれども、今後はそのコストが上がっていきますから、1人当たりの売り上げを上げていかないと、だめなんですね。
1人当たりの売り上げを上げるには、これは決まっていることだけをやっていてはだめで、だんだん今、競争が厳しくなってますから、やはりその場その場で1人1人がモチベーションを上げて、工夫をしていく、そういうことをやっぱりこれからやっていかないとだめになっていくということだと思いますね。
●自発的に売り上げを伸ばす人を育てるには?
これはトップマネージメント、それから現場のマネージャーがやっぱり変わっていく必要があると思いますね。
やはり企業に対して、どういう企業がビジョンを持っているのか、経営者がそれをしっかり語っていく、だから自立的に、どういうことを働いていったらいいのか、あるいはその企業のためにというふうな気持ちが出てくると思いますね。
それから現場のマネージャーが、個別にいろいろと、やる気を起こさせていく。
そういうようなことをやるからこそ、企業に愛着を持って、いろいろ工夫していこうというふうになっていくっていうことですから、トップマネージメントはビジョンを語る、それから現場マネージャーはやる気を出させて、企業に愛着を持たしていくようなマネージメント、そういうことが重要になってくると思いますね。
●正社員化 どの程度広がっていくか?
すでに例えば、外食の分野とか、あるいは小売り、流通の分野では、非正社員比率っていうのは頭打ちになってるんですね。
ずっとこれまでは右肩で上がっていたんですけれども、そういう意味では、今後、どんどんどんどん上がっていった非正社員比率っていうのが頭打ち、場合によっては、少し下がっていく可能性もあるんじゃないか。
ただ、全体として広がるかっていうと、例えば女性は、どうしても子育てをやるケースですと、非正規で働かざるをえないとか、高齢者の方っていうのは、非正規のほうがいいというケースがあるので、全体に正社員化するというのは分かりませんけれども、少なくとも右肩上がりで、非正規比率が上がっていたのは横ばい、場合によっては、少し下がるような局面が出てくるんじゃないかなと思いますね。
●働きたい人が活躍するために、何が必要か?
まさに人手不足といいながら、実は失業率っていう統計がありまして、これは実は今3%半ば、過去から見るとかなりまだ高いんですね。
それだけやはり、十分過去、例えば非正規で働き続けた結果として、能力が育成されていないようなケースがある。
ですから、そういう能力育成ということを、これから社会全体でやる必要がある。
すでに企業が一部、取り込み始めてるんですけれども、余裕のあるところはできるんですけれども、必ずしもできるわけじゃない。
そうすると、政府がやはりそういうことに協力していく、いろんなサポートをしていくという必要があるでしょうし、あるいは業界をまたいで、そういう仕組みを作っていったり、あるいは労働組合がそういうことをやる。
要は社会全体として、人材育成、人の活用をしていける、まさにそういう今、非常に大きなチャンスになってきているということだと思うんですね。