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JRは夜行列車を見捨てなかった――その先に見える「新・夜行列車」時代

Business Media 誠 6月6日(金)18時57分配信

 2014年5月下旬から6月上旬にかけて、JRグループの夜行列車に関する発表が続いた。
 5月21日にはJR西日本が「美しい日本をホテルが走る、上質さの中に懐かしさを」というコンセプトの寝台列車を発表した。運行開始は2017年春とのことだ。続いて6月3日にJR東日本が「時間と空間の移り変わりを楽しむ列車」をコンセプトとしたクルーズトレインを発表した。こちらも運行開始は2017年春だ。

【画像:JR東日本のクルーズトレイン】

 3年後には、すでに運行を開始しているJR九州の「ななつ星 in 九州」と合わせて、3本の「豪華寝台列車」が日本を巡る。鉄道旅行家にとって、すばらしい時代がやってくる。

●「ななつ星 in 九州」よりリーズナブル?

 ところで、JR九州の「ななつ星 in 九州」は高額な料金も話題となった。JR西日本の真鍋社長は「ななつ星 in 九州よりリーズナブルな料金にしたい」と語ったという。

 しかしJR西日本の新たな寝台列車は、最上級で1車両1室を使うぜいたくな客室である。従来の列車運賃体系とは異なるハイクラスな料金を設定するだろう。そもそもここで「リーズナブル」という言葉は失言だ。料金を安くしたいという意図だと思うけれど、リーズナブルは「理にかなった」「価値に見合った」という意味だ。この発言は「ななつ星 in 九州」に対する皮肉とも取られかねない。乗ってみなければ何とも言えないが、ななつ星 in 九州は高額であっても「リーズナブル」であるはずだ。もちろんJR西日本の寝台列車も同じである。

 そして「リーズナブル」はJR東日本のクルーズトレインも同じ。料金体系や運行区間は公表されていないけれど、ハイクラスな料金設定になるだろう。客室の配置を見ると片側に寄っているから、海を眺めるルートではないか。運行区間は首都圏発、日本海側経由で、五能線を通って青森へ至るルートがよさそうだ。青森に接続すれば2016年に開業予定の北海道新幹線につながる。乗客は新幹線で首都圏に戻ってもいいし、北海道へ渡れる。JR東日本の太平洋側は、SL列車の「SL銀河」、レストラン列車「TOHOKU EMOTION」、復興支援企画列車「ポケモンウィズユートレイン」を相次いで投入している。JR東日本としては、新しい列車を日本海側に向けてバランスを取るだろう。

 相次ぐ豪華列車のニュースは、鉄道ファンではなくともワクワクする。旅行資金を貯めるために「銀行で積立口座を作ろうか」という気分にもなる。

●消えていく旧来の夜行列車

 いわゆる「豪華列車」が話題となる裏で、消えていく夜行列車がある。

 JR西日本は2014年5月28日に「寝台特急トワイライトエクスプレスは2015年春までに運行を終了する」と発表した。理由は車両の老朽化とのこと。トワイライトエクスプレスは1989年に誕生した。最後尾に展望スイートを備えた「元祖豪華寝台列車」で、運行開始から25年が経過している。車両自体はもっと前、1970年代に作られた「ブルートレイン」を改造している。40年以上も使われた客車だ。乗れば客室は快適。しかし通路や連結部、塗装の傷み、揺れ具合などに古さを感じる。

・杉山淳一の+R Style:第33鉄 個室じゃなくても楽しいよ! 豪華寝台特急トワイライトエクスプレス

 トワイライトエクスプレス廃止の事情としては、青函トンネルの北海道新幹線対応工事に支障があるためと言われている。そうなると、影響はJR東日本の上野─札幌間の寝台列車「北斗星」や「カシオペア」にも及ぶ。JR東日本はまだ公式発表していないが、幹部の談話として「北海道新幹線開業前に廃止を検討」と報じられてきた。特に「北斗星」に関しては「トワイライトエクスプレス」と同型の客車であり、老朽化も理由となる。

 「カシオペア」は1999年に専用の客車を新たに製造した。まだ老朽化したとは言えない。しかし近年、JR東日本は「カシオペア」の車両を使った秋田行きのクルーズトレインを企画している。上野―札幌間廃止後の客車の使い道を模索しているようだ。

 模索という意味ではJR西日本も同じ。旅行会社とタイアップし、トワイライトエクスプレスの車両を使った広島行きランチクルーズトレインを企画した。これらは、廃止列車の車両の使い道を探しているとも言えるし、新たなクルーズトレインに向けたリサーチとも言えそうだ。

 つまり「トワイライトエクスプレス」と「カシオペア」は、次の「豪華列車」に世代交代するという見方ができる。前向きである。その一方で、座席のみの夜行列車はひっそりと消えていく。新宿―新潟を結ぶ座席夜行快速「ムーンライトえちご」は2009年に定期運行を終了し臨時列車となった。しかしこの夏の臨時列車のリストには入っていない。臨時列車に格下げされ、そのまま運行終了という事例は、上野―金沢間の寝台特急「北陸」や、同区間の座席夜行急行「能登」、大阪―青森間の寝台特急「日本海」、新大阪―博多間の座席夜行快速「ムーンライト九州」などがある。「ムーンライトえちご」も同じ運命と思われる。東京―大垣間の「ムーンライトながら」は「ムーンライトえちご」と同じ2009年に臨時列車となった。いまだ存続しているとはいえ、運行本数は減少している。

●「豪華寝台列車」に「夜行需要」の掘り起こしを期待

 「豪華寝台列車」が次々と登場し、旧来の夜行列車、とりわけ普通乗車券や「青春18きっぷ」で乗れる夜行列車が消えていく。この流れを見ると「夜行列車は庶民から縁遠い存在になってしまった」と嘆きたくなる。しかしよいことでもある。これで「JR各社は夜行列車を全廃するつもりがない」と分かったからだ。

 1990年代以降、東京・大阪発の寝台特急が次々と廃止されていった。このときの公式な廃止理由は利用者の減少であった。しかし、私も含め鉄道ファンは「寝台列車は邪魔者扱いされているのではないか」とうわさした。寝台特急が廃止された時間帯に新たな貨物列車が設定されたため、夜は貨物列車の時間になると思われた。また、夜間は線路保守作業が行われるため、寝台列車は作業の妨げになるという意見もあった。

 しかし、それらの意見が正しければ、寝台列車は廃止される一方で、新設はされないはずだ。ところが、JR九州も、JR西日本も、JR東日本も、新たな寝台列車を企画している。夜行列車を嫌っているわけではないらしい。

 「ななつ星 in 九州」の場合、実は夜間の走行は少ない。もちろん夜通し走る区間もあるけれど、乗客が眠る時間帯は駅に停車して静寂な客室を提供するか、旅館へ案内するツアーとなっている。夜行列車だからといって、夜通し走り続ける必要はない。夜間は駅に待機させれば、夜間の線路保守の妨げにはならない。そもそも列車の少ない夜間は「施設が遊んでいる状態」である。夜間に貨物列車が走るような幹線では、運行担当の職員が夜間も従事している。旅客列車が増えたところで、大幅な人員の負担にはならない。

 客がいない時間帯に、乗客を開拓するという意味で、夜行列車は施設の有効利用策ともいえる。つまり、鉄道会社としては「需要があれば夜行列車を運行して利益を増やしたい」と考えるだろう。ブルートレインが次々に消えていく中で、東京―山陰・四国を結ぶ「サンライズ出雲・瀬戸」は存続している。サンライズはJR西日本とJR東海が車両を保有している。東京発で最後に残った寝台特急が、鉄道ファンからは「在来線利用者に冷たい」と揶揄(やゆ)されるJR東海の列車とは皮肉な結果だ。JR東海にとって「サンライズ」は有益な列車だから存続していると言えそうだ。

●次のターゲットは「ビジネスクラス」?

 「豪華寝台特急」は、飛行機の座席等級に例えるとファーストクラスである。座席急行、快速列車はエコノミークラスだ。飛行機の場合はエコノミークラスにも需要がある。速度を重視すれば代替の移動手段がないからだ。日本の鉄道の場合はどうか。夜間の移動について、エコノミークラスはほぼ全滅である。よく言われるように、夜行バスというライバルがあるし、航空運賃やビジネスホテルも安くなっている。

 では飛行機で言うところの「ビジネスクラス」はどうか。日本の夜行列車には、ここがすっぽりと抜けている。「豪華である必要はない」けれど「きゅうくつな思いはしたくない」。そんな夜行需要はあるかもしれない。

 例えば新幹線を使った「夜行ビジネスクラス列車」。かつて東海道・山陽新幹線で夜行列車が検討されたというけれど、再検討してもよさそうだ。しかし、東海道新幹線はリニア中央新幹線が開業するまでは現状を変えにくいだろう。では東北・北海道新幹線ではどうか。

 新幹線は騒音問題や保守の関係で、0時から6時までは運行できないと聞く。ならば、その時間帯は走らない列車にすればいい。東京―函館間で考えると、始発駅を夜に出発して、夜中は途中の駅で停車したまま待機。6時に運転を再開して目的地へ向かう。

 例えば、現在のダイヤでは臨時列車「やまびこ249号」が東京駅22時発、仙台駅23時52分着となっている。この列車を仙台でそのままホームに待機させておき、翌朝6時に発車させる。同区間の所要時間を元に試算すると、新青森駅着は7時44分。新函館には8時45分となる。飛行機の最終便より遅く出発し、始発便より早く目的地に着く。残業してから列車に乗って、翌日は相手先の会社の始業時間や会議の時間に間に合うわけだ。これが寝台列車の大きなメリットとなる。

 いまどきそんなに働く人は少ないかもしれないけれど、この行動パターンは旅行客にも有効である。前日に飲み会に出席して、翌日は朝から旅先で時間を使える。海外旅行の弾丸ツアーと同じ感覚だ。日本を深夜に出発する飛行機に乗って、週末を海外で遊び、早朝着の飛行機で帰って出社する。夜行列車があれば、日本国内でも似たような日程の旅ができる。

 東京から「新幹線夜行列車」に乗り、函館で在来線特急に乗り継いで札幌へ向かうとなると、札幌着は12時を過ぎてしまう。これだと当日朝の飛行機のほうが早く着くわけで、夜行列車のメリットは小さい。でも、北海道新幹線が札幌に到達したら、札幌に早朝に着く夜行新幹線も設定できる。

 東京からの夜行新幹線は仙台に着いた時、お客様にそのまま眠っていただく。そして翌朝6時にドアを開けて、お客さんを降ろしてあげる。こうすれば東京―仙台間の夜行列車としても使える。上り列車の同様に仙台駅待機とすれば、函館新駅や東北地域の新幹線各駅と仙台駅を結ぶ夜行列車としても便利だろう。この事例は、過去に上野発金沢行きの寝台特急「北陸」で実績があった。金沢に早朝に到着したのち、列車は隣の駅に移動し待機する。乗客は9時まで寝台や個室を利用できた。

 車両は全席グリーン車、または全席グランクラス相当で2編成が必要。車両検査の予備として、さらに1編成を用意する。昼間の富裕層向け団体列車にも使える。あるいは夜行新幹線専用車両として個室寝台を設けてもいい。この車両は新造ではなく、改造してコストを削減する。JR東日本は秋田新幹線を引退したE3系の余剰車を改造し、観光列車「とれいゆ」を運行する。同じ要領で余った車両を使う。北陸新幹線開業に向けた新型車両「E7系/W7系」を投入すると、長野新幹線用に作った「E2系」が余る。これを夜行新幹線に改造しよう。東京―函館間だけではなく、東京―富山・金沢間にも使えそうだ。

 妄想も甚だしい内容だとは自覚しつつも、庶民に手が届かない「豪華寝台列車」が成功すれば、庶民に手が届く「ビジネス夜行列車」の可能性もありそうだ。その意味でも、各社の豪華夜行列車の成功を願っている。


[杉山淳一,Business Media 誠]

最終更新:6月6日(金)18時57分

Business Media 誠

 

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