安倍晋三首相は最近の日本の首相の中で、誰よりも明確な目的意識を持つ。同首相には2つの大きな野望がある。1つは、長らく停滞を続ける日本経済に活力を取り戻すこと。もう1つは、第二次世界大戦後に制定された平和憲法が課す防衛上の“足枷”を取り払うことである。
日本の国民は今のところ、第1の目的に向けた改革に対しては積極的に受け入れる姿勢を見せている。だが2つめについてはそれほど快く思っていないようだ。慎重に事を運ばなければ、安倍首相の憲法改正への熱意が経済改革を台無しにする可能性がある。
2012年に政権に返り咲いた時、安倍首相は自らが率いる自民党と連立相手の公明党が持つ圧倒的な議席数を盾に憲法第9条の改正を進めようと考えていた。第9条は、日本の戦争放棄を定めた条文である。だが安倍首相はすぐにこれをあきらめざるを得なかった。
次に憲法改正の手順を変更する計画を打ち出したが、これも失敗に終わった。現在はさらにトーンを抑え、同盟国(主に米国)が攻撃を受けた場合に日本がその防衛に参加できる(=集団的自衛権を行使できる)よう第9条の解釈を見直そうとしている。だが、これも周りからの強硬な反対にあっている。
自民党内には、集団的自衛権の行使容認を巡り、公明党との連立関係が破綻するのではないかと懸念する向きが多い。先月、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」が報告書を発表した。そして、「自衛隊(として知られる軍隊)は今後、戦闘の際には制限付きではあるが、米国に後方支援を提供する。同盟国の領土に向けて発射されたミサイルを迎撃することも許されるべきだ」と論じた。これらの行為は現在許されていない。
この内容でさえも、安倍首相にとっては「後退」である。同首相は国連が認める海外ミッションにおいて、自衛隊が同盟国と共に戦えるようにしたかったのだ。米国は日本との同盟強化の一環として、この制限付きの変更を強く支持している。
創価学会は集団的自衛権に強く反対
だが平和主義を掲げる公明党にとって、安倍首相の意図は既に行き過ぎたものだ。5月29日、公明党の漆原良夫国対委員長は、安倍氏が目指す集団的自衛権の行使容認を巡って対立が深刻化した場合、連立政権からの離脱もあり得ると発言をした。これは政権の崩壊を意味する。自民党は大きな衝撃を受けた。
問題は公明党の幹部ではない。安倍首相にとって真の障害となっているのは創価学会だ。平和主義の仏教団体で、公明党の支持母体でもある。創価学会は安倍首相の計画に反対している。
この団体は国外では無名だが、900万人の信者を擁する。選挙における集票能力は抜群だ。同会の信者たち、特に300万人の女性信者たちは、国政選挙と全国の地方選挙で、何百という公明党候補を当選させるのに貢献してきた。自民党所属の政治家もまた、創価学会を頼りにしている。シンクタンクの東京財団が行った分析によると、創価学会のバックアップがなければ自民党は衆議院で約100議席を失う可能性があるという(現在は294議席を擁する)。
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