瀬戸内海に浮かぶ小さな島。
ここに不思議な郵便局があります。
その名も漂流郵便局。
でも本物の郵便局ではありません。
本人に届く事のないハガキが全国から集まってきます。
将来の自分たちの赤ちゃんに宛てたハガキ。
「パパとママの所にいつ来てくれますか?待っているからね」。
亡くなった父親に向けたハガキ。
「最後に駆けつけることができなくてごめんなさい」。
ハガキには胸に秘めていた本音があふれていました。
届かないと知りながら書くメッセージ。
人はどうしてハガキに思いを綴るのでしょうか?心の内を見つめます。
香川県の西部粟島。
人口285の小さな島です。
この島に全国から人が訪れています。
目的は…中をのぞくと…。
うわ〜人がいっぱいいますね。
実はこの漂流郵便局去年10月に瀬戸内海を舞台に開かれた現代アートのイベントで作られた作品なんです。
あっめっちゃかわいい。
あ〜ほんまや。
作者の久保田沙耶さんです。
人々の思いが流れ着くような場所を表現しようとこの作品を作りました。
するとイベントのあともここへ多くの人がハガキで思いを寄せるようになりました。
ちょっとのぞいてみましょうか。
あの日旅に出た私の財布宛。
「私のさいふ…。
どこにいるの今。
でも、ポイントカードの束から解き放たれた自由の気分だぁ!!!」。
あ〜この人財布を落としちゃったんだ。
悔しい気持ち分かるな〜。
こちらは子どもの字ですね。
「こんにちは。
ぎんいろのうちゅうじんいっしょにあそびたいほんとうにいますか?」。
思いを届けたい相手みんなさまざまですね。
漂流郵便局の開館日は月に2日。
ハガキはその場で書く事もできます。
何を書こうか長い時間悩んでいる男性がいました。
大阪からやって来た浦上輝彦さんです。
何が難しいか…。
ハガキを書こうとしていた相手は娘です。
浦上さんは10年前に離婚。
現在13歳になった娘とそれ以来一度も会っていません。
悩み続ける事20分。
ようやく書き始めました。
「桃へ元気で頑張っていますか?離れて10年ちょっと淋しい思いをさせていたらといつも気にしています」。
浦上さんはこの10年ずっと娘の事を気にかけてきました。
しかし娘を戸惑わせてしまうという思いから大人になって自分から会いたいと言ってくるまでは連絡はしないと心に決めています。
「応援することしかできなくなったけれど、いつの日にか必ず会えると信じています。
頑張れ!頑張れ!頑張れ!」。
よし。
いつか娘と笑って会える日が来るまで。
自分の思いを漂流郵便局に預ける事にしました。
漂流郵便局に通う事で自分の気持ちを整理しようとする人もいます。
訪れるのはこれで3度目です。
土居さんは夫の義廣さんを今年1月がんで亡くしました。
37年間連れ添った義廣さんとの一番の楽しみが旅行でした。
2人は去年の10月この島で行われた現代アートのイベントを訪れました。
漂流郵便局に立ち寄ったのが夫との最後の旅となりました。
夫が亡くなったあと土居さんは2通の手紙を漂流郵便局に預けました。
探しているのはその時の手紙です。
あった!これこれこれ。
あった〜2枚目。
全部見つけたぞ。
義廣さんが亡くなって3週間後に書いたハガキです。
「あなたへ昨年の秋漂流郵便局へ一緒に行きましたよね。
あっという間に駆け抜けてしまいましたが、ウソのようです」。
夫がいるのが当然と思っていた土居さん。
その死を受け入れる事ができませんでした。
2通目はその1か月半後。
「あなたへ私も残り一週間で定年退職します。
一緒に乾杯してもらえないのが残念です」。
夫がいなくなってしまった日々を実感し涙が止まりませんでした。
そして夫が亡くなって3か月半。
3通目のハガキは涙をこらえながら書きました。
「あなたへいつまで土居義廣様というハガキを書くのかなと思います。
あなたが行きたかったヨーロッパへ行く事に決めました。
不安がいっぱいですが一緒に楽しんで一緒に帰ってこようね。
良子」。
ハガキを書く事で夫に語り続ける土居さん。
バイバイ!漂流郵便局が少しずつ心の傷を癒やしています。
漂流郵便局をきっかけに長く立ちはだかっていた心の壁を乗り越えた人がいます。
ハガキを書いた大内義則さん。
都内のスーパーで店長を務めています。
ハガキはふるさとの友人に宛てたものでした。
宮城県気仙沼出身の大内さんにはしんちゃんこと西城信一さんという幼なじみがいました。
2人は両親が共働きだった事もありいつも夜遅くまで一緒に過ごしました。
好きな野球の話や将来の夢など何でも言い合える掛けがえのない親友でした。
ところが2011年3月トラックを運転中だった西城さんは東日本大震災で津波にのまれました。
親友が突然行方不明となった現実。
大内さんは信じる事ができませんでした。
震災から3年がたってもその思いは変わる事はありませんでした。
そんな時大内さんは漂流郵便局の事を知りしんちゃんにハガキを書く事にしました。
下書きに使ったノートです。
しんちゃんから目を背けてきた3年何をどう書いたらよいのか。
大内さんは自分の心と向き合い続けました。
「しんちゃん、あれから3年が経とうとしています。
しんちゃんが津波にのまれて行方不明なんだという知らせを聞いて胸がはりさける思いでした。
しんちゃんとはとても仲良しでお互いの家に遊びに行ったり、野球して遊んだよね!同級会とかがあって再会すると、しんちゃんのほうから寄って来てくれて『おぉ!おおうず元気がぁ!』って言ってくれたりすごく気を遣ってくれたよね」。
大内さんの頭に浮かんできたのは2人で過ごした楽しかった日々ばかり。
大内さんは丸2日かけてハガキを書き上げました。
思い出をたどるうちにしんちゃんが行方不明である事をようやく認める事ができました。
最後にはこう語りかけました。
「今度は寄らせてもらうから、ゆっくり思い出話しようね」。
漂流郵便局にハガキを出してから1か月余り。
大内さんはもう一通手紙を書きました。
今度の宛先は漂流郵便局ではありません。
(鈴の音)しんちゃんの両親…大内さんが手紙を送ったのはしんちゃんの両親でした。
「しんちゃんがそこに居ないという現実に向き合えず伺う事ができずにおりました。
しかしながら、此の度、自分の気持ちと向き合えた気がしました。
気仙沼に帰った際には、是非伺わせて頂きたくお願い申し上げます」。
漂流郵便局をきっかけに現実の世界に踏み出せた大内さん。
これからは心の中のしんちゃんと共に生きていこうと考えています。
瀬戸内海の小さな島にひっそり建つ漂流郵便局。
今日もまた胸に秘めた思いを持った人たちがやって来ました。
もし一枚届かないハガキを送るとしたらあなたは誰にどんな思いを綴りますか?パリ。
2014/06/01(日) 08:00〜08:25
NHK総合1・神戸
目撃!日本列島「届かないハガキに綴(つづ)る本音」[字]
瀬戸内海の小さな島に不思議な郵便局がある。ここに預けられるのは届けられることがないハガキ。大切な人にひっそりと思いを伝えようと、訪れる人が後を絶たない。
詳細情報
番組内容
泣きながらペンを執る人。悩みつつ書き上げるのに1時間以上かける人。いま、瀬戸内海の小さな島にある架空の郵便局「漂流郵便局」を訪れ、ハガキに文字をつづる人が後を絶たない。つづられるのは大切な人への感謝や別れ、かなしみなど、心の奥底にしまっていた本音ばかり。リアルな世界では決して届かないからこそ本音を吐露することができ、書き終えた人はすがすがしい表情になる。ハガキに書くことで自分と向き合う人々に迫る。
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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