クローズアップ現代「いま 福島を描くこと〜漫画家たちの模索〜」 2014.06.03

原発事故による健康への影響を巡る表現が大きな波紋を呼んだ漫画「美味しんぼ」。
その一方で、今福島を描いた漫画が注目を集めています。
福島の酪農家のもとで働く少年の成長を描いた漫画。
人間と原子力の関わりをテーマにした漫画。
「美味しんぼ」騒動以降都内の大型書店ではこうした漫画を求める人が増え品薄の状態が続いています。
原発事故や福島の現実をさまざまな形で表現してきた漫画家たち。
中には、福島第一原発で作業員として働いた経験を作品で伝えようという漫画家もいます。

原発事故から3年。
漫画家たちの模索を見つめました。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
福島第一原子力発電所の事故で放出された大量の放射性物質が健康にどのような被害をもたらすのか。
国内的にも国際的にもとても関心が高くデリケートな問題です。
環境や食べ物は安全なのかどうか。
正しい情報は何か。
大事にしなくてはならない本当のことを知りたいと思う欲求。
そして損なわれてはいけないのが言論・表現の自由です。
しかし、漫画「美味しんぼ」では健康への影響を巡る表現が大きな波紋を呼びました。
「福島の真実」と題するシリーズで福島第一原発を訪れた主人公が鼻血を出し鼻血の原因を「被ばくしたから」ともしています。
また、登場人物が福島は広域に除染しても人が住めるようにならないと思うと語っています。
こうした表現は、風評被害につながりかねないとして地元の自治体などから反論そして、抗議が相次いだのです。
「福島の真実編」の最終回で掲載した週刊誌の編集長は取材対象者の声を取り上げないのは誤りだという作者の考え方は世に問う意義あると考えたとしています。
その上で、表現の在り方についていま一度見直すと表明しています。
今回の騒動で吹き出した「傷つけられた」「生活している人を配慮してほしい」という切実な声。
その一方で、小さな不安も含め自由に物が言えることも大事という指摘もあります。
福島や原発事故を積極的に描いた漫画は、少なくありません。
表現者たちは、こうした声とどのように向き合って創作をしているのでしょうか。
多くの漫画家たちが自分たちの目で福島の人々や事故を見つめ表現の在り方を模索しています。

原発事故や事故後の福島をテーマにしたさまざまな漫画。
その作品は30を超えます。
震災の年に描かれた短編集「なのはな」。
大津波で祖母を失った少女が放射線への不安を抱えながらけなげに生きる姿が描かれています。
文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞した「あの日からのマンガ」。
現代文明を失った原発事故から50年後の世界を空想し描写しました。
漫画と社会の関わりについて研究してきた中条省平教授です。
今回の「美味しんぼ」の表現は福島の人々が抱える痛みへの創造力が欠けていたと指摘します。
その一方で、漫画家たちが福島を描き続けることには大きな意味があると考えています。

漫画家たちは福島と、どう向き合ってきたのか。
原発事故後のみずからの体験を漫画にした山本おさむさんです。
山本さんは、当時福島第一原発から70キロ離れた福島県天栄村で暮らしていました。
事故のあと、すぐに自主避難を思い立った山本さん。
みずからの心の揺れをエッセイ風に表現しました。

「な…、な…何だこりゃあ〜!!」。
「あー、爆発してる!!」。

「そのころから、僕という人間は2つに分裂した」。
「70キロも離れてればゼロではないにしても相当安全なんだよ。
ビクビクするな!」。
「直ちに影響がないなんて言い方がそもそも怪しいじゃないか!だまされたあとに泣いたって遅いんだぞ!」。

当初は、事故の影響をどう表現すればよいのか迷うことが多かったという山本さん。
避難先と福島を往復する中でそこに暮らす人々の立場を大切にしていこうと決意したといいます。

「県民の大半は避難することなくここで暮らしている」。
「しかし、彼らは放射能に無知なわけではない」。
「その危険に目をつむっているのでもない」。
「除染をし、食べ物を計測し危険を減じながらふるさとを復興しようとしている」。
「すべて福島を生きる人間のぎりぎりの営みなのだと僕は思う」。

原発事故から3年。
今、山本さんが取り組んでいるのは福島県産の食品をテーマにした作品です。
グルメ漫画「そばもん」。
全国を放浪するそば職人の目を通して日本の食の豊かさを見つめた漫画です。

山本さんは、事故直後から自宅の放射線量を測りみずから除染の効果を確かめてきました。
食品への放射線の影響というデリケートな問題をどう表現するのか。
山本さんは、みずからの経験から主観的な主張ではなく客観的なデータを示すことが大切だと考えています。
福島産のそばのデータを限られた枚数を割いて細かく紹介しています。

「このそばが福島産というだけで敬遠されて県外には全然売れないんです」。
「これが、ことしの喜多方市の秋そばのデータです」。
「すべての地域で検出せずという結果です」。

その上で山本さんは漫画を通して読者と一緒に考えたいのだといいます。

「他県産にも僅かながら放射性物質が含まれてる可能性はあるのになぜ福島産だけを避けるのか?」。
「福島産を避ければ放射能を避けたような気持ちになれる」。
「だが、それでは実際には単に、放射能に対する恐怖を頭の中だけで沈静化しただけのこと」。
「福島産を、その恐怖のスケープゴートにすべきではないと思っている」。

福島が直面する最も厳しい現実を見つめた漫画もあります。
原発作業員の日常を描いた漫画「いちえふ」。
発売以来1か月で20万部近くを売り上げています。
漫画家の竜田一人さん49歳です。
福島第一原発の作業員として不定期で働いているため個人を特定できないという条件で取材に応じてくれました。
原発事故の前漫画だけでは生計を立てることができなかった竜田さん。
事故から半年後新たな職を探していました。

見つけたのが福島第一原発での仕事。
放射線量の高い建屋内での作業も任せられました。

「俺の名前は、竜田一人。
福島第一原子力発電所で働いている」。

竜田さんは原発での作業の実態をそこで働いた者にしか分からない視点で漫画にしました。

「ああ…、鼻がかゆい」。
「はぁ〜っ、この解放感…!」。
「なかなか脱げない」。
「うっ」。

「ゴム手の中にたまった汗が飛び散ってまさに男の汗にまみれた職場だ」。

そして危険と隣り合わせで懸命に働く作業員の姿を描きました。

「こごをなんとがでぎるのは俺たちしかいねえ」。
「俺たちはここをやっつげるだけだっぺ」。

竜田さんが週刊誌に連載を始めてから9か月。
出版社には漫画が掲載されるたびに批判の声が寄せられます。
「かえって不安が募る」。
「政府や東電のプロパガンダ」。
「いちえふ」を担当する編集者の篠原健一郎さんです。
どんな批判があっても作品のスタンスは大切にしたいという篠原さん。
その一方で、福島を描くことに謙虚であるべきだと考えています。

この日、送られてきたのは次回作の原稿。
主人公が初めて原子炉建屋に入る場面です。
篠原さんが気になった表現がありました。

実質30分程度という表現では説明が不足しているため作業員が楽をしていると読者に受け止められかねないと考えたのです。

どのように表現すれば原発作業の現実が読者に伝わるのか。
篠原さんと竜田さんは常に議論を尽くしています。

竜田さんが伝えたかったのは原発作業員にとってその30分間は命を懸けた時間だということでした。
後日、修正された原稿です。
「許容被ばく量には限度があるので極力むだな被ばくをしない」。
なぜ短時間で、作業を終わらせなければならないのか説明を加えました。

福島の現実を伝えるための表現とは、なんなのか。
漫画家たちの試行錯誤が続いています。

ご覧いただいていますのは、原発事故や、事故後の福島をテーマにしたさまざまな漫画です。
スタジオに持ってきたものだけでも、31作品に上っています。
今夜、お迎えしているのは漫画家のしりあがり寿さんです。
ずいぶん多くの作品が、こうやって漫画家たちに描かれてきているんですね。
そうですね。
僕もこんなにあるなんて分からなかったんですけれども、こうやって見ると、本当にこの震災をきっかけに、漫画の世界が開かれたなっていう感じがしますね。
開かれた?
そうですね。
どちらかと言うと、漫画と言うとエンターテインメントの世界で架空の物語を今まで描くことが多かったと思うんですけれども、今度のをきっかけに、社会に出てきて、実際にそこにあるものと取り組んでる、そんな感じがします。
実際にしりあがりさんも、原発事故についても描かれているんですけど、こちらご覧いただきたいんですが、これは事故後1か月、あるいは1か月半たった時にお描きになった作品なんですけれども、これはどういう思いで、何を伝えようとされたんですか?
あのころは、何か原発に触れると、安全か、あるいは危険かって分けられてるんですね。
そうじゃないだろうと。
それが怖くて何も描かないんじゃまずいなということで、できるだけそのどちらでもない、そういう中間に落とすような視点で、しかも笑いを持って、何かを訴えられたらなと思って描きましたね。
今回の「美味しんぼ」では、その表現が摩擦をもたらしたわけですけれども、一人の漫画家、表現者として、今回の騒動というのをどのように見てらっしゃいますか?
やはり漫画が現実と取り組むということになると、どうしても現実っていうのは複雑ですし、いろんな摩擦が起きると思うんですね。
ただ、今回の「美味しんぼ」の騒動を見てると、やはりテーマを2つに分けないといけないんじゃないかと。
1つは、放射能が本当に鼻血を起こすのか、そういう問題、それはもう、専門家どうしで闘っていってもらえばいいと思うんですよ、結論出してもらえれば。
それと別に、じゃあ鼻血を表現したことが、実際に風評被害なり、福島の人の心を傷つけたか、それとは別の問題だと思うんですよね。
そちらの問題は、じゃあ、本当にその風評被害っていうのは漫画のせいなのか、ほかにいろんな要因があるんじゃないか、それはちゃんと総合的に落ち着いて考えたほうがいいと思いますね。
この問題というのは、今のVTRで山本さんは、地元の人々の立場を大切にして描きたいというふうなスタンスを強調されていましたし、竜田さんの場合は、見てきたものは描かざるをえないと。
しかし福島に対しては謙虚であるべきではないかというのが、編集者のコメントでもあったんですけど、つまり傷つける恐れがある、あるいは風評被害や偏見をもたらす可能性もあるといったときに、その表現者はどこまで自分でコントロールすべきなのかっていうのは、本当難しい問題ですよね。
そうですね。
基本的なことを言えば、僕はどこまでも本当は自由であるべきだと思うんですね、表現するのは。
そして批判するほうも自由だと。
こういった、いや、そうじゃないだろう、だけどこうじゃない?え?本当はどうなの?そうやって表現をして批判して、そのとう汰によって、何か新しい、正しいものが見つかっていくと。
そこに例えば、権威だとか、国だとかが、あらかじめこれは間違ってるとか、あっちにしろとか、決めることじゃないと思うんですよね。
活発な議論で本当のものを日々探っていく。
ただし僕も怖いんですよ、描いてて。
ご自分もスタンスを取るとき。
本当に描いてて、思ってないとこで人を傷つけちゃったり、あるいはなんて言うんですか、間違ったことを描いたりすることもあるんですね。
だから、それはなんだろう、気が弱いんですね、やっぱり。
だからそれで、じゃあ自粛するのは簡単ですよね。
トラブルが嫌だって言って、みんなが思ってることと同じことを描いたりとか、危ないことには触れなくするっていうのは、簡単なことなんだけど、それはやっぱり、世の中全体がそうなったら、ちょっとまずい、そんな感じがしますよね。

自然なとう汰というのが一番望ましいのではないかということ。
その間にリテラシーが高まっていく。
そうです、そうです。
自然なとう汰の間に描くほうも鍛えられるし、受け取るほうもだんだん情報の正しさを判断できるようになると思うんですよね。
だから今回の鼻血の問題も、こうやって議論になることで、次からもうみんな、迷わない、みんなが知識を深めていく。
だからそういうきっかけにはなっていくと思いますね。
当初、これを描き始めたころは、原発事故、あるいは大震災のあとの空気っていうものを、表現者として描くっていうことをされてきたと、前おっしゃってるんですけども、今はどういう向き合い方をされてらっしゃいますか、福島や原発に対して。
事が大きいので、とにかくみんなが、われもわれもと群がらないといけないようなものだと思うんですけども、僕自身はもう3年もたって、そろそろ福島の方、当事者の方がみずから発信すると。
例えばこの漫画は、漫画家が企画して、福島の人たちの話を漫画化すると、表現をサポートするような活動をしてる漫画なんですけれども、そうやって地元の方が、本当に自分たちの思ってることを広げてく、そういうお手伝いができればいいかなって気がしてますね。
むしろその、漫画家が表現の場を何か作り出すってことも役割?それにしても漫画っていうのは、本当に訴求力ありますね。
そうですね。
強いなと思いますね。
きょうはどうもありがとうございました。
2014/06/03(火) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「いま 福島を描くこと〜漫画家たちの模索〜」[字][再]

健康影響の描写が議論を呼んだ漫画「美味しんぼ」。こうした中、原発事故後の福島を描き続ける漫画家たちがいる。彼らの模索を通して福島を見つめることの意味を考えていく

詳細情報
番組内容
【ゲスト】漫画家…しりあがり寿,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】漫画家…しりあがり寿,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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