クローズアップ現代「アジア巨大企業と日本人技術者たち」 2014.06.05

台湾企業の実験室でひそかに行われている極秘プロジェクト。
開発メンバーはかつて日本の大手電機メーカーで働いていた技術者たちです。
日本人技術者が飛び込んだのは台湾の電子機器メーカー鴻海
(ホンハイ)。
売り上げ13兆円の巨大企業です。
ここで世界のどのメーカーも成し遂げていない次世代ディスプレイの量産に挑んでいるのです。

チームを率いるのは大手電機メーカーで開発の最前線にいたベテラン技術者。
それぞれが持つ技術を結集。
ものづくりが日本からアジアへと移っていく激変の時代を生き抜こうとしています。

アジアに新天地を求めた日本の技術者たちが生み出すメイド・イン・アジアの動き。
それは日本にそして世界に何をもたらすのか。
最前線からの報告です。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
名だたるグローバル企業のハイテク電気製品の製造を行い急成長してきた台湾の巨大企業のトップの目に日本、そして日本人技術者の強みはどのように映っているのでしょうか。
2年前、一時シャープへの出資交渉で話題となった台湾の鴻海。
ご覧のように日本の電機メーカーの売り上げをこの10年で一気に抜き去りました。
ものづくりで世界トップレベルの競争力を持つこの企業は今、工場の閉鎖や研究開発への投資の縮小に伴い日本の電機メーカーを去った日本人技術者を何人も雇い入れ専門の研究開発チームを作りより高い競争力を身につけようとしています。
目標は日本の持つ技術を単に吸収することではなく日本のものづくり技術開発力を駆使して技術開発を進め画期的な新製品を生み出すことです。
一方、活躍の場を失った日本人技術者にとって鴻海は、自分の持つ技術力人脈や経験をものづくりの現場の第一線で生かせる舞台。
より高い技術に向けた挑戦ができるのです。
鴻海で技術者がチームで日本を拠点に重要な開発を進めるこの新たな動き。
日本人技術者が台湾の巨大企業で製品開発をチームで担うというこの新しい動きはアジアのものづくりを一層競争を激化させるのではないかという見方も出てきています。
技術がそろっているこの国の人材に競争力強化に向けた重要なプロジェクトを任せた鴻海ですけども虎の子の技術が流出し日本のものづくりの弱体化を招くという懸念の声もささやかれています。
競争の最前線に飛び込んだ人々。
その姿は、技術者の将来そして日本の製造業の未来について考えさせられる問いかけを投げかけています。

120万人の従業員を擁する鴻海。
その最大の拠点中国・深センにある巨大工場です。
ディスプレイの製造ラインに現れたのは矢野耕三さん、67歳。
3年前にシャープを定年退職した日本人技術者です。
去年、鴻海から日本人技術者を集めた開発チームを作ることを依頼され入社しました。
開発のターゲットは有機ELと呼ばれる次世代ディスプレイ。
その量産化です。
有機ELディスプレイは液晶より薄くすることができ自由に曲げられる性質があります。
これまで日本をはじめ多くの企業が開発に取り組んできましたが量産化が難しく開発の中止が相次いでいます。

現在、有機ELで世界トップを走るのは韓国・サムスン。
小型ディスプレイの開発に成功しスマートフォンなどに搭載しています。
しかし、自由に曲げられるという特性を生かした量産製品はまだ登場していません。
これをいち早く実現できれば一気に巻き返せる可能性があります。

日本人による開発チーム作りを命じたのは鴻海グループを率いる郭台銘総裁です。
創業40年、郭総裁一代で年商13兆円の企業を築き上げました。
本社は台湾。
28の工場を中国各地に展開しています。

鴻海は、世界の名だたる企業からの依頼を受けて電子機器の製造を請け負うEMSと呼ばれるビジネスで業績を伸ばしてきました。
製造に特化する鴻海は今や日本の電機メーカーをはるかにしのぐ規模とスピードを備えています。
製品を形づくる金型も自社で製造。
専門の金型職人3万人が世界中から飛び込むあらゆる注文に24時間体制で対応しています。
しかし、その鴻海に今、異変が起きています。
中国の賃金が上昇し利益を圧迫するようになってきているのです。
そこで、電子部品の要であるディスプレイを独自に開発しより付加価値の高い製品の請け負いに乗り出そうしています。
これまで最先端の部品開発は韓国や日本のメーカーに頼ってきました。
それをみずから行うために日本の技術者たちの力を活用しようと考えたのです。

次世代の有機ELディスプレイの開発に挑む日本人チームの一人後藤順さん。
目指しているのは厚さ0.5ミリ以下という極薄ディスプレイの量産化です。

後藤さんが頼りにしたのは日立に勤めていたころからつきあいのある日本国内の企業です。
この日、訪れたのは神奈川県にある装置メーカーです。
ディスプレイのもとになる薄いフィルムの製造に独自の技術を持っています。

ディスプレイを作るにはフィルムをガラスに貼った状態で回路を作り最後にそれを剥がす工程が必要になります。
量産化が難しいのはフィルムが薄く、剥がす際に破れやすいためです。
この企業にはフィルムとガラスの間に特殊な装置を入れてきれいに剥がす独自の技術があります。
量産化を支える装置や材料の分野では日本は今なお、世界トップの技術力を持っています。
そうした技術を持つ企業といち早くタッグを組み育て上げる。
それが後藤さんのねらいです。

こうした高い技術を持つ企業は日本にまだ数多くあります。
しかし大手電機メーカーの発注がないため、その技術が製品化に結び付かないケースが増えているといいます。
この企業は、ディプレイの画像をより高画質にする技術を持っています。
これは、その鍵を握るレーザー加工装置の心臓部。
細かい加工を効率よく行える特殊なレンズです。

高画質のディスプレイを作るには画面を構成する発光体を細かくしなければなりません。
そのためには発光体を吹き付けていくときに使う型枠の穴をより小さく正確にくりぬく必要があります。
このメーカーでは、これまで0.1ミリだった穴の大きさを半分の0.05ミリにできる装置を作ろうと挑んできました。
しかし資金を投じる日本の大手電機メーカーが現れず開発が進んでいません。

日本人チームは台湾の本社と掛け合い、早速この装置の導入を決めました。
今回のプロジェクトを支える技術のおよそ9割は日本企業のものになる見込みです。

日本人技術者のチームを作るという大胆な戦略を打ち出した郭総裁。
大阪に子会社を設立しました。
ここで日本メーカーの事業縮小によって退職した人材を採用しています。

ことしに入り採用を加速させています。

このほかかつてシャープで有機ELの開発をしていた技術者など設計や生産技術のエキスパート10人余りを採用しました。

リーダーの矢野さん自身は1972年にシャープに入社。
電卓やテレビなど液晶技術の開発と量産化に取り組んできました。
2004年にはメイド・イン・ジャパンの象徴といわれた、亀山工場の総責任者にまで上り詰めました。
しかし、退職したころから会社の経営が悪化。
リストラが進みあとに続く技術者の活躍の場が減ってきたといいます。

チームの一人技術力のある日本企業を回っている、後藤順さんも日立の液晶工場で製造部長まで務めていました。
会社の経営が厳しくなる中で同僚が次々とリストラされていく姿に耐え切れず鴻海に飛び込みました。
契約は2年。
更新される保証はなく退職金もありません。
しかし、後藤さんはアジアの中で生き残る日本人技術者になりたいと考えています。

4月末矢野さんと後藤さんが発注したレーザー加工機が台湾に到着。
量産に向けたテストが始まりました。
より高画質のディスプレイを作るために欠かせないこの装置。
日本で埋もれていた技術が鴻海日本人チームの手で日の目を見ることになりました。
高画質の次世代ディスプレイを生み出すために初めて開けられた小さな穴。
最初の結果としてはまずまずの精度でした。
2年後の実用化を目指します。

きょうは、ものづくりの国際競争に大変お詳しい産学連携推進機構理事長の妹尾堅一郎さんにお越しいただきました。
鴻海次世代有機ディスプレイに次の一手をかけているわけですけどもそこで選んだのが日本技術者チーム。
そして日本の技術が9割を占める可能性のある…開発が今、進められているわけですけども複雑なのは、なぜ日本でそれが主体的に進まないんだろうかっていう点なんですよね。

そうですよね。
これは悔しいですよね。
たぶん、ご覧になっている方皆さん、なぜ?とこうお思いになると思うんですね。
やっぱりわれわれは直視しなくちゃいけないのは実は、こういう状況に前から、なるだろうなるだろうといわれてた。
にもかかわらず手が打てなかったっていうことが大きな原因ですよね。
どうして、こういう状況になったかっていうとやっぱり一方でねビジネスモデルだとか産業モデルをちゃんと描けなかったというのと描いてはいたかもしれないけれどもそこへ踏み込む決断ができなかった。
こういうのが折り重なって現在のこの状況を招いたともいえるんですね。
そこのところはちょっとわれわれは、やっぱり反省しなくちゃいけないのかなっていうふうには思います。
今のVTRを見て技術はそこにある。
しかし、そこに投資をしてくれる日本企業がないためになかなか研究が進まなかったっていう企業出てきましたけどもそういう意味では鴻海が日本の技術に着目をしてこうやって積極的に活用しようとしていることは日本の中小企業あるいは技術者にとっては非常に大きなプラスですよね?
私は、すばらしいチャンスだというふうに思いますね。
やっぱり日本がこういう有機ELみたいなものを基幹部品化できなかったっていうこのこと自身がやっぱりビジネスモデルをちゃんと作れなかったっていうことですね。
それからもう一つは日本の生産ではやっぱりコストがかかっちゃう。
どうしてもコスト構造は日本は諸外国に比べて圧倒的に高いですから。
そこのところにも手を入れられなかった。
このときにやっぱりもったいないのが技術者と中小企業の力なんですよね。
それをうまく彼らは引っ張ってきたということですね。
うまくやられているというそういう思いは拭えないと思います。
そうした技術者や中小企業にとってはいいかもしれないんですけど本当にそこで日本が勝っていけるのかどうかっていうのはどう見てらっしゃいますか?
これはですね日本が勝つっていっているときに完成品メーカーが勝てばいいのか部品メーカーが勝てばいいのかあるいは、そういうのを作る設備メーカーが勝てば日本が勝ったといえるか。
日本は、どうしてもですねどれも全部いっぺんに勝とうとして共倒れを起こすっていうのが日本のパターンなんですね。
大企業の場合は垂直統合という言い方しますけれどもフルセットで垂直統合で全部、自前主義で抱え込んでやろうとする。
そうするとコストは高くなるし基幹部品化もできないしみたいなことがあってみんな諦めちゃうんです。
そういう産業構造を脱しなくちゃいけないというのはようやく最近、皆さんが分かってきたんですがあとは誰が決断して誰がやるかという話だと思うんですね。
そうすると、ただ部品のところだけにとどまったりあるいは装置のところだけにとどまると利益率ってどうなんですか?
これがね今のナレーションでもあったんですけれどもこの技術の9割はやはり日本製ですっていうとなんとなく、われわれうれしい感じがするんですね。
例えばスマホの8割の部品は日本製です。
これ、すごくうれしいですよね。
でも、その部品そのものも世界で8割のシェア取ってますっていうんですが今ご指摘のとおり収益率は1%からせいぜい3%ですね。
例外的なもので10%取ってるなんていうのはまず、ない。
ところが、うまく基幹部品にしているところはそこは収益率が5割以上。
うまく完成品で全部押さえ込んだら5割、6割以上の収益率を取る。
そういうビジネスモデルをみんなは作っているんですね。
ですから、われわれはシェアが9割だから喜ぼうっていうそういう素朴な勝利感みたいなものからもう脱しないといけないんでしょうね、恐らく。
なるほどね。
そういう日本の産業の構造っていうかどうするかっていうお話と技術者一人一人を見ますと非常に画期的な製品開発に挑めるという意味ではやりがいは大きいでしょうね。
やりがいがあるでしょうね。
これから、どんどんこうした例が出てきますとあとに続く人々が出てくると思いますか?
これは続くと思います。
といいますのがね産業というのは3段階よく発展するっていうんですね。
1つ目はイミテーションの「I」なんです。
イミテーションは?
模倣。
模倣ですね。
まねっこですよね。
それから2番目はインプルーブメントこれは改善です。
3番目がイノベーションといってもう、全くモデルを変えてしまうっていうことなんですけど。
昔から日本の技術者は、新興国が模倣したいからっていって呼ばれてた。
それから、改善したいからって呼ばれてた。
だから技術者はどうしてもどっかに後ろめたいところがあったんですね。
今回は、イノベーション新しいもん、一緒に作ろうよって呼びかけられた。
だから出てきている方々みんな晴れ晴れしい顔してるのはつまり技術を自分たちで使えるぞっていうその喜びがあると思うんですね。
こういう風潮になったら恐らく日本の技術者は結構どっと行く可能性はありますね。
ただ、そうなっていくと本当は日本は技術力を維持できるだろうかというところも心配ですしその技術力を使って新たなイノベーションを生み出せるかどうかっていうところも本当にもう、ギリギリのところにこれから来ますよね。
これからどうしたらいいでしょうか?
一つはですねやっぱり技術というのは現場がないとしょうがないんでどうやって日本に現場を残すかっていうのが一方であります。
もう一つはですねこれだけの要素技術っていいますけども個々の技術だとか、個々の技術者優秀な技術者だとか優秀な中小企業はたくさんある。
でもそれを、ちゃんとした力に持ち込むようなプロデューサーっていいますかねあるいは軍師といってもいいですね。
すばらしい、強い将兵がいたらそれを束ねる作戦が練れる人が必要だって。
そういう人材がいよいよ出てこないといけないんではないかと思います。
日本にはいますか?
今は…。
どこにいますか?
育ちつつあるでしょうね。
逆にいうと、そこに注力して育てていかないとそれこそビジネスモデル産業モデルを作ったり作戦が練れるような期待をする。
どうやったら背中を押せますでしょうね?
そうですね。
ここからね、日本の経営者の腕の見せどころでしょうね。
その決断ができるかどうかその覚悟ができるかどうか。
今、一番問われているのは日本の経営者の覚悟だと思います。
きょうはどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
産学連携推進機構の妹尾堅一郎さんでした。
2014/06/05(木) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「ものづくり潮流に異変〜日本人技術者たち アジアへ〜」[字][再]

日本の大手メーカーから、アジアに活躍の舞台を求めたベテラン技術者たち。台湾の巨大メーカーの資本をバックに、新しい製品開発に挑む。日本の技術力の再挑戦を追う。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】産学連携推進機構理事長…妹尾堅一郎,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】産学連携推進機構理事長…妹尾堅一郎,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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サンプリングレート : 48kHz

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