クローズアップ現代「中高年と覚醒剤〜薬物汚染 拡大の真相〜」 2014.06.05

先月覚醒剤を使った疑いなどで逮捕された人気歌手のASKA容疑者、56歳。
そして福岡県の小学校の校長。
さらに神奈川県警の警察官も逮捕されました。
今、中高年の間で覚醒剤の乱用が広がっています。
覚醒剤に手を出す若者が減る中で密売人が中高年を狙い始めているといいます。
覚醒剤汚染に拍車をかけているのがインターネットでの密売。
これまで薬物とは無縁だった中高年が手に入れやすい状況が生まれています。
中高年の間に広がる覚醒剤汚染。
その実態に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
今夜は国谷キャスターに代わって近田が担当します。
覚醒剤の乱用が中高年の間に広がっています。
この2年だけでも医師、官僚自治体の職員、バスの運転手などいずれも40代以上の人が相次いで検挙されています。
こちらのデータをご覧ください。
覚醒剤で検挙された人の年齢別の割合です。
赤が50歳以上ピンクが40代つまり中高年を示しています。
これまず平成9年なんですけれども中高年の割合は2割余りでした。
それが徐々に増えていきまして去年、検挙者全体の半数以上を中高年が占めるようになりました。
この背景にはインターネットの普及など薬物を手に入れやすい状況が生まれていることがあると見られています。
さらに近年急速に広がってきましたいわゆる脱法ドラッグ。
この脱法ドラッグの中に覚醒剤に近い強い成分のものが現れ薬物汚染の広がりに拍車をかけていることが今回の取材から見えてきました。
家庭もあり社会的立場のある中高年がなぜ覚醒剤に手を出してしまうのか。
まずはその実態からご覧ください。
先月、全国の教育関係者に衝撃が走りました。
覚醒剤を隠し持っていた疑いで逮捕されたのは福岡県の小学校の校長松原郁弘被告です。
松原被告が学校関係者や児童に向けて書いた謝罪の手紙です。
私は偽善者でした。
本当にごめんなさい。
反省のことばをつづる元校長。
なぜ覚醒剤に手を出したのか。
周囲から、真面目で教育熱心と評判だった松原被告。
7年前、50歳の若さで校長に就任しました。
被告をよく知る、元教師の高嶋正武さんです。
校長になってから精力的に仕事に打ち込む姿が印象的だったといいます。
松原被告が作った校長だよりです。
1学期だけで19回も出していました。
そんな松原被告が覚醒剤に手を出した経緯が捜査関係者などへの取材で明らかになってきました。
きっかけは4年前の人事異動でした。
人事異動に不満を募らせ学校の運営もうまくいかなくなったころにインターネットである男と知り合ったといいます。
覚醒剤に手を出してしまう中高年。
覚醒剤事件を多く手がける弁護士がその動機をまとめた資料です。
多くが人間関係や仕事での悩みがきっかけでした。
人事再編のため上司と折り合いが悪くストレスがたまっていた。
新規の顧客開拓のため残業が増えいつも疲れが残っている。
覚醒剤事件で、警察に初めて検挙された初犯者の数です。
20代以下の若者が減る一方で覚醒剤に手を出す中高年は年々増加。
去年は1500人近くに上っています。
今、こうした中高年が密売人に狙われているといいます。
覚醒剤の密売の実態に詳しい人物です。
密売人は中高年の集まる飲食店などに出入りし偶然を装って近づいていくといいます。
社会的に立場がある中高年は密売人にとって口が堅く安心できる相手だといいます。
一方、中高年が覚醒剤に手を出しやすい環境も生まれているといいます。
薬物の捜査を専門に行う厚生労働省の麻薬取締部。
監視を強めているのはインターネット上での密売です。
山手線にて手渡し確認後のお取り引き、地方発送可能。
昨年度、インターネットの密売事件で検挙された人のうち中高年は45%。
半数近くに上ります。
アイスってなんですか?
アイスも覚醒剤です。
さまざまな隠語を使って売りさばかれる覚醒剤。
よい品質と安心確実なお取り引きを心がけておりますと。
ただいま値下げタイム実施中。
テレビショッピングみたいなよく見ることばですね。
麻薬取締部は、中高年の乱用拡大を食い止めなければさらに深刻な事態を招きかねないと危機感を強めています。
今夜は、薬物依存にお詳しい、和田清さん、そして取材に当たった野本記者とお伝えします。
よろしくお願いします。
まず野本さん、中高年の覚醒剤の乱用の実態が見えてきましたけれども、これ、売る側はどうやって近づいていってるんでしょうか?
中高年を狙う手口なんですが、密売の実態に詳しい人物によりますと、VTRで紹介したような手口以外にも、例えば中高年の集まるお店の店長さん、こういったところにまず狙いを定めて、接触をして、乱用者にしてしまう。
そして密売側に引き込んで、いわばその店側と客側の信頼関係を悪用するような形で、大量に覚醒剤を売ってしまう、そういう巧妙な手口も出てきているようなんですね。
また最近では、インターネット密売の普及、広がりですね、こういったこともあって、一般の人でも簡単に覚醒剤を入手して、さらにその手に入れた覚醒剤を売る側に回る、そういう動きも出てきているようなんですね。
警察によりますと、福岡の元校長に覚醒剤を売っていたとされる男も、みずから購入した覚醒剤、これを複数の客に売りさばいていたんですけれども、今のところ、暴力団関係者との接点というのは浮かび上がっていないそうなんです。
この覚醒剤の流通が複雑、多様化することで、中高年が覚醒剤に手を出しやすい環境が生まれているということも、乱用拡大の背景にあると見られています。
実際、広がりというと、具体的にいうと、どういう感じなんでしょうか?
捜査当局に入っている情報ではですね、ここ数年、世界中で密売されている覚醒剤が、日本に向かう傾向というのは強まっているということなんですね。
国内で押収された覚醒剤の量、この押収量なんですけれども、去年800キロを超えました。
およそ800キロ、800キロ余りになります。
この10年で最も多くなっています。
摘発される覚醒剤の量というのは、氷山の一角というふうに見られますので、相当な量の覚醒剤が、国内に入ってきているというふうに見られているんです。
若者が一方で、覚醒剤から離れている、検挙者数から見ても、乱用が収まっているような状況がありますので、こうして入ってきた覚醒剤が、今後、さらに中高年のほうに近づいていってしまう危険性があるとして、捜査当局は警戒を強めています。
和田さんは、医療現場で長年、薬物依存の実態をご覧になってきたわけですけれども、中高年の実態、どのようにご覧になりますか?
先ほど紹介ありました、中高年の検挙者数が増えていると、それは確かだと思います。
ただ、私たちは全国の精神科の病院に協力いただきまして、覚醒剤が原因で通院、あるいは入院されている患者さんの調査をやっております。
その調査によりますと、なんと覚醒剤患者の90%の方々は、30歳になるまでに、すでに覚醒剤を経験しているんですね。
そういう方々が結果的にそのあと、時々やめてみたり、また使ってみたり、その繰り返しの中で40、50になっていくという実態が分かっています。
ですから先ほども、その検挙者数、中高年が多いというのも、結果的に、やめきれずに4、50代になったと考えるほうが妥当かというのが、ちょっと私の見方です。
個別の案件については分からないですけれども、そういう見立てを先生はしてらっしゃると。
その4、50といいますと、ある程度、分別のつく年代だと思うんですけれども、なぜやめられないという状況なんでしょうか?
それははっきり言いまして、薬物依存の怖さ、そのものだと思います。
薬物依存と申しますと、これはですね、分かっていてもやめられない、やめようと思ってもやめられない、そういう事態をいいます。
これはよく、気をしっかり持って我慢すればなんとかなるだろうと考えがちなんですが、結論からいいますと、これは、脳の働きがおかしくなっております。
脳の働き。
杯。
例えば麻薬、覚醒剤、あるいはアルコール、ニコチンでも結構ですけども、最終的に依存という、はまってしまう状態を作ってしまう薬物は、薬物ごとに脳のどこに作用するかは、薬物ごとに違います。
ところがですね、共通して1か所、同じところがあります。
これは、脳内報酬系と申しまして、簡単にいうと、われわれに褒美を与えてくれる神経ですね。
そこの働きをおかしくするんです。
具体的にいいますと、学生さんが一生懸命勉強して、試験でいい成績を取る。
あるいは入学試験に合格する。
そういうときには、なんともいえない喜びが湧いてきます。
この喜びが、また再び頑張ろうという活力になるんですね。
実はその喜びを、あるいは活力を生み出す、その脳の部分のことを、脳内報酬系といいます。
ですから、努力でそうなるのはいいわけですけども、なんと薬物というものは、薬物を使えば努力もなしに、その喜びを体験できるということなんですね。
体にはどういう症状が表れるんですか?実際。
実際に体といいましょうか、結局、それがおかしくなりますと、脳がその人に薬物を使えという命令を出すようになります。
ある患者さんが言いましたが、このままでは自分はだめだから、覚醒剤を捨てたと。
捨てた瞬間、左手がごみ箱をあさってたという、そういう事態になるんですね。
深刻な状況になるわけですね。
もう体が、そうですね、要するに、考えと行動がバラバラになってしまう、そこまでいってしまうということです。
さて、次にご覧いただくのは、脱法ドラッグです。
最近、急速に広がりつつある脱法ドラッグ。
その成分が大きく変わって、覚醒剤そのものに近づいていることが、今回の取材で見えてきました。
脱法ドラッグは、ことし4月から、所持・使用が禁止されました。
その脱法ドラッグが引き起こしつつある新たな覚醒剤汚染の実態です。
薬物依存者のリハビリ施設です。
入所している人の3分の1が脱法ドラッグの経験者です。
この男性は、20代のときに友人に勧められ脱法ドラッグを始めました。
初めは2か月に1回程度でしたが徐々に頻度が増え薬物のことばかり考えるようになりました。
やがて、より強い作用を求め覚醒剤に手を出してしまいます。
覚醒剤も乱用するようになった男性。
幻聴などの症状が現れて外出すらできなくなり仕事を辞めざるをえませんでした。
脱法ドラッグを入り口により強い作用を持つ覚醒剤に手を出してしまう乱用者。
さらにここ1、2年で脱法ドラッグの成分自体が覚醒剤そのものに近づいているといいます。
薬物の研究を続けている沼澤聡教授です。
32のサンプルの成分を分析した結果、7種類から覚醒剤と極めて似た成分が検出されたのです。
これまで脱法ドラッグは入り口の薬物といわれより強い作用を求めて覚醒剤に手を出すことにつながっていると考えられていました。
しかし今、覚醒剤とほぼ同じ成分のものが次々と出現。
覚醒剤を乱用するのと同じ危険な状態になっているというのです。
覚醒剤に似た成分を持つ脱法ドラッグ。
その実態に詳しい人物は所持や使用が違法になったあとも水面下で密造が加速しているといいます。
「大変香りが強くなっているため数回に分けてご使用いただきますようお願いします」。
こうした脱法ドラッグの出現で増える事実上の覚醒剤乱用者。
失礼します。
この病院では最近覚醒剤を乱用したときと同じ症状で運び込まれる人が急増しています。
覚醒剤とほぼ同じ成分の脱法ドラッグに手を出した20代の男性です。
乱用を続けた男性は次第に激しい幻覚や幻聴などに襲われるようになり去年、運転中に事故を起こし命を落としかけました。
専門の医師は新たな脱法ドラッグのまん延が覚醒剤汚染の広がりにつながっていると警鐘を鳴らしています。
野本さん、所持も使用も禁止された脱法ドラッグが、まだこのように出回っているという、これ、どういう状況なんでしょうか?
脱法ドラッグは安くて、そして法律に触れないことをうたって、社会に急速にまん延したんですね。
覚醒剤とほぼ同じ成分の脱法ドラッグなども現れまして、乱用者による事件や事故も相次ぎました。
こうしたことから、国はことし4月から、法律で所持、それから使用を禁止して、取締りも強化してきてるんですね。
しかし、密売に詳しい人物によりますと、従来のように店舗で堂々と売買を行うということは少なくなってるんですが、インターネット上でひそかにやり取りが行われる形が一般的になってくるなど、非常にまた実態が見えにくくなっているようなこともあるということなんですね。
脱法ドラッグによって生まれつつある、事実上の覚醒剤の乱用、これをどう食い止めていくのかということが、今、重要な課題といえると思います。
和田さん、脱法ということばと釣り合わない危険性があると見ていいんでしょうか?
この脱法ということばにだまされてはいけないということです。
ついついですね、脱法といいますと、麻薬、あるいは覚醒剤よりも害が少ないのじゃなかろうかと考えがちですね。
ところがですね、そうじゃありません。
覚醒剤、麻薬というものは、長い歴史の中で使われてきて、害もはっきりしております。
ところがこの脱法ドラッグというものは急に出てきました、害が分かりません。
しかし、はっきりしてることは、覚醒剤や麻薬に比べまして、勝るとも劣らない害がある。
そういうものが少なくないという事実です。
決してだまされてはいけないと思います。
脱法ドラッグしかり、覚醒剤の乱用を防ぐ対策というのは、今後、どのようなことが考えられますか?
対策は、基本的にはまず水際で防ぐ、次は国内的に警察の取締り、さらには学校教育含めまして、使ってはだめだよ、ダメ。
ゼッタイ。
これがもう絶対必要です。
こういうことに関しましては、私はやっぱり、日本は世界一優れていると思います。
ところが、その裏返しが1つあります。
残念ながら、いったん、薬物依存に陥ってしまうと、診てくれる病院がない、あるいは相談に行く場所がない。
そういう事態です。
例えばアメリカでは、薬物依存に陥った方々は、抜け出すために薬物を使わない共同生活をする治療共同体というところがですね、なんと2000以上あります。
治療共同体。
そうです。
ところがわが国にはそれがありません。
と同時に、繰り返しになりますが、薬物依存を見てくれる病院すらない、あるいは相談所もない。
これ、実情です。
ということで、私たちの調査によりますと、薬物を最初に使った理由は、なんと75%の方が友人、知人から誘われて始めてます。
結局その友人、知人というのは薬物を使ってる人なんですね。
ですから、そういう使ってる人を減らさないことには、今後また新たに、使う人が増えてくるということになります。
さらに若者の覚醒剤、減ってきました。
2014/06/05(木) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「中高年と覚醒剤〜薬物汚染 拡大の真相〜」[字]

ASKA容疑者の逮捕など相次ぐ中高年の“覚醒剤事件”。なぜ家庭や社会的立場がある中高年層に薬物汚染が広がっているのか?知られざる実態と背景に迫る。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】国立精神・神経医療研究センター 薬物依存研究部部長…和田清,【キャスター】近田雄一
出演者
【ゲスト】国立精神・神経医療研究センター 薬物依存研究部部長…和田清,【キャスター】近田雄一

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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