日本の話芸 落語「ねずみ」 2014.06.09

(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(春風亭小柳枝)ようこそお越し下さいました。
お終いにもう一席おつきあい下さいませ。
日本人の職人技職人芸というものは昔から現代に至るまで確たるものがございますな。
昔いろんな商売で活躍を致しましたこの職人たちの中には名人上手と言われる方が随分いたそうでございます。
大工さんそして彫り物のほうで神様と言われた人に甚五郎利勝という人がおりました。
この人は飛騨山添の住人飛騨の匠三代目墨縄という人のお弟子さんなんですね。
12歳の時に弟子入りを致しまして二十歳の頃にはもう師匠墨縄が舌を巻く程のいい腕前になっていたと申します。
この墨縄の弟弟子に玉園棟梁という匠がおりました。
この人は早くから京都へ上っておりました。
甚五郎が修業のためにこの人の所へ身を寄せましてここで竹の水仙を作りました。
で御所へ献上する。
大変なお褒めの言葉を頂きまして左官を許されたんだそうですな。
そこで左甚五郎という男ができた。
後に江戸に下りまして上野輪王寺宮一品親王のご懇望を受けまして白金堂に昇り龍と下り龍を彫った。
その出来がばかになにしろ良すぎて夜な夜なこの龍が不忍池へ水を飲みにきたと申します。
ね〜龍でございますから静かに飲むんじゃありません。
ええこの不忍池の中を抜き手を切って泳ぎ回ります。
3本の爪がございます龍には。
この爪でもって鼻面を引っかかれました緋鯉が「ひごい
(ひどい)目に遭った」なんという事を言ったとか。
落首ができまして「甚五郎左が過ぎたか水を飲み」。
この甚五郎作というのは全国各所にいろいろとございますが中でも有名なのが日光東照宮のあの陽明門ね?これに彫られておりますのが「眠り猫」でございます。
牡丹の花の下で気持ちよさそうに猫が眠っている。
まぁご覧になった方は多いと思いますけどもあれは結構なんでしょうけどちょっとおかしなような気も致しますね。
大体取り合わせっていうのは決まっておりまして「梅に鶯」「菖蒲に八橋」それから萩といえば猪で…。
(笑い)紅葉というと鹿ですね。
(笑い)牡丹というと猫ではなくて蝶だったと思うんですよ。
今お笑い頂いた方は私と同じ学問のようでございますな。
(笑い)でもやはり名人の作でございます。
お聞きするところによりますとこの牡丹の花の咲く頃には人間動物が一番眠気を催す時期なんだそうですな。
で牡丹の花の下に猫を眠らせた。
「名人のやる事はどこまでそつがないな」と感心した訳でございますけども。
この甚五郎という人は大変旅好きでございまして生涯を旅で過ごしたと言われるくらい。
ただ十年程一個所に留まった居候を決め込んだ所がございました。
これは江戸でございます。
江戸は日本橋橘町大工政五郎の家に10年居候した。
居候といいますとね大体ね長くても1年か2年だと思いますが10年というのは長すぎる。
聞いてみますとこの政五郎という人が早死にを致しまして伜の政五郎二代目が政五郎を継ぎました。
まだ若いので一人前になるまで甚五郎が後見役を務めたそうでそれで10年も居たという事でございます。
まぁそうやって長い事居りますともう旅へ出たいという虫が起こりましてね。
「おい政坊やおじさんな奥州のほうへ行った事がないんだ。
伊達様のご城下も見たいし松島瑞巌寺なども行きたいと思うんだけどどうだろうね?」。
「ハア〜そうですか。
おじさん行ってらっしゃいやしょう。
ええええええ江戸の事は何も気にされないで。
ええ。
支度のほうはこっちでもって全部致しますから」。
「そうかい?ありがとうよ」。
「旅人は行きくれ竹の群雀泊まりては発ち泊まりては発ち」。
甚五郎が仙台へやって参ります。
「おじさんおじさん。
あの〜おじさん旅の人ですか?」。
「おっハア〜手甲脚絆に草鞋がけ振り分けの荷物を持ってるところを見るとおじさんは旅の人だろうね」。
「あの〜仙台へお泊まりですか?」。
「おおここへ泊めてもらおうと思ってますよ」。
「そうですか。
それでは家に泊まって頂けませんか?そうしますとお父っつぁんも私も助かるんです」。
「坊やは宿の客引きさんかい?」。
「そうじゃないんですけども」。
「まぁまぁいいやなどこへ泊まるも同じ事だ。
それじゃ坊やの所に厄介になろうじゃないか」。
「どうもありがとうございます。
でおじさん寝る時に布団を使いますか?」。
(笑い)「坊やは面白い事を言うね。
人というのは寝る時大概布団を敷いたり掛けたりするもんですよ?」。
「そうですか。
それじゃあ20文頂けますか?」。
「おお〜?前払いかい?」。
「そうじゃないんですけど布団屋さんに借りがあるんです。
それ払わないと貸してくれないんです」。
「そうかいそうかい分かりました分かりました。
20文でいいんだね?はいはいはいはいそれじゃあこれでもってお願いしますよ」。
「どうもありがとうございます。
それでおじさんおじさんをね案内したりそれから布団屋さんへ行ったりすると時間がかかりますのでおじさん一人でもって行ってくれますか?この道まっすぐ行きますとね両側に旅籠屋がズラ〜ッと並んでおりまして右側を見ていきますとね虎屋という大きな旅籠があるんです。
これはもう仙台一でございまして」。
「坊やの家はその虎屋さん?」。
「いや。
家は違うんです。
その虎屋さんのはす前のねずみ屋っていうんです」。
「ほ〜っ坊やの家はねずみ屋さん?」。
「ええ。
小さいんです。
だからよく気を付けないと見過ごしてしまいますからええお願いします」。
「そうかいそうかい坊やの家は虎屋さんのはす前でねずみ屋さん。
はいはいじゃあ探しますよ。
はいごめんなさい。
あ〜結構だね〜。
伊達様は62万石のご城下。
あ〜立派なもんだ。
ハア〜旅籠が並んでるね。
お〜これが坊やの言った虎屋さんか。
なるほど立派だね〜。
木口はいいし建て方も大したもんだああ。
へえ〜。
それでねずみ屋さんははす前と言ったな。
えっ?あ〜ここだ。
これは小さいな〜。
ハア〜虎屋さんに比べてねずみ屋さんは小さすぎるな。
ねずみもねずみこまねずみだねこれは。
はいごめんなさいよ泊めて頂きますよ」。
「あ〜おいでなさいまし。
ありがとうございます。
お泊まりで?宿外れで伜に?あ〜そうでございますか。
ありがとうございます。
すぐにお水をお持ちして足をお洗いしたいんでございますがあいにく私腰が抜けておりまして」。
「お〜話の分かる大人は腰が抜けてんのかい」。
「相すみません。
そこに手桶がございますので裏の小川でもっておみ足をお洗い下さいまし。
履き替えの下駄が揃っておりますけども」。
「あ〜履き替えの下駄っていうとこれかい?お父っつぁん。
片方は鼻緒が切れてるよ?」。
「それでは片方の足でピョンピョンと」。
(笑い)「アハハ兎だねまるで。
いや〜結構でしたよ気持ちがよかった。
なまじのねお湯だか水だか分からないようなので足を洗うよりねあ〜冷たくて大変気持ちがよかったですよ」。
「水は少のうございますが大変に澄んでおります。
広瀬川に流れ込んでおりますので」。
「ハア〜そうですか。
さぁじゃあ上げさせてもらうよ上がってねうん」。
「あっおじさんすぐ分かりました?」。
「お〜坊やか。
いやすぐに分かりましたよ。
布団屋さんには行ってきてくれましたか?あ〜そうかいありがとうありがとう」。
「でおじさんあの〜今夜御飯食べますか?」。
(笑い)「坊やは時々面白い事を言うね。
旅の人というのはね宿へ泊まったらお酒を飲んだり御飯を食べたりするもんですよ」。
「あ〜そうですか。
これから御飯炊いたりおかずを作ったりすると時間がかかりますからあの〜お寿司でもそう言ってきましょうか?」。
「お〜たまには寿司もいいね」。
「じゃああの〜5人前も言ってきます」。
「いや。
おじさんそんなには食べないよ」。
「いや。
お父っつぁんもお腹がすいてますし私も大好きなんです」。
「分かりました分かりました。
それじゃあね坊やにね財布ごと渡すからこれでもってね5人前でも10人前でも言ってきなさい。
それから酒屋さんでねお酒を1升買ってきてもらおうかね」。
「せっかくですけどもお父っつぁんも私もお酒は飲まないんです」。
(笑い)「お前さんたちに飲ませるんじゃない。
おじさんが飲むんですよ。
あ〜お願いしますよ。
アハハハハ。
伜さんかい?」。
「どうも失礼な事ばかり申し上げまして相すみませんでございます」。
「いくつになりなさるね?」。
「11になります」。
「あ〜11ね。
まだまだ遊びたい盛りだそれをね感心じゃないか。
かわいがってあげなきゃいけませんよ。
でもねお父っつぁんまぁ風来坊の私が言う事なので気にしてもらいたくないんだけどもお前さんも客商売ね〜。
奉公人の一人か二人置いたほうがお客にも喜ばれるんじゃないかね〜」。
「ハア〜お恥ずかしゅうございます。
お客様のような方でしたらよろしいんですが中には腹を立ててお帰りになってしまう方もいらっしゃいましてはい。
話ついでに年寄りのたわ言を聞いて頂けますか?アハッありがとうございます。
実は私以前はこの前の虎屋の主でございました」。
「えっ?お父っつぁんが虎屋さんの主?あっそう?それが何でこのねずみ屋さんになっちゃった?」。
「はい私早い時分に家内を亡くしまして30人からの奉公人を一人ではどうしても目が届きません。
『後添えを』と言われましてハア〜いろいろな方を紹介して頂くんですが『帯に短し襷に長し』でなかなかいい相手が見つかりません。
女中頭のお紺というのがおりましてこれは小さい時分から奉公しておりましてな店の事奥の事までよく知っておりますのでこれを後添えに致しました。
ちょうど3年前の七夕の晩でございました。
お客様仙台の七夕はご存じでございましょう?それはもう日本一でございます。
当日になりますと近郷近在はもとより遠くからもお客様がどんどんお詰めかけになりましてなもう家も二階も下もお客様でいっぱいでございまして。
二階のお客様同士が喧嘩を始めましてええ。
皿小鉢は飛ぶ怒号はする。
そしてまぁ取っ組み合いまで始まってしまい私まぁどちらのお客さんにけががあってもと夢中で間に入りました。
もみ合っているうちにどなたにだか分かりませんド〜ンと胸を突かれまして二階から下まで一気に転がり落ちまして腰をしたたかに打ちすえましてそれっきり腰が立たなくなってしまいましてすぐに帳場の脇の部屋に床を取りまして医者よ薬よ加持祈祷といろいろやったんでございますがどうしても良くなりません。
『まぁ店のほうはお紺がやってくれている』安心しておりました。
ある時この先に生駒屋さんというご同業の旅籠がございましてここの主人と私とは幼なじみ喧嘩友達でございましてその生駒屋さんが血相を変えて飛び込んで参りまして『おい卯兵衛…』。
ハハハ私卯兵衛と申します。
『お前腰の抜けたのは知ってるけど目ん玉までふぬけになってしまったのか。
一度でも子供の体を見てやった事があるのか。
お前みたいな奴とは今後つきあいはしないぞ』。
畳を蹴って行ってしまいました。
『何を言ってんだろう?』。
ところへ伜が手習いから帰って参りました。
『おいお前お父っつぁんに着物を脱いで裸を見せてみろ』。
グズグズして脱ごうとしません。
『裸にならないか』。
叱りつけるように言いますとシブシブ着物を脱いで伜の裸を見て驚きました。
生傷だらけでございまして『どうしたんだ?この傷は』。
『友達と喧嘩をした』。
『ばかを言っちゃいけない子供同士の喧嘩でこんな傷が出る訳はないどうしたんだ?言ってみろ』。
と伜がワ〜ッと泣きながら私の首ったまへしがみついてきまして『お父っつぁん。
おっ母さん何で死んじまったんだ?』。
私もその時は泣きました。
『あ〜いけねえいけねえ自分の事だけで伜の事を考えてやってなかった。
これはいけない』というのですぐに番頭の丑蔵を呼びつけまして『私たち親子は前の物置が…』昔はここが物置になっておりました。
『ここへ移るから掃除をして住めるようにしなさい』。
丑蔵が申しますには『それは旦那様ありがたい事でございます。
お客様がたて混んでおりまして一つでも部屋が空きますと助かります』と私ども親子はここに移りまして三度の物は店から運ばせておりましたがどうでございましょう。
三月もしないうちに三度の物が二度となり一度になり終いには一度も持ってこなくなる。
伜を催促にやりますと『この忙しいのに病人の面倒なんか見ていられるか』。
伜を叩いたとか小突いたとか。
『この番頭め』と腹が立ちましたけど腰が立ちません。
生駒屋さんが慰めてくれまして『な〜三度の物は家から届けさすからな辛抱するんだぞ』言われました。
それからしばらく致しますとまた生駒屋さんがやって参りまして『おい卯兵衛お前いつ丑蔵に虎屋を譲ったんだ?』。
『私はそんな事はしない』。
『いや私はあんまりやる事がひどいので丑蔵に掛け合いに行った。
すると丑蔵が言うには『生駒屋さん。
前の虎屋の主人と私どもとは何の関わり合いもございませんよ。
これこのとおり』と見せられた証文『譲り渡すものなり』。
命と引き替えの印形が打ってある。
お前印形はどうした?』。
『アア〜ッお紺に預けっ放しだった』。
後の祭りでございました。
生駒屋さんが『な〜妙な気を起すんじゃないぞ。
三度の物は今までどおり持ってこさすからな』。
お世話になっておりました。
伜が申しますには『お父っつぁん。
人間何もしないで御飯を食べさせてもらってたら犬や猫と同じだ。
家には二階に二間下に二間あるから私がお客さんを呼んでくるから泊まってもらってお父っつぁんと私ぐらい食べていけるんじゃないか』言ってくれましてそれから伜が宿外れへ出まして皆さんにご迷惑をかけてる訳でございます」。
「ハ〜ッそうですか。
世の中にはひどい人がいるもんですね〜。
お父っつぁん。
このねずみ屋という名前は大変面白いけどどうして付けたの?」。
「はあ。
先程も申しましたようにここは昔物置でございました。
ねずみがたくさん棲んでおりました。
虎屋のほうは番頭の丑蔵に乗っ取られましたがこちらは私どもが越してきましてねずみを追い出してねずみから乗っ取った。
ねずみに義理を立てましてねずみ屋と致しました」。
「そうですか。
うん。
お父っつぁん。
お客さんが一人でも二人でも来るように私が看板になるねずみを彫りましょうか?」。
「えっ?お客様彫り物をなさるんでございますか?この仙台にも彫り物のほうでは大変名の高い方がいらっしゃいますが。
ハア〜ッこりゃとんだ事でございました。
私ばっかり喋っておりましてお客様のお名前もお聞きしませんでした。
相すみません。
ハア〜宿帳をつけさせて頂きますハア〜。
この腰は立ちませんが筆のほうはなんとか立ちますので。
ご生国は?」。
「飛騨の高山でございます」。
「ハア〜飛騨の高山からお越しになったんですか?」。
「いやいや。
もうとうの昔10年も前にね江戸へ出ておりましてええ居候を務めているまぁ風来坊でございますよ」。
「ハア〜左様でございますか。
江戸は?」。
「江戸は日本橋橘町大工政五郎内左甚五郎として頂きましょうか」。
「ええっ!あなた様があの有名な甚五郎先生」。
「いやいや先生先生はやめてもらいましょう。
それは困りますよ。
お父っつぁん二階をお借りしますよ」。
お金をいくら積まれましても気の向かない仕事はしない甚五郎ですがこれはと思うと一文にもならなくても気持ちを込めて作品を作ります。
明け方までに一匹の小さなねずみを彫り上げまして。
「あ〜どこかに入れる所はありませんかね?ねずみを。
あっそこにあっ盥が…。
それちょうどいい。
そこへねそれじゃこのねずみをええ」。
そして上に竹で網をかぶせまして立て板にサラサラ〜ッと認めまして。
「お父っつぁん。
世話になったね〜。
縁と命があったらお会いしましょう」。
「ありがとうございました」。
「おい茂十来てみれよええ?ねずみ屋さんの前に立て札が立ってるだい。
『飛騨高山左甚五郎作福ねずみ』としてあるぞ。
いや甚五郎ったらあの名人の先生かな?あれ何だねずみ屋さんと何か関わりあんのかね?ええ?あっねずみ屋さん」。
「どうもどうも。
ご精が出ますな。
どうぞお一服なすって下さいまし」。
「いや。
そうもしてられねえだが今あの立て札見ただよ。
『左甚五郎先生作福ねずみ』と書いてあるがあの先生様と何か関わり合いがあるのかね?」。
「はい。
この間泊まって頂きましてねずみを彫って頂いたんです」。
「えっ?あの名人の先生に?そらぁまぁ宝物だよ〜な〜。
いや〜。
どこにいるのかね?」。
「そこの盥の中に入っておりますからどうぞ」。
「ええ〜?これか。
ヘエ〜アラララ本当だな〜よく彫れてるな〜。
木で彫った物だからな鼠色って訳にいかねえけども。
おっイエ〜ヤ〜アホッホッ。
おい茂十このねずみ動くだ」。
「ばかな事言うもんでねえ。
木で彫ったねずみが動く訳ねえでねえか。
お前はそそっかしいだよ。
手前の目ん玉動かせてねずみが動いてるように見えるだ全く。
退いてみろ本当。
ええ?おっウハハハ〜ハッあらっ本当だこら動くだ。
ウア〜ッさすが名人の作った物だな〜。
ええ?あれっ?あらまた何か書いてあるぞ。
うん。
『ただしこのねずみをご覧になった方はウ〜ン土地の人旅の人にかかわらずこのねずみ屋にお泊まり願いたくお願い致します』。
おい。
大変だぞこらぁ。
俺たちここへ泊まんなきゃなんねえ」。
「泊まるったって俺の家はここの3丁も無えだよ」。
「3丁だって2丁だって駄目だ。
先生の言ってる事だからよう」。
「あ〜そうかな〜。
それじゃあねずみ屋さん俺たちここへ泊めてもらうから」。
「ありがとうございます」。
この噂がパ〜ッと広まりました。
「聞きましたか?いや仙台のねねずみ屋という小さな旅籠らしいんですがそこにあの甚五郎先生の彫ったねずみがある。
これが動くんだそうです」。
「本当ですか?」。
「ええ」。
「行きましょう行きましょう」。
我も我もが出かけます。
「すみません3人なんですが泊めて頂けますか?」。
「ハハ〜ッありがとうございます。
お泊めしたいのはやまやまでございますが下が二間上が二間のところを48人の方が…」。
(笑い)「お泊まりでございますので相すみません」。
「あっそう。
それじゃあ廊下でもいい廊下」。
「廊下もいっぱいなんでございます」。
「あっそう。
それじゃあその隅に立って寝るから」。
「馬でございますな。
ありがとうございます」と大変な評判でございます。
一方虎屋のほうは誰が話したのでしょうか「丑蔵という男はそういうひどい男なのか」。
この噂が広まりまして客足がパッタリと絶えてしまいます。
客が絶えてしまえば30人からの奉公人も『宝の持ち腐れ』でございましてね奉公人一人去り二人去り終いには丑蔵とお紺の二人だけになってしまいました。
さぁそうなりますと怒ったのが丑蔵でございます。
と申しますのは丑蔵にも怒る訳がある。
以前から番頭の丑蔵と女中頭のお紺はできていたんですな。
主人はそれを知ってて知らないふりをしててくれるのかと思ってたらこれを後添えにしてしまった。
丑蔵にしてみれば「自分の女を寝取られた。
悔しい今にみてろ」と思ってるところにいい按配に七夕の晩に主人が二階から転がり落ちて腰を打って立てなくなった。
そこでもって「ね〜お紺さん」と袖を引きます。
少し前でしたら「何ですよ〜昔とは違うんですよ」と言っていたお紺なんですが焼け棒杭に火が付きまして二人の仲が元に戻ります。
さぁそうなりますと主人親子が邪魔でしかたがありません。
いびり出しまして思いのままに虎屋を操っている二人でございました。
この仙台様のお抱えの彫り物師に飯田丹下という人がおりました。
この人は昔三代将軍家光の前で甚五郎と一緒に腕比べを致しました。
「三蓋松に鷹」。
僅かな差で甚五郎に日本一のお墨付きが下りました。
その飯田丹下の所へ丑蔵がやって参りまして。
「先生。
お金はいくらかかっても構いません。
これこれこういう訳でございます。
手前どもに虎を彫っては頂けないでしょうか?」。
ジ〜ッと思案をしておりました飯田丹下。
「うん。
分かりました。
相手が甚五郎ならば不足はございません。
私が虎を彫りましょう」と見事な虎を彫り上げましてこれを虎屋の二階の手すりにデ〜ンと据え付けます。
ちょうどねずみ屋のねずみをギロッと見下ろす形。
今までチョロチョロチョロチョロって動いていたねずみが急に動かなくなりまして。
「お父っつぁん大変だ。
ねずみが動かなくなっちゃった」。
「ええ?どういう訳だそらぁ。
そんなばかな。
えっ?何だ?丑蔵が?うん?虎を?コンチクショー」と言った途端にス〜ッと腰が立ちまして。
これは2年前から立とうと思えば立ったんですね。
「立てない」と思って立たなかったから「立とう」と思っても立たなかった。
これは二度言うと舌を噛みますけど。
(笑い)甚五郎に手紙を出しました。
「私の腰が立ちました。
ねずみの腰が抜けました」。
(笑い)この手紙を見まして甚五郎が二代目政五郎と一緒にやって参ります。
「いや〜しばらくでございましたね。
いや大きくなって結構で。
ええええいや話は後ほど。
その早速飯田丹下さんが彫ったというその虎を見せて頂きたい。
どこに?ええ?あ〜そうですか。
あ〜これか。
ウ〜ン。
政坊。
どう思うな?この虎を」。
「ええ私は根っからの大工でございますからねええ鑿を持って彫れといっても彫れませんけど見る目は確かだと思ってます。
ええ。
他人から聞いた話ですけどね虎ってぇのは年が経ちますと頭の所に『王』という皺ができて『王頭の虎』とかなんか言いましてね。
そういう貫録も見えないし第一あの目が気に入らねえですな〜。
何か他人を怨んでいるようなあまりいい出来とは思いませんがねおじさん」。
「そう思うかい?私もそう思う。
おいねずみ。
私はなお前を彫る時に世の中の事を全く忘れて心を打ち込んで彫ったつもりだぞ。
お前なにか?あんな虎が怖いのか?」。
ねずみがヒョイと顔を上げまして…。
「あれ虎ですか?私ゃ猫かと思った」。
(拍手)
(打ち出し太鼓)
(テーマ音楽)2014/06/09(月) 15:00〜15:30
NHKEテレ1大阪
日本の話芸 落語「ねずみ」[解][字][再]

落語「ねずみ」▽春風亭小柳枝▽第657回東京落語会

詳細情報
番組内容
落語「ねずみ」▽春風亭小柳枝▽第657回東京落語会
出演者
【出演】春風亭小柳枝,斎須祥子,小口けい,古今亭半輔,三遊亭遊松,瀧川鯉○

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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