クローズアップ現代「初期認知症と診断されたら…〜どうつくる支援体制〜」 2014.06.09

今、医療技術の進歩によって認知症を初期の段階で診断できるようになっています。
ところが初期認知症の人は日常生活に大きな変化が見られないため周りから理解されにくく支援体制も万全ではありません。
周囲から孤立しうつ症状に陥るなど病状を悪化させるケースもあるといいます。
国は去年、早期の支援体制を充実させる施策を始めました。
しかしモデル事業の現場では重度の人への対応で手いっぱいな状況だといいます。
初期認知症の対策は世界各国でも大きな課題となっています。
イギリスのスコットランドでは初期の診断が出た直後から専門家を派遣。
認知症の人が前向きに生きられるようサポートしています。
初期認知症の診断を受けたあともその人らしく生きていくにはどうしたらいいのか。
日本の課題を先進地域の取り組みと比較しながら考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
将来の自分は一体どうなっていくのだろうか。
認知症と診断された方は自分の意思が保てなくなったり自分のことができなくなることへの不安や苦しみに直面するといいます。
65歳以上の6人に1人が認知症と推計され40代、50代で診断されることも珍しくありません。
脳内の血液の流れを把握する検査や脳の萎縮度合いを調べる検査などによって初期の段階で認知症の診断ができるようになりました。
早期に診断されることで進行を遅らせる薬を飲んだり周囲が本人の気持ちを理解し介護のしかたを工夫したりすることで不安や抑うつ症状をある程度改善することもできると見られています。
つまり症状が出始めたときに的確な診断を受け治療やケアを受けることで住み慣れた自宅で自立した生活を長く続けることができるのです。
しかし認知症になっても自分らしく最期まで充実した人生を送ることを可能にする診断後のサポート体制は十分ではありません。
病気について相談できる窓口をはじめ家族、友人や職場の理解そして生活支援。
国は去年から認知症施策推進5か年計画通称オレンジプランをスタートさせ早期診断と早期対応を進めようとしています。
初期の認知症の疑いがあると分かったときにどのような不安や苦しみを抱くのか。
ある女性のケースをご覧いただきます。
ことし1月東京で認知症に対して理解を深める勉強会が開かれました。
参加したのは医師や介護現場の職員さらに認知症の人たちも加わっていました。
7年前、初期の認知症と診断された藤田和子さんです。
藤田さんはみずからの体験から初期の認知症の人に対する支援の重要性を訴えました。
藤田さんに異変が表れたのは45歳のとき。
看護師として病院に勤めながら3人の娘を育て充実していたときでした。
同じ話を何度も繰り返し自分の食べたものも思い出せなくなったのです。
心配になった藤田さんは総合病院の脳神経内科を受診。
脳の血流を検査した結果医師はアルツハイマー型認知症の疑いがあると告げました。
以前なら見過ごされたかもしれない初期の症状の疑いでした。
医師からは病名を告げられただけで症状や今後の見通しなど詳しい説明はなかったといいます。
これは、ある大学が認知症の家族400人に調査した結果です。
認知症と診断した医療機関の対応について4割の人が満足していないと回答しています。
その理由として挙げられたのは詳しい説明や情報提供を受けられなかったこと。
多くの人が藤田さんと同じような不満を感じているのです。
1年後藤田さんは知人から紹介され認知症の専門医を訪ねました。
そこで正式にアルツハイマー型認知症と診断を受け薬を飲めば進行を遅らせることができると告げられます。
治療は始まったもののその後の生活を支援する体制がないことで藤田さんは苦悩を深めていきます。
買い物に出かけるときは家族の力が必要でした。
介護保険を利用できる可能性がありましたが周囲からの視線が気になり申請しませんでした。
疲労が蓄積し一日に何度も寝込む日々。
動いていた体が思うままにならないつらさは家族とも分かち合えませんでした。
同じ境遇の人と知り合って悩みを分かち合える場所も近所にはありませんでした。
誰かに、この苦しみから救ってもらいたい。
しかし藤田さんは適切なアドバイスをしてくれる公的な支援に出会うことはなかったといいます。
医療技術の進歩によって早期の診断が可能になった認知症。
しかし診断後の適切な支援は確立されていません。
認知症が初期の段階で分かっても多くの人が不安を増幅させているといわれています。
国は去年認知症の総合施策を策定しその中で早期診断・早期対応の支援体制を打ち出しました。
これまでは主に症状が悪化してから始めていた支援を認知症の疑いが出たときから始めることにしました。
その役割を担うのが看護師や医師、介護福祉士などの専門家からなる初期集中支援チームです。
昨年度から始まったモデル事業ではチームのメンバーが本人の悩みや不安を聞き取り医療や介護など適切な支援につなげていこうと取り組んでいます。
国はこうしたシステムを2017年度までにすべての市町村で整えようとしています。
しかしモデル事業の現場では初期の認知症の人をなかなか見つけ出せないという課題に直面しています。
症状に気付かず診断を受けない人や診断されても隠してしまう人が少なくないからです。
今夜は、認知症医療がご専門で、初期の認知症の方への支援にお詳しい東京都健康長寿医療センターの粟田主一さんにお越しいただきました。
今のリポートに出てこられました藤田さんのケースもそうでしたけれども、認知症と診断されたあと、医療機関の対応に対して、不満を持っている方が4割という結果が出てます。
どういう情報、どういう助言、あるいは支援というのを、求めてらっしゃるんですか?
認知症とその診断されたあとの初期の対応で大切なことはですね、一つは認知症と診断されようが診断されまいが、その認知症が始まったときは、多かれ少なかれ、認知機能が悪くなってきて、これまでできていたことができなくなってということがあって、皆さん、混乱状態に多少なると思います。
そして不安になったり、気持ちが鬱々としたりする。
そういうことが起こるということを、よく知ったうえで認知症についての説明をするということがとっても大切です。
その際に、まずはどういうところが障害されているのか、その障害はどうして起こっているのか、あるいはその障害されていないところ、大丈夫なところもたくさんあるわけで、そういうところはどういうところか。
そういうふうな説明をしたうえで、例えばアルツハイマー病という病気の説明をするわけです。
しかしながら、さらにアルツハイマー病と説明したあともとっても大事であって、決してアルツハイマー病っていう病気は、年を取ってからの病気としては、決して特別なものではないということ、それから急速に進むわけではないということ、そして今や、進行を抑制するお薬もあるということ、それから、アルツハイマー病っていう病気を持ちながらでも、それなりに豊かに暮らしていくような方法もあるんだということを、ゆっくり説明しておくということ、これがとっても大切なことであります。
混乱ということばをおっしゃったんですけども、今の藤田さんのケースも、一度にいろんなことが同時にできなくなって、非常に自分の頭の中が混乱した状態になって、そしてしかも頭痛に見舞われたりするっていう。
どういうことが起きているんですか?
アルツハイマー病の代表的な障害というか症状は物忘れ、記憶障害でありますとか、あるいは方向感覚が分からなくなるとか、そういう症状があるわけですけれども、アルツハイマー病だけじゃなくて、すべての認知症に比較的共通に見られる症状として、実行機能障害という障害がございまして、この障害は自発的、計画的、効果的に目的に向かって行為する力というんですけれども、われわれみんなが、この社会の中でうまく渡り歩いていったりとかですね、何かちょっと気分がうつうつとしているときに気分転換に行こうかとか、お金が困ってるんで、生活保護の手続きに行こうかとか、みんなそういうの、全部、実行機能というんですが、そういうところが障害されてしまうために、今までやれていたことがうまくいかない、どことなくうまくいかない。
それで2つのことをやろうとしたらうまくいかない。
しかしながら、一つ一つであれば、ゆっくり一つ一つやれば、ちゃんと大丈夫だよって、そういうことを伝えることがとっても大切なわけですね。
65歳以上の方、推計で6人に1人が認知症っていうこともいわれていますし、介護保険制度というものが2000年に出来て、もう14年たっている中で、なぜこうした診断されたあとの支援が、これほど立ち遅れてるんですか?
その背景には、その支援する側とされる側、両方、理由があるんですけれども、まず支援する側には、この介護保険制度が出来て、確かに社会資源、たくさん出来ました。
居宅介護支援制度も、今、全国に3万以上ありますし、地域包括支援センターも全国に約5000か所ぐらいあるんですね。
しかしながら、こういったところで認知症の初期を支援していこうというような、そういう知識や技術、あるいは体制はまだ十分整っていないということ。
それからもう1つは、この支援される側、われわれ、みんなに共通することなんですが、そちらにも要因がありまして、それは認知症になったら、もう最後だと、とんでもないことになってしまうという意識が、みんなにまだあるために、自分が少し変だな、認知症かなっていうふうに心配しても、自分から支援を求めに行ったり、あるいは診断を受けに行ったりとか、そういうようなことをしなくなる。
あるいはそういう気持ちがあるんで、認知症を自分のこととして考えることがあまりできなくなるんで、そういう支援体制作りも遅れてしまうというようなことがございます。
さて、海外では、診断直後、支援を行う試みが行われています。
イギリス・スコットランドの取り組みをご覧いただきましょう。
イギリス北部にある人口およそ500万のスコットランド。
4年前初期の認知症と診断されたヘンリー・ランキンさんです。
ランキンさんは当時その事実を受け止めきれず錯乱状態に陥ったといいます。
医師から半年後の診察を勧められたときもなぜか半年後に死ぬと誤解するほどでした。
ランキンさんを救ってくれたのは診断後まもなく訪ねてきたリンクワーカーと呼ばれるスタッフです。
リンクワーカーは地元のアルツハイマー病協会から派遣される臨床心理士や看護師などが担い手です。
ランキンさんを担当したトレイシー・ギルモアさんです。
ギルモアさんはまずランキンさんの誤解を解くため認知症の正しい知識を伝えました。
次にギルモアさんはランキンさんに認知症になっても社会と接点を持ち人生を前向きに生きられることも伝えました。
これはギルモアさんがランキンさんに渡した認知症の人たちの活動を収めた映像です。
皆、認知症でありながらもそのことをオープンにし生活を楽しんでいます。
この映像を見たランキンさんは認知症になってやめていた趣味に再びチャレンジする意欲が湧いてきました。
それはイギリス発祥のローンボウルズ。
仲間に認知症であることを告げできないことは助けてもらいながらかつての生活パターンを取り戻しています。
初期認知症の人を支援するリンクワーカーの制度は4年前スコットランド自治政府が掲げた認知症戦略の一環として始まりました。
その特徴は認知症の人たちの声を最大限反映させたことです。
その声を生かし臨床心理士や看護師などに研修を行い認知症専門のリンクワーカーを育成しました。
リンクワーカーは初期認知症の人や家族が家に閉じこもらないように当事者どうしの交流会や勉強会を紹介します。
さらに年金の支給や税金の控除など認知症の人への優遇策を伝えその手続きを手伝います。
こうした支援を1年間無料で提供します。
ランキンさんへの支援を始めて7か月。
ギルモアさんは一つの提案をしました。
目標を持って生きてもらうためこれからやりたいことを見つけようと言ったのです。
これはランキンさんの夢を一つ一つ記していった未来予想図です。
これらの目標は実現させることができました。
そのことでランキンさんは自信を持ち将来にも、さらなる希望を持てるようになったといいます。
リンクワーカーが、診断されたすぐあとに派遣されて、患者さんや家族の声を聞きながら、多角的な支援を行う、こういう仕組みがあると安心ですよね。
そうですね。
このへんがスコットランドの認知症支援の特徴であります、一つはそのリンクワーカー、それからもう一つは当事者の声からスタートしてるということで、このリンクワーカーは何をしているかというと、先ほど実行機能障害と言いましたけれども、この認知症の人の、ある意味では障害の特徴なんですけれども、自分自身で経済的な問題の手続きをしたりとか、それから仲間と出会ったりとか、それから気分転換を図ったりとか、生活を楽しんで、こういうところが、認知症の、特に初期のときに一番困ってるところなので、ここのところをリンクワーカーが上手に調節してくれる。
しかもこのリンクワーカーが、先ほど、未来予想図っていうね、そういうようなことをやっておりましたけれども、認知症の人と一緒に歩きながらですね、これからどうやって生きていくか、どうやって暮らしていくかということを、一緒に相談しながら歩んでくれるという、非常に認知症の人に合った支援をやってるということかと思いますね。
そうしたメニューっていうのは、今の介護保険のメニューにはないですよね。
そうですね、実際今、介護保険の、例えば介護給付サービスという、そういうもので提供される支援には、認知症の初期の、こういった自分自身で考えながら計画的に行為するところを上手にサポートするメニューがないんですね。
こういったところは、今や生活支援というふうにいわれておりますけども、こういうところを調節する役割を、日本の中でなんとか作り出していかなきゃいけないということですね。
介護保険制度のもとでは、ケアマネージャーさんに頼る部分が多いわけですけども、認知症について、詳しく知ってらっしゃる方々って、多いんでしょうか?
そうですね。
まだまだこの介護保険制度の歴史になりますけど、認知症のことをよく知って、それを支援していくというような知識や技術はまだまだ少ないんだと思うんですね。
ただ、日本の場合も少しずつ動きは出てきておりまして。
出てきてますか。
そうですね。
今、認知症コーディネーターとか、あるいは国の認知症地域支援推進員という、そういう制度が作られつつあるんですけれども、これはやっぱり認知症のことをよく理解して、認知症の人が必要な支援を上手に提供していこう。
あるいは認知症の人を支えるような地域作りをしていこう、こういうような動きが出てきておりますね。
早期に診断できるようになった、長い間、自分の自宅で今までのように暮らせるようになることが、本当に実現するために、支援体制の強化っていうのは、本当に待ったなしですね。
そうですね。
今、先ほど言いましたように、介護保険の制度の中で、インフラはしっかり出来ておりますので、地域包括支援センターもありますし、居宅介護支援事業所もありますし、あるいは訪問看護ステーションもありますし、そういうところの人たちがいわゆるリンクワーカーの役割を果たせるようになれば、日本の認知症支援策も、世界に冠たる、先進的な支援が作れるんじゃないかと思います。
きょうはどうもありがとうご2014/06/09(月) 19:30〜19:58
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「初期認知症と診断されたら…〜どうつくる支援体制〜」[字]

医療技術が進歩し認知症「初期」で診断される人が増えているが、支援の遅れが指摘されている。一方、英国では診断直後からの支援体制を整え、生活に変化が生じている。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京都健康長寿医療センター研究所研究部長…粟田主一,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】東京都健康長寿医療センター研究所研究部長…粟田主一,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:23157(0x5A75)