100分de名著 遠野物語(新番組)<全4回> 第1回「民話の里・遠野」 2014.06.11

岩手県の中央部に位置する遠野。
この地に代々伝えられてきた神々や妖怪などの不思議な民話の記録が「遠野物語」です。
作者は日本民俗学の父柳田国男。
近代化の波が地方にまで広がりつつあった明治末期に「遠野物語」が伝えようとした「戦慄」とは。
100年を超えた今柳田のメッセージを読み解きます。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…さあ今回からお送りします名著はこちら。
題名ご存じの方多いと思うんですが伊集院さんは?高校の図書室で見かけた時に「遠野物語」だと思いました。
これがどうやら地名らしいというとこまでは突き止めました。
よく突き止めました。
よかった。
それ以外は全く全く分かりません。
今回も指南役の先生が必要でございます。
「遠野物語」研究の第一人者東京学芸大学教授石井正己さんでございます。
国文学者の石井正己さん。
専門は日本の昔話や伝説など。
「遠野物語」を読む事は現代社会を見つめ直す事につながるといいます。
さあこの100年前に刊行された「遠野物語」なんですが今こそ読むべきだと先生は思ってらっしゃるんだそうですね。
100年前の日本人が何を考えてきたのかという事はある意味で私どもの心の底忘れそうになっている記憶を思い出す。
「遠野物語」を読むというのは多分そういう出会いだと思うんです。
東日本大震災があってこの社会が非常に不安定しかもリスクの多い社会を迎えていて家族とかふるさととか…さてその「遠野物語」の基本情報をまずは押さえておきたいと思います。
100年前の本でございますね。
そうなんだ!不思議な話がいっぱいあるというので有名なんですね。
そして著者は今では日本の民俗学の父として知られます柳田国男。
執筆当時は30代半ばで東京帝国大学を卒業して農商務省に入ったエリート官僚。
先生「遠野物語」を語る上で実はもう一人重要な人物がいるんですね。
この人から遠野に伝わった非常に不思議な話を聞き書きという形でまとめたものが「遠野物語」になります。
何で官僚エリートだった柳田が佐々木喜善さんから話を聞くという事になったんですか?エリート官僚として日本の各地を視察に歩くわけです。
その時にいろいろな事に気がつくわけですね。
びっくりするわけです。
佐々木喜善は東北ですので東北の今度は精神文化これを聞きたいと思っていたちょうどいい出会いが2人の中にあったんだと思います。
誰かに紹介されたんですか?ええ。
新進作家の水野葉舟という人が怪談とか妖怪なら詳しい男がいるという事で柳田国男の家に引き連れていった。
これが明治41年の11月4日です。
鏡石さんの方は急にこんなエリートに呼ばれて「この人話聞きたがってんだけど」ってなるわけじゃないですか。
どういう心積もりでその話をしてるんですか?日記を見ますと…ですからまあ怪談ですね。
ちょうど明治の終わりというのは怪談ブームでしたのでそんな雰囲気の中に佐々木喜善もいたんですね。
ところが柳田国男はその日の手帳で佐々木喜善に会って話を聞いてそのまま書き留めて…は〜面白いですね。
こんな「100年たっても読み継がれるような本の取材を今受けてます」みたいな事では全然なくてその鏡石自身は「怖い話教えてって言われたからいっぱいしてやったよ」ぐらいの。
この切り取りは大きな意味を持つと思います。
その序文にこんな言葉があるんです。
先生「感じたるままを書きたり」を赤字にして下さってますがここがやっぱり意味があるという事ですか?やはり「語ったまま」でもなく「聞いたまま」でもなく「感じる」という感受性を非常に重視したと思われますね。
非常に主体的にこの物語を作っていくというそういう告白だと思うんです。
これはね僕とても興味があるところなんですよね。
僕はラジオでしゃべる仕事をしてていろんな人たちが「今日こんな事あったよ」「うちのそばで面白い事あったよ」とかそういう話を送ってくれて一番面白いメール葉書はすごく文章がうまい人が書いたわけじゃないんですよね。
作文のお作法としては要領を得ないようなやつなんだけれどとてもいい味が伝わってくるものってあるじゃないですか。
その時にどうしたらいいんだろうと思ってたけど「感じたるまま」というのは何かヒントになりますね。
伊集院さんの苦労を柳田国男も実感したんじゃないでしょうか。
レベルが全然違うけど…我々はどうですかその心構えとしてどんな気持ちで挑んでいけばいいですか?やはり柳田国男と勝負するべきじゃないですかね。
この物語の中に入り込んでどういうメッセージがあるのかという事を受け止めていくというこれが「遠野物語」を読む極意だと思うんです。
という事でまずはその民話の里遠野が一体どんな場所なのか「遠野物語」の記述から読み解いていきましょう。
朗読は俳優の柄本佑さんです。
柳田は序文に遠野を初めて訪れた時の印象を書いています。
北上山地の中南部に位置する遠野は1,000mを超える山々に囲まれた盆地。
内陸と海岸を結ぶ交易の地として栄えました。
山あいに突然現れる遠野の町。
柳田は「山奥には珍しき繁華の地なり」と表現しています。
自然に囲まれながら人と物が集まった遠野には不思議な話が語り継がれていました。
さてここにその遠野の地図があるんですね。
ほんとに山に囲まれた小さな盆地なんですねここは。
小盆地ですね。
ここは江戸時代南部家一万石の城下町として栄えました。
ですから城下町の辺りには商工業が発達しそしてその周辺には今もそうですが水田がありある意味では弥生の文化が息づいている。
そしてその周辺には山々がありますので狩猟・採集といった縄文的な文化が息づいている。
つまり…そんなイメージで私は捉えています。
やっぱりいいあんばいだったんだろうな。
完全に開かれちゃってると開かれた広い所にわたって薄まっちゃうものが…やっぱり完全に開かれてるわけではない。
奇妙な言い方ですけど…そういう関係がここにはあったように思いますね。
その山の中の盆地である遠野のこの民話を柳田はどうも都会の人に伝えたかったようなんですね。
このような序文です。
先生気になる所いっぱいあるんですけど「平地人」というのは何ですか?柳田は当時「山には平地人に追われた人たちの言い伝えが残っている」というふうに言っています。
ですから歴史的に言うと…まさに東京の人間なんていうのは平地人そのものですね。
平地人中の平地人ですよね。
そうですね。
平地人というのはまさに都会人東京人をイメージしてこういう人たちを戦慄させたいと柳田国男は考えていたと思います。
明治という時代は文明開化が進んで文明開化というのは古いものを押しやって野蛮だとか未開だとか遅れているという事で押しやりましたが…ですからその後経済優先社会が出来上がっていきますよね。
それに対する大きなアンチテーゼにはなるだろうと思いますし…では「遠野物語」のお話をお聴き頂こうと思います。
まずは不思議なのになぜか現実味のあるお話からどうぞ。
「遠野物語」に登場する土淵村の農家。
この家で代々大切にしているオクナイサマが子供の姿で現れた話が残っています。
(鐘の音)どこからともなく現れ田植えを手伝ってくれた不思議な子供。
昼どきには姿を消したのに午後にはまた戻ってきてよく働いてくれました。
おかげで田植えは無事終了。
お礼に夕食に誘おうとしたらまた姿を消しました。
不思議に思いつつ家に帰ると縁側に足跡を見つけました。
すごいな。
「阿部さん家」っていう。
そのお家も今もずっとつながってるから。
ちゃんと住所まで名前まで明らかになっててすごく具体的に書いてあるんですね。
地名や人名がはっきり出てきます。
昔話でしたら「昔ある所におじいさんとおばあさんが」と不特定の場所不特定の人物ですけれどもこの話は本当にあった事だという事を保証していくためには…もう一つ重要なのが文体なんだそうですね先生。
伊集院さん深く関わられた「竹取物語」などは…。
アニメの声をやらせてもらいました。
「今は昔竹取の翁という者ありけり」。
「ありけり」で「竹取のおじいさんという人がいたそうだ。
だけれども実際にその人を見たかどうかというとそれはどうか分からない。
言い伝えだ」という。
ところがこの「遠野物語」にたくさん出てくるのは「つぶやきてありしに」とか「働かせて置きしに」という「し」というのは「これは本当にあった事だよ。
うそ偽りない事で見てきた事だよ」という文体なんです。
は〜。
「けり」じゃなくて。
現代語ですと「何々した」という口語では「た」になってしまいますけれども口語では区別できない微妙なところをこういう助動詞を見事に書き分けて出来事の現場に引き込んでいくんですね。
さてそんな「遠野物語」なんですがこのようなかわいらしいお話もあるんですけども次にご紹介するのは本当は怖い「遠野物語」の一部です。
遠野の人気者といえば川の妖怪カッパです。
よしできた。
何度もカッパが目撃されたという小川ではキュウリを餌にしたカッパ釣りが人気です。
いたずら者のイメージはこの話が元になっています。
一方同じカッパでもぞっとするような恐ろしい話もあります。
このあとカッパの子が生まれるまでの経緯が語られます。
あの家の娘の元には夜ごとカッパが訪ねてきているという噂が村中に広まります。
毎晩一族総出で守ろうとしましたがなすすべもありません。
そのうち娘はみごもり出産の時を迎えます。
(娘の叫び声)すごい。
ぐっとホラーのような話になり…。
名家のスキャンダルを書いてるという事ですから「遠野物語」の中では最も危ないお話でしょうね。
日本では前近代まで生まれた子供を殺してしまうという間引きという形で人口調節をしてきたという長い歴史があります。
カッパの子供なら殺してもいいだろうという大義名分というのがあったと思います。
もう一つ同じような話があります。
56話にもカッパのような子が生まれた家が登場します。
ここでは道に捨てた途端に「見せ物小屋に売ればお金になったのに」と後悔した様子が書かれています。
先生これつまり生まれたカッパを捨てるだけじゃなくて「見せ物小屋に売ればお金になったのに」という考えがふとむくむくとよぎったというますます恐ろしい感じですけれど。
つまり遠野の風習とすればカッパの子が生まれたらば殺すとか捨てるとか流すとかという形。
ところがここでもう一つ心をよぎったのは売ってお金にしようという経済的な観念が頭を持ち上げてくる。
一般的に知られているほんわかしたお話じゃなくてこういう暗いお話もあって随分イメージが違うんですね。
だけれどもこういう暗い話というのはやはり観光の場に出しにくい。
でも「遠野物語」の本質というのがこういう所にある。
私は「負の遺産」というふうに呼びましたけれどもここに「遠野物語」の大変重要な価値があると思っているわけです。
逆に今の方が家族が閉鎖的で非常にリスクが大きくてさまざまな事件が起こってるという事は皆さんご存じのとおりで。
そうして見ると…時代を超えた地域を超えた…昔はね東京の人たちは「お〜この読み物すげえな」って読んでたかもしれないんだけどそういう事も言ってられない本だと思うんです。
逆に言うと今とても分かりにくい状況で子殺しは起きるじゃないですか。
近代のきれい事とそうはなかなかいかない人間というものの現実みたいな事で言うと俺は今どっちにいるんだってちょっと思う。
多分被害者にもなれば加害者にもなるようなそういう不安定さを現代社会というのは抱えていてそこにある人間の本質というか人間の在り方人生のドラマというのを見ておかないと誤るぞというそんなメッセージのようにも読めるんですよね。
さて次回は「遠野物語」に登場するさまざまな神様と共に暮らす人々のお話です。
石井先生次回もどうぞよろしくお願いいたします。
2014/06/11(水) 12:25〜12:50
NHKEテレ1大阪
100分de名著 遠野物語[新]<全4回> 第1回「民話の里・遠野」[解][字]

日本民俗学の礎となった遠野物語を読む。官僚として地方を調査する中で、その民俗に関心を持つようになった柳田国男は、遠野出身の佐々木喜善と出会い、衝撃を受ける。

詳細情報
番組内容
佐々木喜善が柳田国男に語った不思議な言い伝え、それが遠野物語だ。遠野は盆地にある城下町で、内陸と海岸をつなぐ交通の要衝だった。そのためさまざまな地域の物語が集まった。中には、田植えを手伝う神の話もあれば、子殺しの話など怖い話もある。日本人のかつての暮らしを、負の部分も含めて全て記録しているのが、遠野物語の特徴なのだ。第1回では、カッパにまつわる話などをひもときながら、遠野物語の全体像を解説する。
出演者
【ゲスト】東京学芸大学教授…石井正己,【司会】伊集院光,武内陶子,【朗読】柄本佑,【語り】小山茉美

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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