岩手県遠野出身の青年佐々木喜善と柳田国男が出会い生まれた名著「遠野物語」。
さまざまな場所に神が宿る遠野の暮らしに柳田は日本人の原点を見いだしました。
第2回は「精霊の楽園」遠野の神々と神秘的な力を発揮する人々に迫ります。
(テーマ音楽)日本民俗学の父柳田国男の著した「遠野物語」を私たち読んでるんですけどこれ伊集院さんすごく一編一編が短いですよね。
119話で70ページぐらい。
文庫で。
だから相当短いですよ。
ショートショートとかそういうレベルじゃないですかね。
先生短いものはどのぐらい短いんですか?2〜3行で終わってしまう。
2〜3行?10行程度で大体は。
ここに人生のドラマが結晶のようにあると思いますね。
昭和45年1970年に小説家の三島由紀夫が亡くなる直前にこの「遠野物語」を大変絶賛して。
さあ第2回なんですが「遠野物語」におけます神様と人間のお話です。
「遠野物語」にはさまざまな神様がいてこれを柳田国男は民間信仰とか固有信仰の神々というふうに呼んだわけです。
ですから身の回りのすぐそばに神様がいて山にもいれば里にもいるしもちろん家にもいて便所にもいる。
へ〜。
「トイレの神様」というのが。
はしりはじゃあ…。
ここにあるわけ。
まずはご覧のようにこの3つの山に神様が鎮座したそのお話からご覧頂きましょう。
それは3人の女神の物語から始まります。
物語に登場する3人の女神は小さな祠に祀られています。
母親の神様から「よい夢を見たらよい山を与える」と言われた3人はそれぞれの山にわかれていきました。
一番よい夢を見た末っ子のお早が遠野で最も高い山早池峰山をもらいました。
2人の姉は六角牛山と石上山の神様となりました。
女神のいる3つの山には嫉妬を畏れて女性たちは入りません。
遠野の山の神様は女の神様。
…なんですね。
嫉妬が怖くて女人禁制女の人入らないという。
それと共に実は物語には出てきませんがこの遠野三山というのは男が一人前になる時に「お山がけ」といって登らなければいけない山だったんですね。
ですから男女で差があって女性は登ってはいけない男性は登らなければいけないというそういう対照性があったわけです。
実は遠野三山の他にもお山があるんですけど女神の他にもいろんな神様がいるらしくてですね中にはね男の神様もいるんですね。
ここはみんな男の神様ですね。
3つのあのお山に関しては三姉妹なんだけどそれ以外は男。
意外とごちゃごちゃになるんですね。
あるいは混沌というかカオスというか。
きちっと体系化せずにこれもありあれもありというような形で融通無碍な。
ある意味で山の神はそういう二面性を持っていて恐ろしい部分と豊かな部分という2つの顔をどうも持ってるようで。
自然も多分そうで…日本の自然というのは特にそういう側面を持っていて。
山だけじゃなくて里や家の中にも神様はたくさんいたんですね。
コンセサマ。
これは?子宝を授けてくれる神様。
オクナイサマは前回やりましたね。
田んぼ手伝ってくれたんですよね。
そしてオシラサマ。
これは遠野を代表する神様になりましたけれども馬と娘が結婚をしたというそういう話に基づく神様ですね。
そしてザシキワラシ。
出ました。
メジャーですよね名前は。
柳田国男先生ではなく水木しげる先生の漫画読んでて僕の中ではアズキアライとかと一緒になってるんだよね。
要するに子供の形で急に現れるという妖怪はいっぱいいるから。
私は子供の幽霊みたいなイメージでいましたけど神様だったんですね。
そうですね「遠野物語」では家の神の中に分類して…「たもう」というのは敬語ですから「神様が住んでいらっしゃる」とそのように「遠野物語」では書かれていますね。
家に福をもたらす神様ザシキワラシ。
このお話は村で一番裕福な家に起きた出来事です。
村人たちは近いうちに孫左衛門の家が滅びると思いました。
女の子たちが家の神ザシキワラシだと気付いたのです。
う〜ん!最初はかわいらしいキャラクターだなと思ってたんですけど急展開しましたね。
去ったら大変な事が。
この孫左衛門の家というのも実際にあった家でこの「遠野物語」を語った佐々木喜善の家のすぐ上手に屋敷があったというふうに言われていて。
今もここがその井戸だという井戸の跡が残っています。
その一人生き残った7歳の女の子というのは最近まで生きてましたよみたいな話ですよね。
そうですね。
「近き頃病みて失せたり」最近病気で亡くなったという。
ですから7歳で生き残ってその間年を過ごして老女になり家の跡継ぎはないままに死んだという事ですけど多分佐々木喜善はこのおばあさん知ってたでしょうね。
すごいですよね。
それがリアルなんですよね。
「大昔のとあるおばあさん」とか「とある女の子」の話じゃなくて。
そのおばあさんついこの間亡くなっちゃった。
「いれば話聞けたのにね」ぐらいのトーンじゃないですか。
ちょっと前にこの話してたら会えたのにぐらいの近さというのがとてもゾクゾクとするんですよね。
でねこの孫左衛門さんの家のお話は実は18話から21話まで続くんですよ。
最初は今のお話ですねザシキワラシが去るというお話。
19話は家の没落の話が描かれている。
すごいすごい。
7歳の女の子が何で一人残ったのかがそこで明らかになったわけですね。
そうなんですね。
20話と21話ではその前から実は不吉な前兆があったぞという事が紹介されている。
随分柳田はこのザシキワラシの話を丁寧に描いてるんですね。
「遠野物語」を見ていくと佐々木喜善が一人で話したかのようで聞き手の柳田国男の姿がなかなか見えてこないんですけれども多分話と話の間には「どうしてその女の子は生き残ったの?」という形の問いかけがあって佐々木喜善の持ってるものを引き出す非常に積極的な聞き手であっただろうという事が想像されますね。
なるほど。
その18話と19話の間では「ちょっと待って。
その女の子一人7歳の女の子一人何で生き残るの?どうしてですか?」っていう合いの手は絶対入ってるんでしょうね。
この聞き出し術が想像できますね。
次々と引っ張り出してくる。
そういう力がありますね。
しかも並べ替えないのがとてもいいと思います。
並べ替えると何も心に引っかからないような話になっちゃうところをそのすごみを残すためにはこの書き方なんだという気がちょっと。
「遠野物語」には単独ではなくて同じ人物の話が次々と並ぶ事もありますからやはり話の連鎖というのは大変面白い現象ですね。
これ先生ヘビと稲荷の話は何で前兆なんでしょうか。
ヘビというのは先祖の生まれ変わりでヘビを殺すというのは実は先祖殺しだと。
先祖を殺してしまう家が没落するのはある意味で当たり前というふうにもこの話は読める。
この孫左衛門の家の21話というのはこの最後の代の孫左衛門が京都の伏見稲荷に行って正一位の神階を授かって帰ってきている。
そのお稲荷さんの力で商売繁盛しようとしたわけです。
ただ一方でこの家は守り神であったザシキワラシが出ていってしまう。
中央の神様まあ神道の神様とこの在地の民間信仰の神様とがぶつかっていく。
ある意味では…この家の運命を握ってますよというそういう神々の戦いの話でもあるんですね。
基本的な疑問なんですけども柳田国男という人はこんな迷信がいっぱい残ってるんですよと思ってたのか本当にザシキワラシっていたと思ってるのか他の事もそうですけどどっちなんですか?柳田国男というのは「故郷七十年」という本を見ますと自分自身が神隠しに遭いやすい気質を持ってるとか異常心理を起こしやすいというような事を彼自身が告白していて。
「遠野物語」のこういう世界というのは自分だけではなくてこういう事が日本の中で広く行われていてそれに価値があるんだと考えていたと思いますね。
どういう事ですか?つまり不思議だからといって科学的に意味がないというふうにしてしまうのではなくて不思議である事をそのまま認めて。
なるほどなるほど。
僕も神隠し体質だったから分かりますよ。
本当!?寝ぼけちゃう子で。
寝ぼけて200mぐらい先の友達の家ではっと起きた時とかある。
うちの親はそれを神隠しと思わないからいろんなカウンセリングを受けさせられたの。
現代ではですから「神隠し」という言葉がなくなって「行方不明」という言葉で説明される。
かつては「神に隠された」「異界へ連れ去られる」というような形でそれを説明していたんです。
なるほどね。
さてそんな遠野には神々とつながる者もたくさんいたようです。
そして彼らにはある一つの特徴がありました。
「遠野物語」には神秘的な力を発揮する人々がしばしば登場します。
山の神が乗り移って占いの能力を手に入れた男は心の病を抱えていました。
「山の神の乗り移りたりとて占を為す人は所々に在り」。
「芳公馬鹿」というあだ名の男は火事を予言できます。
柱の匂いを嗅ぐ事で火の出る家が分かるのです。
少し鈍い女性が思いがけず幸運に恵まれる話もあります。
三浦という家の妻は山奥で立派な家に迷い込みますが何も盗らずに帰ります。
後日洗い物をしていると赤い椀が流れてきました。
この椀で量ると米やヒエなどが尽きなくなりました。
以来三浦家は幸運に恵まれ栄えます。
その訳は妻が迷い込んだ山中の家にありました。
不思議な話が続々と…そして何だろうな中に僕はちょっと優しさみたいなものを感じますね。
こちらが今VTRに出てきたような人たちなんですけども。
「魯鈍」というのは最近聞かない言葉ですが。
「愚かで鈍い」という事でしょうけれどもこの奥さんは軽い精神障害というかそういったものを持っていたのかもしれません。
だけれどもそれがこの家を豊かにするというそのように信じられたんですね。
96話の人は多分嗅覚が非常に発達していてそこである未来を見る力というのを持っている。
孫太郎の方は山の神の力で精神的な安定を得て占いというんですけどこれもやはり未来を見る力を持っている。
ある意味で言えば知的障害と言えるかもしれませんがそれ自体が人には超えた高い能力を持ってるという。
それがやはり共同体というか人の集まりの中では意味のある事だ。
人々がその人の存在を認めているというそういう社会を築いてきたように思いますね。
都会では労働に向いてないという事だけで要らない人だってしかねない。
それは今もそうです。
今もそうだけど果たしてその表面的な事だけで人をはかっていいかみたいなところも多分投げかけて…。
そうでしょうね。
ある意味で言えば…役立つか役立たないかという二分法ではなくて…そういう認識が多分あるんだろうと思いますね。
芳公のちょっと興味深い所はね火事防げないんですよね?「火事だ!」と言ってすごい役立つ人なんですみたいな話にしようと思ったら「みんなが気をつけて火事を防ぎました」みたいな話にもできるはずなんだけどその感じのバランスもすごくいい。
災害なんかもそうですけれども…そういったものと人々がどうやってつきあっていくかというそういう事を考えていたんだと思いますね。
不思議な力を持つ人々の物語を今読み解く意味とは。
地名とか人名などを書いてこういった家とか人が特定できるように書いているわけですね。
現代社会というのがある意味で言うと個人情報の社会ですからこういったものは実名は出しにくいそして話題にもしにくい。
だけれども100年前の日本というのはこういう形で人々が町や村を維持して生きてきたんだという事をやはり包み隠さず残しておこうという事があって。
それはやはり…現代社会とか近代化というものも否定しちゃいけないと思うのね。
それ僕ら甘んじて生きてるわけだしそれの恩恵もいっぱい受けてるから。
例えば今みたいな心の病みたいな病名が付いてそれに対する対処法とかができるという事はとてもいい事だとてもいい事なんだけどその病名がともすればレッテル貼りみたいなものになっちゃってその病名が付いた事でそのコミュニティ−の中にはいられないというような現状もついてくる。
そうなるとかつて対処法は無かったけどいられた。
医学的な対処法は全然見つかってないんだけれどもそこにいる事は許された時の資料は欲しいですよね。
今後世の中がほんとにもっと良くなっていくとするならば治療法や対処法も分かったままちゃんとコミュニティ−にいられるみたいな事が両立できるのが多分すごい世界だから。
おっしゃるとおりです。
ですから医療にしても福祉にしてもある意味で言えば施設とか制度というのを作ってその中で対応していくという事はありましたけれども逆にそれが壁になってしまうと社会の緩さというかそれがなくなってしまってもう少し普通で生きていけるためにはこういった話…前にそのまま戻る事はもちろんできないですよね。
これはやはり私たちが得てきたもので。
だけれども同時に失ってきたものもあるようで…ですからこういった人たちの魅力というか力というのを「遠野物語」がきちっと書き残したという事はやはりしっかり見つめておきたい大事な事柄だと私は思ってるわけです。
さあ「100分de名著」「遠野物語」。
次回は死と鎮魂「魂の行方」と題して「遠野物語」の死生観に迫ります。
石井先生次回もどうぞよろしくお願いいたします。
(テーマ音楽)2014/06/11(水) 23:00〜23:25
NHKEテレ1大阪
100分de名著 遠野物語 第2回「神とつながる者たち」[解][字]
日本民俗学の祖・柳田国男の遠野物語を読み解く。遠野物語には、様々な神が登場する。そして神に近く、優れた能力を持つ人々もよく描かれる。第2回では、その意味を探る。
詳細情報
番組内容
家に福をもたらし、いなくなると不幸をもたらすのがザシキワラシだ。ザシキワラシが消え、一家が全滅してしまう物語では、ひとりの少女だけが助かった。昔、子どもは、神から特殊な能力を授けられているとされていた。子どもだけが助かったのは、そうしたことを暗示していると思われる。その他にも、未来を予見する男など、神と人との距離が近いのが、遠野物語の大きな特徴だ。第2回では、遠野の神と、神につながる人々を描く。
出演者
【ゲスト】東京学芸大学教授…石井正己,【司会】伊集院光,武内陶子,【朗読】柄本佑,【語り】小山茉美
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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日本語(解説)
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