長引く景気低迷から抜け出しつつある日本。
ところが今、企業の間では人手不足の問題が急浮上しています。
自動車の部品メーカーでは生産を支える派遣社員が相次いで退職。
郵便局でもお中元シーズンを目前にパート従業員の確保が難しくなっています。
人手不足に企業側も対応を迫られています。
この会社は、従来の方針を転換。
パート従業員の正社員化に踏み切りました。
パート従業員にとってよりよい職場を作ることで人手不足を乗り切ろうとする居酒屋チェーンも出てきています。
シリーズ、人手不足ショック。
1回目のきょうは見直しを迫られる企業の戦略です。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
日本経済にとって人手不足は今後の大きな課題です。
ご覧のように、生産年齢人口は1995年をピークに減少しています。
2030年には6773万人。
ピーク時よりおよそ2000万人減ると予想されています。
長期的に働く世代が減少してきたわけですが職を求める人に対する求人の割合、有効求人倍率は景気低迷により長い間、1倍を下回っていたため人手不足は表面化していませんでした。
去年11月に6年ぶりに1倍を超え状況は一変しました。
今後、どのように人手不足に対応していくのか。
きょうとあすの2日間人手不足の実態とその対策についてシリーズでお伝えしてまいります。
1回目の今夜は変化を余儀なくされる企業の人材戦略です。
この20年過剰な人員をリストラし人件費を柔軟に調整するため企業はパートや派遣など非正規雇用の活用を進めてきました。
業種によっては正社員が、ほとんどおらずパートに依存する現場も珍しくなくなりました。
賃金が抑えられ人材開発の機会が少ない。
不安定で、働く人にとってなかなか先行きが見えない非正規という働き方ですけれども長い間、景気が低迷し働く側の選択肢は限られてきました。
今、状況が大きく変化し労働市場は、買い手市場から売り手市場に変わり始めています。
深刻な人手不足に直面しているのが外食、建築、介護。
さらに製造業そしてサービス業にも広がっています。
非正規雇用に依存してきた多くの企業が人材確保の戦略の見直しを迫られています。
まず初めに人手不足の現状からご覧ください。
千葉市の幕張地区です。
この1年の間に大型商業施設の建設などが相次いでいます。
去年、国内最大級のショッピングモールがオープン。
パートやアルバイトなど新たに6000人以上の働く場が生まれました。
ほかにも商業施設の大規模な拡張や大型の物流センターの建設で求人が一気に増加。
この影響で、飲食店などでは人手の確保が難しくなっています。
時給も急上昇。
幕張地区を含む千葉市の時給の平均は1021円。
この1年で80円上がりました。
幕張地区からおよそ10キロ離れた千葉中央郵便局。
影響は、ここにも及んでいます。
この郵便局では、お中元の配達がピークを迎える来月を前に仕分けを担当するパート従業員を新たに100人以上雇う計画です。
しかし、今月に入っても人手を確保できるめどが立っていません。
募集しているパート従業員の時給は800円。
周辺の相場を200円下回っています。
予算の制約が厳しいため地域の事情に合わせて時給を引き上げることは難しいのです。
この日は隣の郵便局が管轄する地域でも募集をかけました。
責任者の総務部長が陣頭に立って求人募集のチラシを配りました。
チラシを配った4000軒のうち応募があったのは10人。
求人募集は、今も続いています。
人手不足は製造業の現場にも広がっています。
埼玉県入間市で自動車のシートを製造している会社です。
ここでは、派遣社員が入ってすぐに辞めてしまうことに頭を悩ませています。
この日も働き始めて1週間の派遣社員が辞めるという連絡が入りました。
この工場の時給は1200円以上。
周辺と比較しても決して低くはありません。
しかし、時給を引き上げる企業が増えたことで人手の確保が難しくなっているのです。
人手不足は正社員の負担につながっています。
要員の不足を補うだけでなく次々に入れ代わる派遣社員にそのつど仕事を教えなければなりません。
会社では、正社員の負担をこれ以上、増やさないためにも人材確保の在り方を見直さなければならないと考えています。
人手不足は企業の経営戦略にも影を落としています。
全国でリラクゼーションサロンを展開する会社です。
低価格を売りに事業開始から5年で店舗数を300以上に増やしました。
しかし最近サービスの担当者の数が不足。
客からの注文を受けきれないことが大きな問題になっています。
本社には人手不足を訴える声が殺到。
売り上げは最大20%近くも失われていると見積もられています。
このままでは出店計画の見直しも検討せざるをえないと危機感を強めています。
今夜のゲストは、雇用、労働問題がご専門でいらっしゃいます、日本総合研究所の山田久さんです。
人が集まらないので、出店計画を見直す、あるいはパートが集まらないので、店舗を閉鎖せざるをえないといったニュースが、よく耳にするようになっているわけですけれども、どれくらいこの人手不足というのは深刻なんでしょうか。
日本銀行が短観ということで、3か月に1回、企業にいろいろ聞いている調査があるんですけど、その中で、人手不足感が出ていますが、全体で見ると、やはりどんどん不足感が強まっているということですね。
ただ、部分的に見ると、例えば大企業の製造業のところは実はまだ少し人が余っているということで、ばらつきがあるんですね。
ただ、例えば小売り業とか、特に建設業ですね、あるいはサービス、そういうようなところでかなり人手不足感が強くなっているという、そういう状況ですね。
とりわけ、非正規の人々が多く働く現場で、人が集まりにくくなっているという特徴はありますか?
そうですね、まさにそういうことだと思いますね。
ですから、アルバイトの方の賃金が上がっているとかっていうのかなり出てますね。
これ実は、そういう場所、産業というのは、ローコストオペレーションといいまして、要は、安い賃金で前提に、その仕事のやり方を標準化していく、業務を標準化していって、ある意味、経験のない人でも仕事ができるようにして、そうやって安い賃金でその非正規の方でも働けるようにしていった、そういうやり方をしてきたわけですね。
ただ、これはそういうやり方ができる前提があって、それは人が非常に余っているっていう状況ですね。
実際、ちょっと前までそうだったんですけれども、これ、景気が非常に悪かったってことがやっぱりあると思いますね。
ところが実は、労働人口、生産年齢人口、先ほどにも出てましたけれども、90年代からずっと減り始めてまして、どんどんどんどん減っていっているんですね。
潜在的にはそういうことで、人手不足の問題はあったんですけれども、景気が悪かったので、それが見えてこなかった。
ところがここに来て、景気がよくなってきて、一気にこの問題が出てきている。
だからそういうローコストオペレーションというような、非正規の方をたくさん活用するようなのが限界に来ているっていうようなのが、限界というか、いろいろやりづらくなってきているという、そういう局面が訪れてきているということだと思います。
こうした人手不足が深刻化する中で、企業はこれまでの戦略の見直しを始めています。
大手衣料品チェーンユニクロ。
この春、従業員制度の改革を打ち出しました。
全従業員の90%を占めるパート従業員の大幅な正社員化です。
これまでは各店舗で一握りの正社員が大きな責任を負ってきました。
この負担が一時、高い離職率の要因にもなっていました。
今回の方針転換で人手不足に対応し正社員の負担軽減にもつなげたい考えです。
地域正社員のポスターと…。
新しく導入された地域正社員制度は、転勤はなく短時間勤務も可能です。
従来のように人材を円滑に確保することは難しくなったとして優秀な人材を囲い込もうという戦略です。
仙台市内の店舗で働く佐々木小百合さん。
この制度で正社員になる予定です。
お客様、どうぞこちらご利用くださいませ。
2年以上パート従業員として働き仕事に対する前向きな姿勢が高く評価されました。
ただいま。
おかえり。
2人の子どもを育てている佐々木さん。
現在のパートという立場に不安を感じていました。
会社では、この制度でパート従業員から正社員になる人の人件費は2割増えるとしています。
それでも優秀な人材に長く働いてもらうことで新人の育成に必要な費用や時間も減らすことができると見込んでいます。
どうすれば限られた人材に長く働いてもらえるのか。
企業の模索が始まっています。
パート従業員との接し方を学ぶセミナーです。
受講しているのは人手不足に悩む飲食業や小売り業の店長などが中心です。
受講している企業はこの4月からだけで100社増え現在、450社に上っています。
受講者の一人岩田洋典さんです。
岩田さんも人手不足に悩まされてきました。
いらっしゃいませ。
岩田さんが店長を務める居酒屋です。
かつては従業員が不足したことでサービスが低下し売り上げが伸び悩んでいました。
8か月にわたるセミナーで岩田さんは従業員の仕事への意欲を高めるコツを学んだといいます。
「すかさず褒める」。
「具体的に褒める」。
先輩に怒られながら仕事を覚えた岩田さんにとってその指導法は驚きでした。
岩田さんは、褒める指導法を実践しています。
店が混雑した週末の夜岩田さんはあえて新人スタッフに接客を担当させました。
指導のしかたも工夫しています。
この1年で辞めたのは卒業した学生2人だけ。
人材が定着したことでサービスも向上し売り上げは2年前と比べて2倍近くまで伸びたということです。
働いている人々が、なるべく定着してほしいと。
今まで、非正規雇用の人々が安くて働いてくれることを前提にビジネスモデルを組み立てていたところは、今度、定着ということに重きを置かなくてはいけなくなったときに、どういうマネージメントのしかた、どういう人材の使い方をすべきだとお考えですか。
ある意味これまでは、コストが簡単に下げていけた、人件費を上げる必要もなかったわけですね。
ですから、申し上げたように、ローコストオペレーションということで、やり方を標準化して、ある意味、これ、モチベーションが上がらなくても、やり方は決まってますから、そのとおりやれば利益は勝手に出るという仕組み、ちょっと言い過ぎかもしれませんけど、そういう形だったんですね。
ところが、これはコストが下がるから、利益が上がったんですけれども、今後はそのコストが上がっていきますから、1人当たりの売り上げを上げていかないとだめなんですね。
1人当たりの売り上げを上げるには、これは決まっていることだけをやっていてはだめで、だんだん今、競争が厳しくなってますから、やはりその場その場で一人一人がモチベーションを上げて、工夫をしていく、そういうことをやっぱりこれからやっていかないとだめになっていくということだと思いますね。
自発的にそうした売り上げを伸ばすようなことをしていく人たちを育てるには、どうすればいいんですか?
これはトップマネージメント、それから現場のマネージャーがやっぱり変わっていく必要があると思いますね。
やはり企業に対して、どういう企業がビジョンを持っているのか、経営者がそれをしっかり語っていく、だから自立的に、どういうことを働いていったらいいのか、あるいはその企業のためにというふうな気持ちが出てくると思うんですね。
それから現場のマネージャーが、個別にいろいろと、やる気を起こさせていく、そういうようなことをやるからこそ、企業に愛着を持って、いろいろ工夫していこうというふうになっていくっていうことですから、トップマネージメントはビジョンを語る、それから現場マネージャーは、そのやる気を出させて、企業に愛着を持たしていくようなマネージメント、そういうことが重要になってくると思いますね。
成長を実感できるような職場にいるっていうのは、働く人にとってはうれしいことですけれども、一方で、正社員化っていうのも進めるところが出てきていますけれども、例えば地域限定正社員とか、この正社員化っていうのは、どの程度広がっていくとお考えですか?
すでに例えば、外食の分野とか、あるいは小売り、流通の分野では、もう正社員比率っていうのは、非正社員比率っていうのは頭打ちになってるんですね。
ずっとこれまで右肩で上がっていたんですけれども、そういう意味では、今後、どんどんどんどん上がっていった非正社員比率っていうのが頭打ち、場合によっては少し下がっていく可能性もあるんじゃないか。
ただ、全体として広がるかっていうと、例えば女性は、どうしても子育てをやるケースですと、非正規で働かざるをえないとか、高齢者の方っていうのは、非正規のほうがいいというケースがあるので、全体に正社員化するというのは分かりませんけれども、少なくとも右肩上がりで、非正規比率が上がっていたのは横ばい、場合によっては少し下がるような局面が出てくるんじゃないかと思いますね。
生産年齢人口の大幅な減少が予想される中で、働きたくても働けない人もいらっしゃいますし、一方で、今まで、安く、不安定な職場を繰り返し続けた方の中では、その人材育成がされず、能力開発が遅れてしまった方々もいて、本当に自分が活躍できる場にいない方もいらっしゃいますよね。
すべての働きたいと思っている方が活躍できるようにしていくためには、どういうことが必要だとお考えですか?
まさに人手不足といいながら、実は失業率っていう統計がありまして、これは実は今3%半ば、過去から見るとかなりまだ高いんですね。
それだけやはり、十分過去、例えば非正規で働き続けた結果として、能力が育成されていないようなケースがある。
ですから、そういう能力育成ということをこれから社会全体でやる必要がある。
すでに企業が一部、取り込み始めてるんですけれども、余裕のあるところはできるんですけれども、必ずしもできるわけじゃない。
そうすると、政府がやはりそういうことに協力していく、いろんなサポートをしていくという必要があるでしょうし、あるいは業界をまたいで、そういう仕組みを作っていったり、あるいは労働組合がそういうことをやる。
社会全体として、人材育成、人の活用をしていける、まさにそういう今、非常に大きなチャンスになってきているということだと思うんですね。
きょうはどうもありがとうございました。
2014/06/12(木) 00:14〜00:40
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代▽シリーズ 人手不足ショック(1)見直し迫られる企業の戦略[字][再]
様々な業種に広がる人手不足。「アルバイトの正社員化」「従業員のスキルアップ」に取り組み、人材をつなぎ止める動きが始まっている。転換期を迎える企業の人材戦略に迫る
詳細情報
番組内容
【ゲスト】日本総合研究所 調査部長…山田久,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】日本総合研究所 調査部長…山田久,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:24692(0×6074)