嵐の予感
陛下視点です。
ーーコンコン
執務室に軽やかな音が響き渡る。
それを、聞きながらのろのろと机から顔を上げるのはこの国の国王、ルイス・ハーベスターだ。
「元気ですか?陛下」
「これが元気に見えるなら、お前の目はきっと腐ってるんだろうな。ジェラルド」
扉から入って来た茶色の髪の男、ジェラルドは、ルイスの恨めしげな視線を受けにこりと笑みを浮かべる。それを見て更に顔をしかめたルイスにジェラルドはゆっくりした足取りで近づく。
「決めましたか?」
「何をだ」
分かってる癖に、と呟いたジェラルドにルイスは顔を背ける。
何を決めるのか。分かってはいるものの、ルイスはどうしても答えたくなかった。
いや、決めたくないのだ。
「側室なんぞいらん」
それがルイスの答えだった。
側室などいらん。
女などと関わりたくもない。
大広間での、あのむせかえる様な甘くキツい匂いを思いだしルイスは顔をまたしかめた。
「そうもいきません」
ジェラルドの後ろから栗色の長い髪を後ろで縛った男が、きっぱりと、どこか固い声で言い放った。
「……レイファスか」
うんざりした風に呟くルイスに、レイファスは小さくため息をついた。
「いつまで独り身でいるつもりですか?せっかく大臣達が整えてくれたんですよ。今まで貴方の我が儘につき合ったんです。いい加減、覚悟をきめて下さい」
苦虫を噛み潰したようなルイスに「そーそー」とジェラルドは相づちをうった。
そんなジェラルドを憎々しげに見上げたルイスはあることに気づく。
「ジェラルド、お前。何で濡れてんだ?」
よく見ればジェラルドの髪は濡れたせいかしっとりとしていて、どことなく服も濡れている。
そう問うと「あぁ」と何かを思い出したのか困った様な、それでいて面白そうにジェラルドは笑った。
「ちょっと気になる少女がいてね。俺さ、その子を側室合格者にしようかと思ってる」
しん、と執務室が静まり返る。
ルイスは、相手を射殺す様な視線をジェラルドへ向け、低い声で問いかけた。
「………ジェラルド、今、何て言った」
「ん?だから、側室合格者にしようかと思ってるんです。だってさ、陛下が決めないなら俺らが決めなくちゃいけないんですよ-」
「俺は側室など…っ」
「“いらない”ですよね?でも、そろそろ貴族達がうるさいんですよ。良いんですか、貴族の娘と結婚する事になっても?」
ぐっ、と詰まるルイス。
それだけは嫌だ。あいつらの娘と結婚して王妃にでもしてみたら、すぐに取り込まれてしまうだろう。
何も答えないルイスに、ジェラルドは苦笑する。
「その少女俺の部下の話によると、天涯孤独の身らしい。何でも今日、親戚に家を追い出されたんだと」
「は?何です、それ」
怪しむようなレイファスに、ジェラルドは顔を向ける。
「メリア・シュナイダー。レイファス、お前の血筋か何かか?」
ジェラルドの問いに、驚いた様にレイファスは瞳を見開いた。
「ーーメリアは、確かに、私の知り合いですが…追い出された?」
それは、聞く者をゾクリとさせる声と笑みを浮かべレイファスは言った。
普段、あまり表情を変えず感情を出さないレイファスにしては珍しい、とルイスは思った。それは、隣に立つジェラルドも同じようで、驚いたように口を開いていた。
「ンー、っと。お前の物だった?」
「…いえ。私も、その子で良いと思います」
「じゃあ決まりだな」
「ちょ、ちょっと待て。何で俺の事なのにお前らが決めている?」
「はい、決定ー。はい、決まりー」
「俺は、絶対、側室として認めんし、扱わないからな」
「うんうん。それでも言いよ。陛下が側室をとるならね」
そう言ってジェラルドと、レイファスは執務室を出て行く。
「メリア・シュナイダー。か」
嵐を持ち込みそうなーーそんな予感がルイスの中でした。
面倒くさい女じゃなければ良い。
そう思い、グッとルイスは背伸びをした。
誤字の指摘、感想ありがとうございます!
まだまだ、拙い文章ですがよろしくお願いします。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。