イラク第2の都市モスルが、黒いシャツに身を包み、ジハード(聖戦)の旗を振りかざす重装備の武装組織にあっさり掌握されたことは、世界を凍りつかせたはずだ。中東の中心に新たな「アフガニスタン」が生まれるという戦略上の悪夢の実現が大きく近づいた。
人口200万人の都市モスルは抵抗することもなく、国際テロ組織アルカイダ系の武装組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」の手に落ちた。それだけではない。イラクが今後も長く統一国家として存在できるのかという疑問も浮上してきた。
イラクで悲劇が再現される新たな局面は昨年始まった。マリキ首相のイスラム教シーア派政権がスンニ派指導者を追放すると、その5年前に米国が支援するスンニ派民兵に追い出された武装勢力がイラクに舞い戻った。2013年には約8000人のイラク人が殺された。2007~08年の血なまぐさい宗派間抗争を思い出させる大規模な殺りくとなった。
■宗派にこだわるマリキ首相
皮肉なことに、先月の総選挙ではマリキ氏の陣営が勝利した。戦闘の勃発でイラク国内の意見が2つに分かれ、強い指導者という立場を誇示したマリキ氏が勝利し、首相として3期目に入るのに必要なだけの支持を集めた。マリキ氏はシーア派のイスラム主義者であり、宗派の違いにこだわる。同氏は3年前の米軍撤退後、スンニ派やクルド人勢力と結んだ権限を分担する協定をおおよそ破棄したようなものだ。マリキ氏が政権に居座ることで、イラクに本当の災難が訪れた。
隣国シリアにおける内戦では、同国民の大多数であるスンニ派の反政府勢力が、少数派のシーア派政権と戦っており、これがイラクの政情不安につながっていることは間違いない。それだけでなく、シリア東部のスンニ派反政府勢力が、イラク西部で不満を強めるスンニ派と連携しつつあり、ユーフラテス川とチグリス川が挟む国境地帯であるジャジーラ地域がジハードの拠点と化している。
こうしたイラクのスンニ派勢力は、マリキ首相が、生活に必要な行政サービスを提供せず、スンニ派を政権から締め出すと決めたことに反発し、政府への対決姿勢を強めた。
イラクが宗派対立による分裂に苦しんでいるとしたら、それは1つのストーリーを共有する感覚を国民が持たないからだ。マリキ氏は国防省、内務省、情報省を掌握しているが、こうした組織は国内を抑圧するほかに実質的な機能をほとんどもたない。汚職がまん延し、米軍から訓練を受けたイラク軍や治安部隊は合計100万人前後の規模だが、基本物資の供給や軍需品の確保で問題を抱える。マリキ氏もこの事実を承知しているはずだ。自身の周囲は(友好関係にあるシーア派政権の)イランで訓練を受けた民兵で固めているからだ。
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