「Hoked ハマるしかけ」という本が出ていることを堀さん(@mehori)のツイートで知り、買いました。
“Hooked” 「ハマるしかけ」出版記念イベントつぶやきまとめ – Togetterまとめ
Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール
ユーザーが「ハマる」、習慣化して使い続けるサービスを作るにはどうするか? という手法を「フック・モデル」と呼び、サービス提供者向けに解説している本です。Pinterest、Instagram、Twitterなど実際に流行っているサービスを事例として分析しながら解説は進行し、あなたのサービスにフック・モデルを応用するには? というアドバイスも細かく書かれています。
SNSは「予測不能な報酬」でユーザーの行動を間欠強化する
本書の中でも特に興味深いのは、第4章「リワード(予測不能な報酬)」です。ここでは、ユーザーに予測不能な形で報酬が与えられる(一定の行動に対して報酬が与えられたり与えられなかったりする)ことが、ユーザーのモチベーションを強化するとしています。
そして、例としてFacebookやTwitterが挙げられます。例えばTwitterについての言及を引用してみると、
スクロールするとインターフェースに表示される無限の情報の流れは、魅力的なハントの報酬である。たとえばTwitterのタイムラインにはつまらない情報と必要な情報が混在している。この混在により、魅力的で予想できないユーザー体験を演出する。
(ニール・イヤール、ライアン・フーバー「Hooked ハマるしかけ」P119-120より)
ユーザーは興味をそそる情報を見つけられることもあれば、見つけられないこともある。Twitterに耽溺するユーザーはおもしろい情報を見つけるためにタイムラインをひたすらスクロールし、報酬を探し続ける……。
予測不能の報酬で行動を強化することは、「間欠強化」とも呼ばれます。どういうものかというと、こちらでは、猫をしつけるにあたって避けるべきこととして紹介されています。
猫をしつける際はまず、OK行為とNG行為を細かく取り決め、家族全員がその方針を貫き通すことが重要です。この重要性を理解するにはまず、間欠強化について理解する必要があります。
間欠強化(かんけつきょうか)とは、「たまに報酬が与えられることで、行動の頻度が高まること」を言います。この間欠強化の例としては、「パチンコに行ったら大当たりした」、「ガリガリ君を食べたら当たり棒が出た」、「ハッピーターンの中に、一枚だけ濃い味があった」などが挙げられます。ランダムで与えられる報酬を求め、もう一度同じ行動を取りたくなりますよね。間欠強化の特徴は、「行動パターンが固まるまでに時間が掛かるけれども、ひとたび習慣化してしまうと、その行動がなかなかやめられなくなる」ことです。
猫のしつけの基本~古典的条件付けとオペラント条件付けを理解し、しつけ効果を最大限に高める
SNSを利用することが「予測不能な報酬」を求める行為になる、という見立てはこれまで思い付いたことがなく、卓見であると思いました。なるほどなあ……。
この本の少々ヤバい点
嫌な言い方をしてしまうと、この本には「商売を成功させるために客の心理を操作する方法」が書かれています。倫理的な問題があると感じる人もいるでしょう。似たような内容の本はほかにもいくらでもありますし、このような本が書かれ、誰でもその手法を知れるようになるのは、いいことだと思いますが。
ただ、正直なところ、本書の冒頭にある翻訳チームの金山氏によって書かれた「はじめに」の最初に、ピンクの大きな文字で(本書はピンクと黒の2色刷り)「これはヤバい」と書かれていたのには、若干引きました。「ヤバい」の若者言葉としての意味はわかりますが、ニュアンスが広すぎるし、本書は言葉どおりの「危ない」内容もあると思われるわけで、いいのか? と。
読み進んでいくとわかりますが、そんなに無邪気に顧客の心理を操ってウハウハみたいな話にはなっておらず、著者のイヤール氏、フーバー氏もそのような反応を想定し、説明しています(P.174「操作の倫理性」のあたり)。
本書は、「ネット・バカ」の最後でニコラス・G・カー氏が「これはクールだ。これなしで生きていけるかどうか、正直自信がない」と述べたネットの力の正体をサラッと見抜き、ユーザーにとってもサービス側にとっても有益な形で活用することを考えようという、すごい本です。
でも一方で、本書が取り扱っている力は、カー氏の名前を挙げるまでもなくユーザーにとって少なからず抵抗感・嫌悪感を持たれるものでもあり、なかなかこれを語るのは難しいなあと思いました。
本書と似たような心理操作の技術を解説した本といえば「影響力の武器」があります。
「影響力の武器」では、著者のチャルディーニ氏(事業家ではなく研究者)が冒頭に「自分は騙されやすい人間である」として操作される側であると宣言し、ところどころで自分がまんまとやられたエピソードも交えながら、心理操作の手法を解説していきます。
だから読者(ユーザー、消費者である人)はチャルディーニ氏に感情移入できるし、その手法が暴かれ、対抗手段が説明されていく過程は、心理トリックを使ったミステリーのような感じで楽しむこともできます。この本は実に語り方がうまかったんだなあ……。
そもそも「Hooked ハマるしかけ」とはターゲットも違うので、比較してどうする? という話でもあるんですが、サービスの提供者ではない立場で「Hooked」を読んでいて感じる胸のザワつきには、場違いなセミナーに入り込んでしまったような、なんとも奇妙でヤバい感じがあります。
ちなみに「影響力の武器」の続編「影響力の武器 実践編―」は心理操作する側に立って実践的なアイデアを紹介するものになっていて、ある意味で「Hooked」に近いです。ただ「習慣化」ほど規模の大きなネタではなく、心理Tips集といった感じですが。
さておき「習慣化」を狙うサービスとどう付き合うか、というのは、なかなかに興味深いテーマです。